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第十三話 ていうか、公国内の大掃除とご褒美。

 ズルズル

 ドサッドサドサ


「うぎゃっ!」「ぐえっ!」「ぶぎっ」


「ロザンナさーん。連れてきたよー」


「はい、ご苦労様でした……これで大掃除は完了ですね」


 大広間に所狭しと転がされた面々を改めて眺めると……。


「……並みの男なら、狂喜乱舞する光景ね……」


 がっちり紐で拘束された全裸の(・・・)女性がゴロゴロいるのだ。特殊な趣味の方じゃなくても喜ぶだろう。

 ……多少老若男女(・・・・)で好き嫌いはあるかもしんない。あ、男はいないんだった。


「でもいいんですか? 一応腐っても役人さんですよね……ここまで捕縛しちゃうと、通常業務に差し支えないですか?」


 私の問い掛けを聞きつけたのか「助かるかも?」なんて考えたらしく、何人かの簀巻き女に目の輝きが戻った。


「それはそうでしょう。相当差し支えますが……ここで前国公派(膿み)を出し切らないと、同じことの繰り返しですからね……」


「……だそうよ。助かるなんて思わないことね」


 あ、目が死んだ。


「そ・れ・よ・り! ちゃんと約束は守ってくださいよ!」


「わかってます。あの暑い夜の密談(・・・・・・・・)は忘れてませんから」


 ……妙に意味深な言い方しないでね?


「えぇ!? 夜の密談って……!」

「サーチ……お前……」


 ほらあああっ! 完全にリルとエイミアが誤解してるしいいい!


「ちょっと聞いて! 違うから! 私はそういう趣味は……」


「……サーチ……あなたまでマーシャン化ぐっふぉっっ!!」


「違うって言ってんでしょ!!」


 エイミアの腹に突き刺さった(・・・・・・)拳を擦る。ちょっと痛かった。


「エイミア〜、大丈夫か〜…………サーチ、少しは手加減してやれよ……」


 痙攣してるエイミアを介抱しながら、リルが睨んでくる。


「う……つ、つい……」


「つい……で本気の腹パンかよ……」


「サーチ姉、『あの熱かった夜の蜜談』って何?」


「リジー、勝手に文字を変換しないで!」


 別に疚しいことがあったわけじゃない! 少なくとも私には!



 ……二日ほど前の話。



「……暑い……」


 夜。

 あまりの蒸し暑さに私は全然眠れないでいた。


「……くー……」

「……zzz」

「……おしゃかニャ……ぐう……」


 ……何であんたらはグースカ寝てられるのよ……。


「……仕方ない……お酒でも飲んでくるか……」


 一応ビキニアーマーを装備しようとして、衣服用のカゴに手を伸ばすと……。


 ぷにっ


「ん?」


 何か生物的感触?

 視線を向けると……。


「こ、今晩は……」


 ……何故かロザンナさんがいた。しかも透っけ透けのネグリジェ姿で。

 ん〜……大きいけど垂れ気味……。


「……何してんのよ……」


「サーチさんに用事がありまして」


 用事? こんな真夜中に?


「まさか……夜這いとか言わないよね……?」


「うふ。そうですよ」


 ごっ!


「ぶげっ!」


 がん! がん! どご!


「ちょっ! じょ、冗談! 冗談です! あだっ! がふっ!」


 ぼか! ばき! ごすごすごす! びし! ばきゃ!


「ぎゃ! げふ! や、やめでええ! うげえ!」



「……だから次の日、ロザンナさんボロボロだったのか」


「何度も冗談だって言ったんですが……」


「冗談でも、やっていいことと悪いことがあるのよっ!!」



「はあ……はあ……」


「ほ、本当に冗談ですからね……?」


「それでも半径2m以内は侵入禁止だからね!」


 ≪偽物≫(イミテーション)でリングブレードを作ったまま叫ぶ。


「……わかりました」


 何でちょっと残念そうなのかな!? 恐怖しか感じないから、やっぱビキニアーマー装備しよ。


「それで? 何の用ですか?」


 こんな時間に人目を忍んで来たってことは……重要な案件なはず……よね?。


「ええ……あなたに個人的な依頼です」


 個人的っすか……。


「……変な依頼じゃないでしょうね……」


 それを聞いたロザンナさんは妖艶に笑い。


「ふふ……『変な依頼』ですか? 何を想像したのでしょうね……うふふ」


 めきっ!


「うげえっ!」


 ごきっ! ぼきっ! みしみし……! ぼっきぃ!


「ぎゃ! げえ! し、死ぬ! 死ぬ! 死にますってえ!!」


 めきゃごきゃ! ぼきめきぐきぃ! ぐっしゃあ!


「うごおおおおおおおおおおおおっ!!!」



「よ、よく生きてたなあ……」


「だから歩くたびに関節がポキポキ鳴ってた……」


「うふふ……サーチさんて意外とウブなんですね……すいませんごめんなさい謝りますからハンマーしまってごめんなさい」



「……だからその手の冗談はやめろって言ってんの!」


「わ、わかりましたから……ほっ! 『ごきっ』あ、戻りました戻りました」


 ……自分で関節戻すって普通は出来ないんだけど……。


「……さっさと寝たいから、早く用件を言って」


「はい……依頼したいのは前国公派の排除です」


「前国公派の排除ねえ……生死は?」


「問いません」


 排除……しかも生死は問わない……人数が多そうね……私だけだと難しいか。


「……パーティとしてなら受けるけど……」


「その判断はお任せします。ただ『誰にも口外しない』ということを厳守していただければ」


「……仲間にも?」


「もちろんです。この計画は極秘で進めていますので」


 ……みんなには言わずにか。まあ巻き込む形に持っていけば、何とかなるけど……。


「計画してるってことは……一網打尽にするつもりで?」


「そうです。私があいつらを言いくるめて謁見の間に集め、あなた方が倒す……という流れです」


「でもロザンナさんもいるんでしょ? いくら何でも依頼主(ロザンナさん)を人質にされたら……」


「ご心配なく。その場では私が黒幕(・・・・)なんですから」


 ? ……………………ああ、なるほどね……。


「……ラスボスの振りして、最後にロザンナさんが残ったところでネタばらし……っていうわけ?」


「概ねそう受け取っていただいて結構です」


「……わかったわ。その依頼受けます」


「ありがとうございます」


 あとは報酬を決めるだけか……。

 ていうか!


「ロザンナさん? あんたさ、ここに来てることがバレたら、大変なんじゃないの?」


「そうですね」


 そうですねって……何を呑気な……。


「大丈夫です。私は侍女達に『サーチさんに夜這いしてきます』と宣言してきましたから」


 ちょっとおおおっ!!


「確かに、それならロザンナさんがここにいてもおかしくないかもしれないけど! 私が誤解されるじゃない! どうしてくれるのよおおっ!!」


「……まあ……『ロザンナに抱かれた女』というレッテルが貼られるだけ」


 ざくっ!


「ぎいあああ! 斬れてる斬れてる斬れてるううっ!」


 ざくっ! ずばっ! どすっ! ぶすっ! ざしゅざしゅざしゅ!


「ま、や、ちょ……マジで死ぬ……ぐ……が」


 ずばばばばばばばっ! どすぶしゅどすうっ!


「……ぐふっ」



「おいっっ! 『ぐふっ』とか言ってたぞ!? マジで死んだんじゃねえのか!」


 いや、死んだらここにロザンナさんいないでしょ……。


「つーかサーチ! つっこみのレベル超えてる! 殴って外して最後は斬るって……」


「よく言うじゃない。『せっかくだから〜』てヤツ」


「せっかくだからの意味がわかんねえよ!」


「落ち着いてください、リルさん」


「それとロザンナさん! なんで生きてるんだよ!! 『外して』の辺りから怪しかったけど『斬る』辺りは即死級だろ!!」


 ロザンナさんは困った顔をしながらも答えた。


「……運と気合いですよ」


「運と気合いで乗り切れるかああああ!!」


「それより……報酬は……」


「ちゃんと用意してあります。我が国でも一つしかない物ですから大切にしてくださいね」


「やったあああ!」


「? ……サーチ姉、何をもらった?」


「ん、これはね……」



「……何でこんだけ斬っても死なないのか、ようやくわかりましたよ……」


「右手右手っと……ありました……はい、くっつきました」


 プラモデルじゃないんだから。


「ロザンナさん、ゾンビだったんですね?」


「何で私がゾンビなんですか!! だいたい腐ってないでしょう!!」


「……じゃあ……アンデッド?」


「そうです……誰にも言わないでくださいね」


 ……言っても信じないでしょ……。


「ああ、それと報酬ですが……〝死神の大鎌〟(デスサイズ)を楽に運ぶ方法でしたね?」


「……あるの?」


「これなら簡単に運べますよ」


「そ! それって……」



「……無限の小箱(アイテムボックス)よ」

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