第十二話 ていうか、後片付けと残っていたゴミの大掃除♪
男の人達を罵倒するシーンがありますのでご注意ください。
「マーシャン相変わらず……」
エイミアがボソリと言った言葉の後半は、すぐに検討がついた。
「「「可愛い女の子好きですよね〜……」でしょ?」だろ?」
「はあ……まあ……それもそうなんですけど……」
エイミアは何か寂しそうだ。
「? ……どうしたの?」
「あ、はい……何だかんだ言って、マーシャンって女王様なんだな〜……って……」
「まあ……腐っても女王様ね……」
「いや、腐ってるっていうレベルか?」
「腐っていく先に新たな境地を見出だした模様」
どんな境地だよ!
「……………………皆が言う事を否定できない……ごめんねマーシャン……」
いや、エイミアは悪くないからね?
「で、マーシャンがどうしたのよ?」
「……何か……だんだん遠くなっていくような……もう一緒に冒険できないんじゃないかって……」
……なるほど。そういう心配か。
「それなら全く問題ないわ。本人は冒険に出る気バリバリじゃない」
「え? ええ!? 本当ですか! マーシャンがそう言ってたんですか!」
「くくく苦しい! 首首首!!」
「あ、ごめんなさい」
いきなり首を掴んでガクガクしないで! ちょっと違う世界が見えかけたわよ!
「ケホ……ふぅ……いい、エイミア。マーシャンは何で転移魔術を優先的に覚えたのかしら? このまま女王を続ける気なら、もっと覚えるべき魔術はいっぱいあるわよね?」
災害の対策に天候操作系なり、土木作業用に土系なり。
「なのに転移魔術を覚えた。冒険者に優先度が高い転移魔術を」
「あ……!」
「これだけでもマーシャンの考えはわかるわよ……近いうちに合流するつもりなんじゃない? ひょっこりとさ」
エイミアは嬉しそうに頷いた。
「げ〜……またマーシャンが加わるのかよ……」
「騒動が増える……はああ……」
「そ、そんなことはありませんよ!」
プリプリ怒るエイミアを見て笑いを堪える二人。
あのねえ……私達が仲間の復帰を喜ばないわけないじゃない。
わかってないなあ、エイミア。からかわれてるだけなのに。
午後からロザンナさんに謁見の間に呼ばれた。
「本当にありがとうございました。前国公の血を見ることなく解決に至ったのは残念でしたが」
「……はい?」
「じょ、冗談ですよ……オホホホ……」
絶対に本音だな。
「兎に角、無事に解決しました。で、あなた方への報酬ですが……」
……周りに立っていた近衛兵が無言で私達に槍を向けた。
「……どういうおつもりで?」
「私は以前に話しましたよね? 我が国は女性の活躍を尊ぶ国だと。あなた方は栄えあるハーティア新公国に住む権利があります」
「……だから?」
「あなた方を名誉国民として特別に迎え入れましょう。待遇は貴族としましょうか」
……はあ?
「あんた何を言ってるか、わかってんの?」
「ユーラシア・ゴンドワナは男を憎んで男を否定した。それでは駄目なのです。男は社会に絶対に必要な存在」
「……? ……あの〜?」
聞いて……ないわね。
リルに視線を向けたけど肩を竦めるだけ。エイミアとリジーも戸惑っていた。
「男は女に虐げられる為に必要なのですから」
……はい?
「女の命令に従い、女の為に尽くし、女の為に死ぬ。男が底辺にいてこそ成り立つのが今の社会」
………………。
「男は所詮、淘汰されるべき劣勢の存在。生かしてもらえるだけでも幸せなのですから……」
「………………何をうっとりしてんのよ、このおばさん」
「お、おば……」
「そんなの、あんたの持論に過ぎないじゃない。男が淘汰されるべき存在? バカじゃないの、あんた」
「……ないわ……マジでないわ……男にフラれてヤケになってる女の子と同レベルの考えだな」
「……男を追放するっていう前国公の人の考えも、どうかと思いますけど……あなたの考えも理解不能です。男だから女だからっていう差別が極端になっただけじゃないですか」
「……コメントしなきゃ駄目? 言うのも嫌」
おー。ロザンナさんの顔が赤い風船みたいになってる。
「……クソがああああっ!!」
ガシャアン!
「あ、ヒスって花瓶を割っちゃった」
「……おいサーチ……口にするな……また騒がしくなるだけだぞ」
「あーら失礼しました。現実じゃなく空想で生きてみえるおばさんには聞こえないかと」
「うるせええ、うるせええっっ!! おい、コイツらをぶち殺せ! 八つ裂きにして市内に晒せ!」
「はーーい! みんな聞いたわね! 『殺せ』って言ったわよね!」
「言ったな」
「言いました」
「言った」
「ギルドの規定第十二条! 命の危険に晒された時、それに相手がある場合は反撃する権利を冒険者は有する! その反撃による生死は問わない! 全ての責任はギルドが負う! ……ていうか、殺戮開始!」
「さっさと片付けるぜ! サーチ、何か策は?」
「ない! 自己判断で各個撃破よろしく!」
「おーけー……≪獣化≫!!」
リルが猫の姿に近づいていく。
「今だ! あいつは獣の姿に変わるまでの間は無防備だ! 一気に叩け!」
「「「うおおおっ!!」」」
お、なかなか頭を使うヤツもいるのね。
けど……無防備なのは百も承知!
「≪偽物≫」
両手盾を作って、リルと敵との間に割って入る。
ギギギギギインッ!
「「「ぐわあっ!!」」」
無数の金属音が響いたあと、突っ込んできた敵が全員ぶっ飛んだ。
「……弱いわね。ハーティア新公国の近衛兵はこの程度なの?」
「な!? 何が起きたのだ……!? ええい! 魔術だ! 魔術を放てえ!!」
掛け声と同時に魔術士の部隊が展開する。
「「「我の中に眠りし……」」」
「≪蓄電池≫!!」
バチバチバチィ!!
「「「ぎいああああああああああ……」」」
バタバタッドサッ
「詠唱がいらない≪蓄電池≫があるエイミアには、魔術士は敵じゃないわ!」
とりあえず敵を倒すたびにロザンナさん……さん付けしなくていいか……を挑発しまくる。
「うがあああっっっ!!!」
面白いくらいに荒れてくれるから、指揮なんて執れたもんじゃない。
結局近衛兵達は各自の判断で動くしかなく、連携なんて一切できない。
それを私達が各個撃破していく。
「ぎゃああ!」
「こいつら強い……ぐぎゃ」
「な、何で……きゃああ!」
「くふぁ!?」
ロザンナを守る為に奮戦する近衛兵達も、結局屍を積み上げていくばかりだった。
「はあ……はあ……」
ロザンナを守る為に立っているのは……あと一人。
「……いい加減降伏したら? ロザンナのために命を捨てる必要はないでしょ?」
「……自分達は間違ってない……間違ってないんだ……」
へえ……間違っていない……ねえ。
「………………結局……まともな人はいないのね……」
「……自分は…………ハーティア新公国の騎士なのだ! 騎士は国を守る最後の砦なのだ! …………だから自分は……退くことはできない! はああああああっ!!」
ぎいんっ!
「くっ!」
「……見事な覚悟ね」
ドスッ!
「がふっ!」
「……覚悟してるんだから素直に死になさい……」
ズブッ
「!!!……っ……」
ドサッ
「これで……終わりっと……」
≪偽物≫を解除して盾と長針を霧散させる。
私からロザンナに……もういいか……ロザンナさんに話そうとすると。
「ロザンナさん! 私達を騙していたんですか!?」
……キレかかってるエイミアがロザンナさんに噛みついた。ロザンナさんは相当困ってるらしく……私達に視線で助けを求めていた。
「はあ……仕方ない…………エイミア、ちょっと」
「ロザンナさん!!」
「エイミアー、聞いてるー?」
「何とか言ってください!」
「……えい」
「いひゃい! いひゃい! いひゃい! いひゃい!」
「……え、演技!?」
あんたマジで気づいてなかったの?
「そうよ……ロザンナさんの私達への依頼はもう一つあったの。それが前国公の残存勢力の排除よ」
「……じゃあ……私達が倒したこの人達全員!?」
「そうです。前国公の側近ですよ」
エイミアは口をパクパクさせた。
「まあ仕方ないさ。私達も知らされてなかったんだから」
「私も」
「ええ!? リルもリジーも?」
「まあな……途中で気づいたけど」
リジーも気づいてたらしく、何度も頷いている。
「な、何で気づいたんですか?」
なんでって……ねえ。
「「ロザンナさんの演技が大根すぎる」」
「そ、そうだったんですか…………私、全然気づかなかったんですけど……」
……ロザンナさんのこと笑えないわね、エイミア。
ハーティア新公国に着いてからロザンナさんは、相当苦労して前国公派を丸め込んだらしい。
一番過激だった近衛兵達を納得させるために「男なんて云々」と言ってたらしいけど……。
「言い方は極端にしましたけど、男が嫌いなのは本心ですよ」
……とのこと。
だからロザンナさんの大根演技でも納得してくれたんだろうな。
「ロザンナさ〜ん……報酬は……」
「勿論お支払いしますよ……八割くらいで」
「何で!?」
「私のことをおばさん呼ばわりしたことは忘れてませんよ?」
……さいですか。