第十一話 ていうか、久々にあの方が登場。
コンコン
『はい』
「サーチですが、今よろしいですか?」
『少し待ってくださいね……』
中で衣擦れの音がするけど……着替え中?
『……どうぞ』
「失礼しま〜す」
ロザンナさんの寝室に入らせてもらう。流石は国公、調度品がハンパない。
「な、何か用ですか?」
むっ……一応教えておくか。
「ロザンナさん、ボタンがズレてます」
「え……ああっ!」
「それとパンツが後ろ前」
「うぐっ……」
「止めに羽織ってるカーディガンが裏返し」
「ぐふっ!」
……ロザンナさんは崩れ落ちた……。
「……笑ってください、こんな情けない私を……」
「アッハハハハハハ!」
「マジで笑うなゴラアアッ!!」
どっちなんですか!
「……ここまで見られたら仕方ないわ……白状します……」
いや、別に……めっちゃどうでもいいんですけど……。
「私はね………………」
ロザンナさんは大きく息を吸い込んで……吐いて……吸い込んで……吐いて……吸い込んで……吐いて……吸い込んでぶちぃ!
「早くいいなさいよ!」
「ひゃう! わ、私は………………………………………………裸族なんです!」
……え?
「だから! 私は…………自室では……常に……裸なんです……」
な、な、何ですってええええええっ!!
「わ、笑いたければ、笑えば……」
がしぃっ!
「同志よ!!」
ロザンナさんの両手を熱く握る。
「え、ええっ!? じゃ、じゃあサーチさんも!?」
熱く頷く。
ロザンナさんは私の全身を凝視して。
「……確かにサーチさんなら……見るからにアレだし……イタタ! ちょっ! 折れる砕ける! 離して離して! あぎゃああああっ!!」
あ、すいません。
つい手に力が入っちゃって……ロザンナさんの手が「めきめきっぼきぃ」とかいってた気がする。
左手の治療を受けたロザンナさんが戻ってきたところで、話が再開された。
「……失礼しました」
「いえ……こちらこそ」
「それで用件は?」
ずいぶんと脱線してごめんなさい。
「前国公さんのことです」
「はい……」
「名前は?」
ロザンナさんがコケた。
「そっ! そこからなんですかっ!?」
「いやあ、よくよく考えたら聞いてなかったなーって……」
「………………はあ」 (大丈夫かよこいつら……)
「……何か?」
「ほふっ!? な、何でもありませんよ」
何でもない人が「ほふっ!?」なんて言うか!
「……名前はユーラシア・ゴンドワナ」
「大陸かよっ!!」
「は?」
「あ、いえいえ……オホホホ」
大陸の名前がくっついただけ……なんて奇跡的な名前……。
「とりあえずわかりました……どうする? マーシャン」
『そうじゃの……ゴンドワナ姓からしてあり得んとは思うがの……』
突然聞こえてきた声に、ロザンナさんがビクッとする。
「だ、誰です!? 出てきなさい!」
「ワシはずっと前からここにおるぞ」
ロザンナさんが声がしたほうに向き直ると、そこにはベッドの上で寝そべってお菓子を食べるマーシャンがいた。
「く、曲者!? ふがっ」
「危ない危ない……人格はかなりの曲者ですけど、一応ハイエルフの女王様ですので」
「ふがっ!?」
口を塞がれたまま疑問形ですか……器用ですね。
「お初にお目にかかる……ハーティア新公国々公ロザンナ殿。妾は滅びしハイエルフ族の最後の女王サーシャ・マーシャじゃ。良しなに」
私がロザンナさんの口から手を離すと、すぐに片膝をついた。
「さ、先程までの醜態、平に御容赦を。ご尊顔を拝謁する栄誉に浴しまして身に余る……」
何か難しいことを言い始めたロザンナさんを、マーシャンが手で制した。
「硬い挨拶は無しじゃ。妾がここに来たるは我が同胞に関すること故、騒ぎたてるでないぞ?」
「ぎ、御意」
へー……マーシャンってマジで偉いのね……。
試しに、≪偽物≫でハリセンを作って……。
スパアアアンッ!
「うごぉ! い、いきなり何をするんじゃ!」
「ごめんごめん……私が知ってるマーシャンっぽくなかったから……」
「だからって鉄の扇でど突く奴があるか! イテテ……」
まあ……一応鉄の扇か……間違ってはないけど……。
「………………」
あ、ロザンナさんが口を開けたまま固まってる。
しばらくしてロザンナさんが正気に戻ってから話は再開した。また脱線しちゃったよ。
「おほん! ……何度も失礼しました……」
「面白かった故、気になさるな……さて、妾の同胞がそなたらに迷惑をかけておるようじゃな?」
「は、はい! ……い、いえ……ではなく……はい」
「どっちじゃ」
「は、はいいっ! 大変な迷惑を被っております!」
ふむ……と考え込むマーシャン。
とはいえ、これは振り。マーシャンの中では……ユーラシア? オーストラリア? とか言う前国公の処遇は決まっているらしい。
「我が友であるサーチに暗殺を依頼したそうじゃが……もはや数少ない同胞じゃ。それは勘弁してもらえんかのう?」
「は、ははーー!」
「無理を言ってすまぬ……代わりにユーラシア・ゴンドワナは妾が引き取ろう」
「……は?」
「あやつの諸行、許されるものではない。故に妾の元で根性を叩き直してやろうかと思うての……どうじゃな?」
「は、はい。陛下の御心のままに」
「決まりじゃな……さて、久々にあの阿呆に顔を見せてくるかの……ではな、サーチ」
「ん。じゃね」
そう言ってマーシャンは廊下へと消えていった。
「へ、陛下!? 城内の案内を……」
「……私が案内してきます。ロザンナさんは休んでてください」
「そ、そういうわけには」
「あんまり騒ぐなって言ってたでしょ……私にまかせてください」
「……そう……ですか。わかりました。サーチさん、あとはお願いします……」
さて……。
「やっぱり。ロザンナさんの視界から外れた途端にコレなんだから」
「し、仕方なかろう! ≪遠方転移≫はけた違いの魔力を消耗するのじゃ!」
MP切れになってフラフラのマーシャンに肩を貸す。
「す、すまんのう…………お! おおお……なかなか成長をぶげっ!!」
「どこ揉んでるのよ! ≪偽物≫で針千本にしてやるわよ!?」
「すまぬすまぬやめてくれ!」
ど突き倒したマーシャンを抱えあげて、また歩きだす。
「……エルフの姓で特異エルフかどうかわかるの?」
「うむ……血統が大きく影響しておることはわかっておる。ゴンドワナ姓の場合は亜人との組み合わせじゃないと突然変異は起きん」
「……稀な例……ていうことはあり得ないの?」
マーシャンは首を振った。
「あり得ん……らしい。ワシも受け売りでな。詳しいことは知らぬのじゃ。ワシが知っておるのは組み合わせの良し悪しだけじゃよ」
組み合わせの良し悪しねえ……まるっきり遺伝子工学……よね……。
「あのさあ、それを……」
「クンカクンカ……これは同胞の匂い……この扉の先じゃな! よし、久々に同胞を味わってくるとするか! ではな、サーチ!」
「え!? ちょっ……行っちゃった……」
ドアが閉められたあと、女性のけたたましい悲鳴が響き……その後艶やかな声が聞こえてくるようになったそうだ。
次の日。前国公ユーラシア・ゴンドワナはハーティア新公国での全ての任を解かれて、ハイエルフの女王サーシャ・マーシャ預かりとなった。
「ではな! また会おうぞ!」
……旅立つ際にやたらと艶々していたマーシャンの顔が印象的だった。半年ほど前国公とブラブラして≪遠方転移≫がまた使えるようになったら帰るそうだ。
……こうして……。
ハーティア新公国の政変は……あっけなく終わった。
面白い!ということでしたらブクマ、評価、感想をよろしくお願いいたします。