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第十話 ていうか、苦労が絶えないんですよね……。

「ふああ……」


 昨日の夜は恋バナならぬ食いバナで盛り上がったため、完徹した。

 思わず何か食べたくなっちゃったよ……我慢するのに必死でした。


「そんなことより、お仕事お仕事♪」


 私以外はロザンナさんに張りついてもらってる。

 私達のパーティはあくまで、ロザンナさんが個人的に雇った護衛ということになっているので、当然といえば当然なんだけど。

 でも実際にロザンナさんも狙われているのは事実。私達を雇ったということは、敵側への牽制の意味合いも強い。


「でも結構、刺客を放ってたのね。こんなにいるとは……」


 私が今いる屋根裏には、三人の刺客が転がっている。昨日の夜のうちに気がついてた私が、朝早くに屋根裏に痺れるタイプの毒を霧状にして撒いておいたのだ。


「う……うぐ……」

「く、くそ……」

「い、いつの間に……」


 昨日の夜、私に気づかれてる時点であんた達は負けてたのよ。


「さて……リル〜♪」


 がらっドサドサ!


「うおっ!? な、何だ?」


 刺客を屋根裏から突き落とし、頭だけ出す。


「サーチか……こいつらは?」


「たぶんロザンナさんを狙った刺客御一行様。そのまま〝深爪〟のリルの特別サービス(・・・・・・)へ御案内♪」


「ふ、深爪……」

「もうダメだ……」

「母さん……もうすぐ逝くよ……」


 あ、三人とも観念した。完全に諦めモードね。


「お前……私をこういう役回りにするなよ……」


 リルの愚痴を聞き流しつつ、屋根裏へ戻る。



「……ダメだわ、これは……」


 思わず溜め息を吐く。

 前国公さんは相当用心深いらしく、自分の部屋の周りには強力な結界が施してあった。


「しかも室内に入ることができるのは限られた侍女のみ。変装しようにも魔術によるチェック機能付きか……」


 たぶん結界自体に個人を特定する効果がある……と思う。そのほうが手っ取り早いし。


「……部屋から出た時しか狙えないわね……」


 そうなると……手早く闇討ちというわけにはいかなくなった。


「……とりあえず退散」


 やることも無くなったので、ロザンナさんのとこへ戻ることにする。



 ロザンナさんが廊下を移動している時に合流する。チラッと視線を送ってきたロザンナに小さく首を振った。

 ロザンナさんは小さく頷いてから、私から視線を外した。


 (サーチ、こっちこっち)


 小声で呼ぶエイミアを見つけて近寄り。


 ポカッ


 (痛!)


 ……一発叩いておいた。


 (ロザンナさんが国公なんだってこと、わかってる!? 私達の立ち振舞いが、下手したらロザンナさんの立場を悪くすることもあるんだからね?)


 (ごめんなさい……)


 (わかれば良し! ていうか、リルどうだった? 近衛の皆さんの反応は)


 (いいわけねえだろ……めちゃくちゃ白い目で見られてるよ)

 (一度ぶった斬りたい)


 一度ぶった斬ったら二度目はないでしょ!


 (我慢しなさい。私だって我慢してるんだから)


 (お前は屋根裏ばっかりだから、風当たりも何もないだろ!)


 ……確かに。


 (……んじゃあ、少しだけ風当たりを緩くしとくわ)


 そう言って前に出る。


 (お、おいサーチ?)


 (まあ見てなさいよ) 「ちょっと止まっていただけます?」


 突然停止させられたロザンナさんは、少しびっくりしたみたいだったけど。


「どうかしましたか?」


 と、ロザンナさんは普段通り問いかけてきた。

 が。


「貴様! 冒険者の分際でロザンナ様の足を止めるとは!」


 ……プライドと給料だけ(・・)高い近衛の皆様が噛みついてきた。


「ちょっとロザンナ様に気に入られたからっていい気になりやがって!」

「この際だ! 我らの八つ当たりも込みで手打ちにしてやるわ!」


 おいおい。本音がだだ漏れだぞ……二三人が剣を抜きかけたところで。


 めきぃっ!


 素手で壁に穴をあける。

 そして……。


「……ぐはあ!」


 ……壁の内部の空洞に潜んでいた刺客を引き摺りだした。


「近衛の方々はこの刺客に気づいてみえましたか?」


 ≪偽物≫(イミテーション)で作った小型のリングブレードを、刺客の腹から引き抜く。

 鮮血が飛び散り、私の半身を濡らす。


「もう一度聞きます。気づいてみえましたか?」


 私が睨みつけると近衛兵達は完全に怯んでいた。こりゃ人を斬ったことがない連中ばかりか。


「……あなた方がちゃんとしてくれれば……私達のような下賤な者が城内を彷徨くことはないんですけどね……」


 そう言うと私はロザンナさんに向き直り。


「少し外します。あとは私の仲間にお任せください」


 ……さすがに血塗れは気持ち悪いから洗いたいし。


「わかりました。期待しています……近衛は後衛へ。冒険者を前衛へ」


「そんな!」

「ロザンナ様!」


「黙りなさい!」


「いいえ! 言わせていただきます! これは我らの利権に関わることです!」


「そうですぞ! 我らがおいしい思いを出来なくなるのは一大事です!」


 はっきり自分の損得持ち出すヤツもすげえな! 近衛兵なのに忠誠は主君より金かよ!


「………………ボーナス50%カットしてやろうか」


「「我らの忠誠は偉大なるロザンナ様に!」」


 ……ある意味扱いやすい連中ね……。


「では後衛をお願いします」


「あの……ボーナスは」

「普通に出してやるからさっさと後ろへ行けえっ!」

「「は、はいー!!」」


 ………………。

 ロザンナさんがよくキレるようになった理由、わかった気がする……。



 その後、ロザンナさんのお仕事が片付くまで護衛として付き合う間に。


 (…………ぐぅ……)

 (…………)


 ごっ!


「んぎゃあああっ!」


「うるせえ! 何回同じこと言わすんだ!」


「す、すいません!」


 エイミアが寝て、私がエイミアの脛を蹴り、エイミアが叫んで、ロザンナさんに叱られる……というエンドレスが続いた。


 (………………)

 (………………)


 その間、ずーっと半冬眠状態で立ったまま寝ていた二人がいたことに気づくのは、仕事が終わってからだった。



「ズルいです!」


「いや、そう言われてもなあ……」


「獣人の専売特許」


 悔しがるエイミアと、なぜか誇らしげなリルとリジー。

 ……これはお灸を据えたほうがいいか……。


「……あんたら全員正座」


「「「えっ!?」」」


「何でですか! 私は悪くないですよ!」

「横暴だ! 横暴だ!」

「ブーブー」


 どごおんっ!!


「「「………………」」」


 ハンマーで壁をぶち破ったら、ようやく静かになった。


「……正座」


「「「……はい」」」


「……あんた達の今日のお仕事は何でしたか?」


「「「ロザンナさんの護衛です」」」


「……なら……立ったままだとしても……寝ていいのかしら?」


「「「……ダメ……です」」」


「……朝まで錘をのっけて正座ね」


「「「ええええええええええ」」」


 どがん! ごごおん!


「「「ひぃっ!!」」」


「ごちゃごちゃうるさい! さっさとしなさあいっっ!!」


「「「はいいっっ!!」」」


 …………。

 ロザンナさんの気持ちがよーーーくわかった。

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