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第九話 ていうか、たまには温泉よりも戦いよりも……。

「……特異エルフ(ミュータント)かあ……」


 マーシャンからの情報を元に、国立図書館(どこの国も意外とある)で調べてみた。

 やっぱりマイナー情報らしくてなかなか見つからなかったけど、詳しい情報が記載された本は見つけた。

 ……余談ではあるけど、この世界には≪転写≫(コピー)という超便利魔法があるため、本はけっこうな量が流通している。


「……マーシャンが言ってたハイエルフの部隊の全滅……殲滅戦争(ジェノサイド)のときだったんだ……」


 ……古人族が根絶やしにされた悲惨な殺戮。その影で起きていた事件だった。

 ちなみにハイエルフは新大陸にも存在したらしいが、殲滅戦争(ジェノサイド)の前後から姿を見せなくなったらしい。たぶん部隊の全滅が何かしらの影響を及ぼしたのだろう。


「突然変異のエルフ……古人族……何か繋がりがあるのかしら……」


 ……これは慎重にならないと……私の経験が激しく警鐘を鳴らしていた。


「……サーチ? サーチぃ?」


 ん? エイミアか。


「何?」


「あ、そこにいたんですね……夕ご飯ですから集まってくださいって」


「わかったわ。今行く」


 そう言って私は屋根裏(・・・)から飛び降りた。


「……何であんなとこにいたんですか?」


「んー? 下準備よ」


 屋根裏は屋内の移動での基本よ……アサシンには。



「「ふああああああああ…………」」


 ……思わずエイミアと二人で感嘆の声をあげてしまった。

 いやいや、すんげえわ、これ。


「香牛のローストビーフにコカトリスの焼き鳥……」


「秋冬サモンの松木茸焼きに……コーフリザードのタンシチューまで!?」


 普通の冒険者ならまず食べることのできない、超豪華料理がてんこ盛り。


「さあ皆さん。好きなだけ食べて……」


「「「「いっただきまああすっっ!!」」」」


 足裏マッサージで胃腸の調子も万全な私達は、ロザンナさんの話を一切無視して食べ始めた。


「………………」


「食べて……」のところで片手を挙げたまま固まったロザンナさんは……立場無さげに食卓に向かった。



 一応私達もテーブルマナーというモノは心掛けてはいたんだけど、貴族であるエイミアも作法一切無視するほど、ヒドい有り様で。


「美味い! 美味い!」

「おいサーチ! これも美味いぞ!」

「ちょっと何ですかこれ!? すっごく美味しそうです!」

「エイミア姉エイミア姉それ私の尻尾」


 ……侍女の皆さんも呆気にとられるなか、食事は滞りなく進み……。


「「「「ごちそうさまでした!!」」」」


 ……三十分後には山のように積まれていた料理は……完食となった。



 その片付けの最中に。


「あれ〜? おかしいなぁ……」


「どうしたのです?」


「あ、はい……なぜかお皿とかが一セット丸々無くなってまして……」


「はあ? 確認したのですか?」


「はい……隅々まで」


「………………」


「まさか……」

「食べ……」


「………………そ、そんなわけないでしょう……早く片付けてしまいなさい」


「「は、はい」」


 ……なんて珍事があったらしい。



「よく食べたわね……でもまだ飲める」

「もう食えねえ……飲めるけど」

「リジーごめんね? ごめんなさいね?」

「うう……尻尾に歯形が……」


 食べるだけ食べた後は竜の牙折り限定(パーティメンバーだけ)のパジャマパーティー。

 ロザンナさんの部屋からくすねてきた高級酒や、食事の際のゴタゴタの間に集めておいたツマミを広げてワイワイ飲んでいた。

 ていうか、まだ腹に入るのか。私が言えることじゃないけど。


「それより!」


 私を一斉に指差す。な、何よ。


「「「何か着てこい!」」」


 え〜〜……ま、仕方ないか。

 軽くインナーだけ着たら、ギリギリOKをもらえた。

 ……全裸は私のパジャマなんだけどな……。



 時間も忘れてわいのわいのと騒いでいるうちに、会話は食べ物のことへと移行していった。あんだけ食ったのにまた食べ物かよ。

 ……私が言えることじゃないけど。


「じゃあエイミアって普段から高級食材を?」


「普段からってわけじゃないですよ? 香牛なんて一週間に一度くらい……」

「「「はあああああああっ!?」」」


 思わぬ失言によって、私を含む三人がエイミアの敵にまわる。


「香牛を週一で!! これだから貴族は!」


「私達なんか、一年に一回食えるかどうかなのによ!」


「私は人生初です」


 ちなみに香牛ってのは……前の世界でのA5ランクの牛に匹敵する牛。モンスター以外の肉では最高と言われている。


「びええええっ!」


 あ、泣いた。

 でも仕方ないのよ。食べ物の恨みは怖いのだ。


「でも香牛以上に美味しいものもたくさんある……の?」


 私に向かって首をコテンと傾げるリジー。それ、この国では止めといたほうがいいよ。


「食材はご当地モンスターがいるから、香牛以上ってのはあるかもよ?」


「をを……夢は無限に広がる……美食ハンターもいいかも……」


 美食ハンターってのは、危険なモンスター食材を集める冒険者のこと。でもいいんじゃない? 前の世界の有名なグルメマンガの主人公も言ってるし。


「思い立った日が吉日。それ以外は凶日……だったかな?」


「……いい言葉。うん、頑張ってみる」


 ……呪われハンターに美食がくっつくわね。


「ご当地モンスターか? なら私が住んでた森には面白いのがいたぜ」


 お? ご当地あるあるが出てきた。


「私の故郷の森の近くにアンデッド山っていう綺麗な山があるんだ」


 ……名前からして綺麗な山とは思えない……。


「そこに『マグマで泳ぐ魚』がいるんだ。これがご当地モンスターのブレイズ・リー・フィッシュだ」


 マグマで泳ぐ魚……さすがモンスター。


「捌いて刺し身ってのも美味いんだけどよ……私の故郷の伝統料理が一番だな」


「へ〜! 教えてよ!」


 そこまで言われると、私でも興味わくわ。


「単純に大根と一緒に煮込むんだけどよ、できたての熱々も美味いんだが……冷やして一晩寝かせるとさらに美味くなるんだ!」


 ……ん? それって……。


「……もしかして冷えて固まった煮こごりも美味しいヤツ?」


「お!? 知ってるのか?」


 リルは「仲間♪ 仲間♪」とほざいて私の肩をバンバン叩く。痛いわよ!


「料理名は『大根ブレイズ・リー・フィッシュ』! だいたい略されて『大根ブーリー』って言われるけどな」


 大根ブーリー……アンデッド山……か。間違いない。


「サーチ! お前の故郷にはないのか?」


「故郷も何も……私は産まれがどこかわかんないのよね……」


 リルはハッとして。


「そうか、サーチは孤児だったな……わりぃ」


 気にしてないからいいけど……あ、前の世界で美味しかったヤツでもいいか。


「でも美味いのはあったよ。ダウロの近くで」


 リルとリジーは目を輝かせている。そこまで期待されると……。


「そんなに難しい料理じゃなかったな……確か鉄板にコカトリスの肉とキャベツをのっけて豪快に焼いてた」


「いや……十分美味そうだろ……」


「じゅるり……だらだら」


 リジー! 汚いわよ!


「醤油ベースのニンニク味が有名で……あと塩味だったりミソ味だったりバリエーションはいくつかあったよ」


「いいなあ……麦芽酒に合いそうだなあ……」


「だらだらだら……」


「リジー口を閉じなさい口を!」


「……ただ……コカトリス狩りが大変だな……」


 そうね。

 大型の鶏型モンスターコカトリス。目が合うだけで≪石化≫されてしまう難敵。

 だけど……。


「大丈夫よ。コカトリスはダウロ周辺だと家畜化(・・・)されてるから」


「「……へ?」」


「品種改良で≪石化≫能力も消されてるから無害だしね」


 ダウロ周辺で食べられる郷土料理コカちゃん。

 一度ご賞味あれ。

 ……前の世界で行った温泉にも似たようなものがあったのよね……。

 ……偶然?

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