第八話 ていうか、足裏マッサージでリフレッシュ?
「はあ〜♪ 癒される〜♪」
砂風呂の後は、シャワーで軽く汗を流してから。
「いだいいだいいだい!」
「ニ゛ャア!! ニ゛ャア!! ニ゛ャア!!」
「んん! んんん! んんんん!」
ただ泣き叫ぶエイミア。
野生の雄叫びのリル。
耐えてるけど汗だくのリジー。
そして、前世ではお馴染みだったから、痛みが気持ちいいと感じる私。
……久々の足裏マッサージはエイミア達にはキツいみたいだった。
「おや、サーチは平気そうですね」
しばらくマッサージとエイミア達の悲鳴を堪能していると、ガウンを纏ったロザンナさんが来た。
「んー……全く平気ってわけじゃないんだけどね……」
ま、年季よね。
前世で、仕事後の楽しみだったからね〜。
をを! 今のは効いた!
「今は相当痛かったと思いますけど?」
私を担当しているマッサージ師さんが聞いてきた。
「それなりに……どこら辺が悪いのかな?」
「そうですね〜……お腹でしょうか……」
お腹? 何かしたっけ?
「この症状は……冷え性かと」
……あ、そっか……お腹剥き出しの普段着だしね……。
気をつけよって……さすがに腹巻きしてビキニアーマーってわけにもいかないか。
「……ダッさ……」
「は?」
「何でもありません、何でも……おほほほ」
「……???」
ロザンナさんの目が点になった。
「それじゃあ詳しく詰めましょうか」
「そうですね」
ここで暗殺の話をする……て聞いたときは「マジで?」 と思ったけど……。
「止めで止めであ゛あ゛ーっっ!!」
「ニイイイアアアアふぎゃあああああっっっ!!」
「んぐっ! んぐっ! んんんんんっ!!」
……防音は完璧なんだそうで。
確かにこの絶叫下で盗聴するのは不可能よね……うるさいけど。
「まあ魔術で対策もしてあるので万全です。ここのマッサージ師も信用できますし」
そう言って私の隣に座る。
「……大丈夫なんですか?」
結構痛いよ、これ。
「大丈夫です。慣れてますから」
……さいですか。
「まずは標的ですけど」
「ストレートに行きましょう。暗殺の対象は義母です」
「義母? 嫁姑問題の悪化ですか?」
するとロザンナさんは苦笑いして。
「それもありますけどね……それ以上に前国公の影響力が厄介なのです……」
「前国公? 強度の男嫌いな?」
「そうです。私の考えとは相容れないのです……義母は……」
……まだ政権に口出しできるほどの影響力を保ってる前国公か……簡単にはいかないわね……。
「わかりました。他には?」
「以上です。義母さえいなくなれば、後はどうとでもなります」
「ならご希望の殺害方法は?」
「………………………………へ?」
あ、ロザンナさんが固まった。
「まあ一応。なかにはとことん苦しめてとか、一番恥ずかしい状態でとか」
「いいですいいです普通でいいです」
「そうですか? じゃあオプションで首から上」
「止あああめえええてえええっ!! 何も聞こえません! 聞こえませんー!」
……冗談ですからね、冗談……。
「おほん……性質の悪い冗談は止めてください」
「あいあいさ〜」
「……キレるぞコラ」
す、すいません……。
「……じゃ、じゃあ、対象の具体的な情報は教えてもらえます?」
「具体的と言うと?」
「大まかな一日の行動パターンとか、お気に入りの場所とか」
「ああ、成程……私の手の者に聞いておきます。今夜には書面でお伝えしましょう」
「わかりました……あと身体的特徴を」
ロザンナさんが怪訝な顔をする。
「必要ですか? もう少し後には顔を合わせることになりますよ?」
「説明不足でした。もしも身代わりを用意された場合に、見破るカギとなる特徴があれば知っておきたいんです」
「…………背中の左肩寄りに、三つ連なった黒子があります」
めっちゃ具体的な情報っすね。
「……昔いろいろありまして……」
いろいろ……ね。
聞かずにおきます。
「一応ですけど、いいんですか? 暗殺なんて強硬手段に出ちゃって」
「構いません」
「時間はかかるかもしれませんけど……待ってさえいれば義理のお母さんの方が早く亡くなるわけですし……」
「……それができれば苦労はしません。現状では間違いなく義母のほうが長生きしますから」
それって……。
「まさか義母さんは……長命種の方ですか?」
「……そうです……エルフと人間のハーフになります」
あちゃあ……ハーフエルフか。
「ちなみに何歳くらい?」
「……おそらく……二百歳は越えてるかと」
「……………………先代の在任期間は?」
「うーん……私が生まれる前からですから……おそらく百年以上は……」
「てことは初代はちょこっと、先代がずーーーーっと……て感じですか?」
「そうです。現在のハーティア新公国は義母の影響を形にしたような国家になっちゃってますね」
そっか。人間やエルフなんかが混在する世界って、超長期政権があり得るのね……。
「もうイヤもうイヤもうイヤアア! びええええええええええっ!!」
「フギャア! フギャア! しゃああああああっ!! ふーっ!! ふーっ!!」
「んんんんんもうダメいっっったあああああいいいっ!!」
……そこまで痛いかな。
「すいません、ちょっと連絡してきます」
「どうぞ」
絶叫響き渡る施術室から出て、念話水晶を取り出した。
珍しくすぐに出たマーシャンは。
『ワシが何をしたと言うんじゃ! 話せばわかる! 何か誤解が……』
めっちゃ怯えていた。
「? ……何をそんなに怯えてるのよ?」
『お、怯えるに決まっておろう! 久々に念話したら「エルフに有効な殺し方を教えろ」じゃぞっ!? ワシには「お前の殺し方を教えろ」としか聞こえなんだわ!』
あ、そう聞こえちゃったか。
「違うわよ。ただマーシャンと同じエルフを殺っちゃおうかなーって感じだからさ、エルフの傾向と対策を教えてもらおうと……」
『殺っちゃおうかなーって……軽いのう……』
ま、あんまり深く考えてたら、アサシンなんてやってられないからさ。
「で? どうなの? 頭に心臓があったりとか脳が腹にあったりかしない?」
『そんなわけあるか! お主はエルフを何だと思っておるのじゃ!』
「ごめんごめん。マーシャンと同族ならあり得るかと」
あ、マーシャンが泣き出した。
「冗談よ冗談……まあ普通に人間と一緒よね?」
『ぐすっ……そうじゃ。違いと言っても人間より聴力が優れている事と、筋力が若干劣るくらいか。魔術に関しては系統の違いがあるゆえ、一概には言えぬ』
「大丈夫。身体構造が人間と大差ないのなら私の敵じゃないわ」
『……まあサーチの事じゃから問題は無かろうな。ただ油断するでないぞ?』
「ありがとう。まあハイエルフだろうがハーフエルフだろうが、全力で抹殺するのみよ」
『ん? なんじゃ、ハーフエルフを知っておるのか?』
「知ってるも何も、今回の暗殺対象はハーフエルフよ」
『何っ!?』
そういうとマーシャンは難しい顔をした。な、何だろう?
『……まあ……まず無いとは思うが……』
……?
『ハーフエルフはな、親の組み合わせによっては異常な個体が産まれることがある』
異常な個体?
「つまり……突然変異ってこと?」
『そうじゃ。このハーフエルフの突然変異種は時に甚大な被害を及ぼす』
甚大な被害って……。
『過去には突然変異種のハーフエルフによって、ハイエルフの一個中隊が全滅させられた』
「ハイエルフが!?」
『そうじゃ。この突然変異種は特に人間と交わったものが強力な力を持つ傾向がある』
「………………」
『ワシらはこの突然変異種を特異エルフと呼んでおる』