第十一話 ていうか、デビュー戦。
ついに、模擬戦。
周りは殺る気満々だ。ていうか、そんなに意気込むようなものではないんだけど……。
「皆さん、鬱憤が溜まってますからね〜」
……たぶん私以外は相当イラついていたんじゃないかな。最近じゃ空気がギスギスしててご飯も食べにくい雰囲気だったからねー。確実にギルマスの支持率は一桁ね。
あ、そのギルマスが挨拶するみたい。聞く必要性を感じないから耳塞ご。
「あー、おほん。これより授業の一環として模擬戦を行う……お前ら全員聞けよ!」
何でギルマスが涙目になって叫んでたのか耳塞いでたのでわかんなかった。
……あとから聞いたらエイミア以外全員耳を塞いでいたらしい。何だろう、この不思議な連帯感と達成感。
「では代わりまして、審判である私がルールを説明します」
話す人が替わったとたん、耳を塞いでいた手を外す。ていうか、私も含めて全員。
あ。ギルマスがしゃがみこんで「の」の字書いてる……んん!? 何でギルマス日本語知ってるの?
「今回の模擬戦はクラスは関係なくランダムにこちらで選ばせてもらいました。勝敗は基本的に気にしていただかなくて結構です。ただし、傷を負ったり気絶をした場合はこちら側から止めに入ります。あくまで模擬戦ですので相手を死なせるようなことはしないようにしてください」
何人か不満そうな顔してる。怖い連中ね。
「一応回復魔術を使える人は怪我人の手当てをお願いします。重傷者はこちらの回復魔術士や僧侶で対応しますので申し出てください」
そして対戦相手と戦う順番が書かれた対戦表を貼り出す。
皆が対戦表の前に殺到する。私は……六番目か。相手は……誰? 会ったことがあるかどうかもわかんないし、名前も知らない。
「お、押さないでくださああい!」
後ろでエイミアがもみくちゃにされてる。なぜ周りの男性陣がにやけてるかは割合する。たぶん、しばらくすれば……。
バリバリバリバリ!
ドッカアアン!
……ほら、エイミアがキレた。
「対戦相手の変更は無しです。それでは最初の生徒は前に出てください。他の生徒は端に寄ってください」
そして一回戦。
体格のいい戦士と、やや怯えがちの魔術士が進み出た。
「お手柔らかにな」
「よ、よろしこ」
よろしこって……あの魔術士大丈夫かな……。
「はじめ!」
魔術士が先手。
「……≪火炎球≫!」
嘘! 無詠唱!?
で、魔術士の手から火が……そう、マッチくらいの火が……。
ぽんっ
戦士の槍の一振りで消された。
「はうーっ」
何で顎が外れるってくらいの勢いで驚いてるのよ……? あんな火、息でも消せるわよ。
あ、戦士が歩いて正面に立った。
ごんっ
「うきゅ」
あ、倒れた。
「えーと……勝負あり」
………………。
どこの町のギルドよ、あの子推薦したの……? 拳骨一発で決まる戦いなんて初めてみた。
その後は、まあまあ見応えのある試合が続く。
「さあて、いよいよか」
そして、六番目。
私の、デビュー戦。
「では次。補助魔術クラスのサーチ」
私が前に出る。
周りが大きく反応する。
「おい、ビキニアーマーだぜ……」
「うっわ、露出狂かよ」
「中途半端なことしてないで全部脱げよー!」
……すごい反応ね。
「何よ、あいつ! ちょっとスタイルがいいからって」
あ、何か本音も聞こえてきた。
「おい、サーチ! なんだその格好」
ギルマスもか。ていうか「お前が常識的なこと言うな、はげ」
「おい! 途中から口で言ってるじゃねえか!」
「何でもいいから進めなさいよ、信用0のくせに!」
あ、言っちゃった……ま、いいか。再び拗ねたギルマスは放っておいて。
「えー、対戦相手。戦士クラスのイーメ・ケン!」
鉄の鎧を鳴らしながらイケメンが前に出た。うーん、おしい! 名前もあと少しでイケメンだったのに。
「おい、何だお前。いきなりボクを見て笑うなんて失礼だろう」
あ、ごめん。名前のインパクトでつい。
「そんなことはどうでもいいじゃない。勝負は勝負よ」
「ふん……まあ、そうだな」
よし、誤魔化せた。
「露出狂の変態女に負けるわけにはいかないしな」
……。
コロス。
「では、はじめ!」
始まると同時に、私は後ろを向いた。
「……おい、何のつもりだ。なめてんのか!?」
「その通り、なめてんのよ。ハンデあげるから斬りかかって来なさいよ」
イーメ・ケン……だったっけ……の顔が真っ赤になる。これくらいの挑発にのるようじゃあ、まだまだね。
「ああ、いいさ。ぶっ殺してやる!」
剣を上段に構えて突っ込んでくる。
「サーチ! 前向いて! 危険です!」
エイミアが心配して叫ぶ。ふふ、大丈夫よエイミア。ちゃんと見えてるから。
「遅い」
私がスッと右側に寄る。そのすぐあと、高速で剣が通り過ぎる。
「なっ……!」
渾身の一撃だったらしく、驚いている。めっちゃ隙だらけだけど、今は見逃してあげよう。
「まだハンデいる? 手は使わないようにしようか?」
もう一回挑発。
「ぐ、な、なめるなあああ!」
今度は横に大振り。しゃがみこんで避ける。
そして足払い。足元がお留守ですよ、てやつね。
「うわっ!」
そのまま受け身もとれずに倒れる。重い鉄の鎧が災いして立ち上がれないみたい。
あとは背後にまわって針を作り出し。
「チェックメイト」
喉で寸止め。
勝負あり。
「……負けたよ」
イーメ・ケン……だったよね……が私に話かけてきた。
「それにしても……何故後ろ向きでボクが斬りつけるタイミングがわかったんだい? 本当に見えてるんじゃないか、ていう避け方だったよ」
「……そうね……ビキニアーマーのおかげよ」
「は? ビキニアーマーの? 君はまだボクをからかっているのか?」
とんでもない。
本当にビキニアーマーのおかげよ。だって、ビキニアーマーじゃないと全身で気配を感じられないじゃない?