第三話 ていうか、ハーティア新公国は良いとこ、一度はおいで……?
「……それでは……大会の結果は有耶無耶になってしまったと?」
ズゥン! ズゥン!
「まあ……50%くらいは私達が悪いんだけど……」
皇帝、公爵、騎士団もろもろぶっ飛ばしてきちゃったからね……それで保守派は弱体化してしまい、今は改革派の……なんてったっけ……何とか侯爵が敏腕を発揮し、事件の収拾にあたっているらしい。
ズゥン! ズゥン!
「まあソサエト侯爵がいらっしゃいますから大丈夫ですよ。ただ……女性の胸を見ながら会話する癖を、何とかしてもらえれば……」
……ロザンナさんも結構大きいからね……完全なセクハラオヤジじゃん。
「……何故あなたまで胸を凝視しているので?」
……よし、勝った。
「何故勝ち誇っておられるのか、お聞きしても?」
えっ。
「私が勝ち誇ってました? おかしいな〜」
「にやけてる」
「にやけてます」
「にやけてるな」
外野! うっさい!
「まあいいじゃない。胸の大きさなんてどうでも」
ぶちぃ
へ?
「なんだぁ? つまり……私より大きいって言いてえのかあああっ!?」
「ちょっ……! 何であんたキレると母音が二つ三つと語尾につくわけっ!?」
「ボインだとおおっ!? どこまでアタイを愚弄するんだゴルアアアッッ!?」
「ボインじゃなくて母音!」
「ああっ!? 血判状でも作らせる気かゴルアアアッ!?」
「それは拇印よおおおっ!」
私が必死に馬車から逃げ出すと……。
ずどおん! ずどおん!
……馬車の中から、明らかに馬車より大きいトゲ鉄球が飛んできた。
「サーチ姉、何事?」
馬車に乗れずにズンズンズン! と並走せざるを得なかったリジーが私に近寄ってくる。
「ロザンナさんがキレたのよ! あの人絶対に元ヤンだわ」
「もとやん?」
「……何でもない。リジー、ロザンナさんを何とかできる?」
「ん〜……らじゃあ」
そう言って落ちていたトゲ鉄球に向かい。
「よいしょっと」
〝死神の大鎌〟を振り上げる。
そして鎌の横を鉄球に向けて!
がぎいいいんんんっ!
えっ……えええっ!
あんなバカデカいトゲ鉄球をナイスショットしたっ!?
「……ちゃーしゅーめん」
「言うタイミングが遅いわよ! って何で知ってるのよ!?」
思わずつっこみを入れてから、鉄球が落ちる先を見る。
……げえっ!?
「あのままじゃ馬車に……ファアアアアアアアァァァァ…………けほけほ」
どずぅん!
……トゲ鉄球は馬車に吸い込まれていった。
「……ホールインワン……」
「死ぬっ! 死ぬって!」
「ああ、頭がたんこぶだらけに……びえええ……」
ボロボロになりながらも、掠り傷で済んでるあたりはさすがである。
一方、ロザンナさんは……。
「こひゅ……こひゅ……」
「こ、呼吸が!」
「脈拍もだんだん弱っています……このままでは」
「ええい、仕方ない! 電気ショック用意!」
「はい! 電気ショック用意!」
「……天地を渡りし光の御霊よ、その力を微妙に示せ…………≪電光弾≫弱」
バリバリッ!
「ちょっと強すぎな気が……」
「……………………がく」
「うわあああっ! 止めを刺してしまったあああああっ!」
「お、お前なんてことを!」
「お嬢! お嬢! おじょおおおおおっ!!」
……なんで救急病棟二十四時みたいになってるのよ……。
「……あれって、痺れて気絶しただけです」
……………………気絶ね。
「じゃあ命に別状は」
「まっったくありません」
………………。
……先にご飯でも食べてますか……。
二時間後にロザンナさんはすっかり元通りになっていた。ただ、電気ショックの加減を間違えた攻撃魔術士が、何故か姿を現さなくなったけど………………ま、いっか。
「おほん! 先程は大変失礼致しました」
……お供の方々の苦労が大変よくわかりました。
「これから向かうハーティア新公国について、少し説明します」
えー……めんどくさ……。
「…………サーチさん……あなた、顔に出過ぎですよ」
「え!? ウソ!」
周りを見ると……エイミアとリルがクスクスと笑っていた。リジーまで笑いを堪えている。
「……マジで?」
「ぷぷ……サーチは凄くわかりやすいですよ」
「ここまではっきりと表情に出るヤツもいるんだな〜、ってよくネタにしてた」
「クスクス……ぷーっ」
……マズい……アサシンならポーカーフェイスを心掛けないと。
「まったく……これから語ることは我が国の恥なのですよ」
恥……ね。
「ですが知っておいていただかないと大変なことになりますので、必ず頭に入れておいて下さい」
「……穏やかじゃないわね。私達に何をしてほしいのかしら?」
「何も」
「……はい?」
「本当に何も。私があなた方を気に入って、話を聞きたいと思った……それだけです」
その後に口の動きだけで「建前上は」と言った。
……話を聞かれてるってことかしら?
私も同じように口の動きだけで「大丈夫。周りには誰もいない」と答える。
「……本当ですか?」
「ええ。半径3㎞以内には私達以外はいないわ」
それを聞くと少しだけホッとしたらしく。
「あー、かったりぃ」
……ロザンナさんの地がでた。
「っとっと……失礼致しました……」
すぐに口調を直して私達に紙を配った。
「何これ? えっと……女性証明書?」
紙の目立つところに「女性証明書」とあり、その下には私の生年月日やら出身地やらが書いてあった。
「これってギルドに登録してあるヤツよね?」
「そうです。ギルドの上層部にかけあって、情報を提供していただきました」
ギルドは個人情報を何だと思ってるのよ!
「…………どうやって聞き出したかは知らないけど……あまり良い気分ではないわね……」
「その点は私の独断で行ったことです。不快にさせてしまったのならお詫び致します。ただ、必要な措置だったということは御理解下さい」
「必要な措置……ね。そんなに大事なモノには見えないけど」
だいたい外見で男か女かの判断くらいできるでしょ。
「それが無いと入国の際に脱がされます」
「「「「……は?」」」」
「だから脱がされます」
「……どこまで?」
「大概は下のみ。場合によっては上も」
「……どこで?」
「町の入口です」
「……室内……ですよね?」
「……………………公衆の面前ですよ」
「何の為に?」
「男か女か判別する為です」
「魔術で見た目を変えたら」
「当然、魔術での監視もされています」
ホントに……何それ?
「そこまでして……何がしたいのよ?」
「……男か女か判別するんです」
「だから! 何のために!?」
ロザンナさんは……深い深いため息を吐いてから、答えた。
「……我が国……ハーティア新公国は…………男子禁制なのです……」
……はい?




