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第二話 ていうか、なかなか進まない旅路の果て。

 ズゥン! ズゥン! の重低音にまだ完全に慣れてないせいか、どうも予定が遅れがちだ。

 意外にもリルの足取りが一番重かった。

 リル曰く。


「続けざまな震動が私のヒゲ(センサー)を狂わす」


 ……らしい。

 リル達獣人にとってヒゲはとても重要なものらしく、一度ヒゲを抜いてやった時はマジギレして手がつけられなかったほどだ。


「焦って進んでもケガの元。ちょっと休憩するよ〜」


「「「はーい」」」


 ……最近引率の先生の気持ちがわかってきた。



 川のそばの木陰に腰をおろした私達。

 ちょっとしたきっかけから、話は≪絶対領域≫(アルティメットゾーン)の話となった。


「……じゃあエイミアの≪電糸網≫(スタンネット)≪絶対領域≫(アルティメットゾーン)なのか?」


「ん〜……≪絶対領域≫(アルティメットゾーン)の一種だと考えてくれればいいと思う」


「一種? ますます意味がわかんねえ」


「えーとね。≪絶対領域≫(アルティメットゾーン)は一つのカテゴリだと考えて。≪絶対領域≫(アルティメットゾーン)は人によってバラバラなの。全員が全員エイミアの≪電糸網≫(スタンネット)を覚えられるわけじゃないでしょ?」


「……確かに。私にはできる気がしねえな」


「エイミアは風水士と勇者の二つの職種を持っていたから、≪絶対領域≫(アルティメットゾーン)を開眼した。≪蓄電池≫(バッテリーチャージ)と勇者の≪全感覚鋭敏≫の組み合わせよ」


「……じゃあ私には不可能ってことか……」


「……あんたはあの反則みたいな変身があれば、必要ないでしょ……」


「あ、≪獣化≫(アーマード)のことか? あれは……まあ……」


 まるっきり狼男(ライカンスロープ)じゃない。


「……満月を見ると変身するとか?」


「んなわけあるかっ! どういう生物だよ!」


 ……ですよねー。

 月が三つある世界だから、何回変身しちゃうやら。


「サーチ姉」


「何? リジー」


「リル姉の≪獣化≫(アーマード)は獣人の秘伝中の秘伝。聞き出すのは勘弁して」


「……そうなの?」


「……………………ああ」


 ……リルの間がすっっごく気になったけど……。


「……わかった。もう詮索しないわ」


「……ありがとうサーチ姉」


「……ただ今の私なら、≪毒生成≫のスキルで自白剤を作れそうだから、こっそり料理に混ぜこんで……」


「ちょっとちょっとサーチ姉」

「やめろやめろマジやめろ」


「あ? あらら、聞こえてた? 冗談よおほほほほー」


「「絶対にあやしい……」」


 ……ち。つい口に出しちゃった。


「……ま、そのうち聞かせてよ。私も≪絶対領域≫(アルティメットゾーン)のこと、しゃべったんだからさ」


「……わかった。そのうちな」


「そのうちなんて言われても困りますのよ。私からの」

「誰よあんた!?」

 どごおっ!

 がらがらずしーん!


 背後から何かが近づいていたのだ。私の間合いに入ったら攻撃してやろう、と思って渾身(・・)の一撃を見舞ってやったんだけど……。

 こんな下らないことで生涯最高の一撃が出てしまった。

 なんかいろんなモノが一緒に砕けるくらいの一撃だったから、相当な威力だったんだろう……もったいない。


「お、お嬢さまあああああああっ!!」


 へ? お嬢様?


「衛生兵、衛生兵を呼べええっ!!」

「軍医殿の到着はまだか!?」

「瓦礫を撤去するんだ! まだ希望はある!」


「お嬢様の手はまだ暖かい! 間に合う、間に合うぞお!」


 ……何かめっちゃ一大事になってきたんですけど……。


「……それじゃあ私達はこの辺で……」

「「「お達者で〜……」」」


 がしぃっ!


 うわっ! めっちゃごっつい手が肩に……!


「………………このまま行かせると思ってるのか?」


「「「「ですよねー……」」」」


 ……どないしよ……。



「きいいさああまああらああっ!!」


 私が会心の一撃を与えた相手……ハーティア新公国の国公ロザンナさんは……それはそれはハデにぶちギレた。


「こんの無礼者があああ! 手打ちにしてくれる!!」


「お嬢様! 落ち着いてください!」


「そうです! ここはまだ帝国領内ですぞ! どうかご自重を!」


「皆の者お! お家の存亡がかかっておる! 断固としてお嬢をお止めするのだあああっ!」


 おいおい……「殿中でござる!」じゃないんだから……。

 ちなみにこの寸劇の出演者、全員女性です。


「あの〜……一ついいですか?」


「斬る! 切る! ぶった切るうう!」


「うわ会話にならないよ! どうすんのよこの人!」


「お前がキレさせたんだろが!」


「背後から襲ってくる阿呆に、手加減してやるような冒険者はおらんわ!」


 ……我ながら不毛だ……。



 ……お嬢様がようやく落ち着いてから会話成立となった。


「おほんっ! 失礼致しました」


 この人、キレキャラなのね…………ちょっと試してみたい。


「ウズウズ」


「な、何ですか? 口でウズウズ言いだしましたが?」


「気にするな……じゃなかった。気にしないでください」


「そちらこそ気にしないでください。普通にしゃべっていいですよ」


 ……こうして見ると、キレキャラとはかけ離れて見えるのよね……。

 ……やっぱ試そう。


「ロザンナさん」


「はい?」


「そーれぃ」

 ぴらっ

「きゃああっ…………何をするんですか!」


 ……あれ? キレない?


「……ごめんなさい。キレるかどうかの実験で……あ、クマさん柄」


 ぶちぃ


 あれ? 恒例のこの音は……。


「……無礼者おおおっ!!」

 ずどっ

「くふぅっ! け、結構いい腹パンで……」


「まああだああ愚弄するかあああ…………成敗いいっ!!」

 ぶんっ!

「うひゃあ!」


 ど、どこからトゲ鉄球が出てきたのよ!?


「くおおらあああっ! 待たんかいいいいいっ!!」

 ずどん! どどーん!

「ひぃああああ!! 何か顔が般若みたいになってるんですけどおおおっ!」


「まだ言うかあああ!! 殺す殺すこおおろおおすううっ!!」


 じょ、冗談抜きで怖い!


「サーチ! お前が余計なことするから……」


「お前も同罪じゃあああっ!」

 どごっ!

「アニ゛ャッ!!」


 あ。リルの頭にトゲ鉄球が。


「ウニャアアアアア!!」


「……リル姉本気で痛がってる……」


 そりゃ痛いでしょうよ!


 ぶちぃ


 あれ? また例の音が……。


「……≪獣化≫(アーマード)


「ひえっ!? リル姉がキレた!」


 ……リジーが真っ先に逃げ出した。


「……ニャニするニャアアアアアッ!」

 どごっ!

「へぐっ!」


 リルの本気のネコパンチ!


「仕返しニャ!」

 ばごっ!

「おごっ!」

 ずどっ! ごきっ!

「ぐはあっ!」

 ずがっ! ごんごんごんっ! ぼすっ! めこっ! ばしっ! びしっ! どごどごどごっ! ざくっ! どかっ! みしっ! ずどがしゃあっ!

「うぎゃあーー!!」


「効果音がヤバいことになってきてるから、止めるわよ!」


「「「お前のせいだろおおっ!!」」」



「げほごほ…………し、失礼致し、まし、た……ぐぶっ」


 ……リルのスーパーコンボでズタボロになったロザンナさんが、血を吐きながら私達に応対する。


「……何だかごめんなさい……」


「も、もう試さなくても……お分かりですね……ごぼっ」


 ……口元をハンカチで吹いてあげる。マジですんませんした……。


「で、何の用だったんですか?」


「わ、私が……あなた達に……フレンドリーに……近づいてしまったのが……悪かったのですねぶがぁ」


「……死に体ですね……」


 ぞくっ


 さ、寒気が。

 ……部下の人達の視線ならぬ死線で軽く私も死にそうです……。


「は、話と言うのは……我が国へあなた方を招待しようと……」


 ……招待? ハーティア新公国に?

 視線をみんなに向けるけど……全員「却下!」と目が言ってます。ま、私も同意見だけど。


「……せっかくですが……」


「よろしければ私の伝で、〝死神の大鎌〟(デスサイズ)を運搬致しますが?」


「「「「ぜひお呼ばれします!」」」」



 ……こうして。

 私達はハーティア新公国(また厄介事)に行くことになった。

ロザンナさんにキレキャラを追加。

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