第二十五話 ていうか、やっぱA級冒険者って化けぐげぎゃ!?
「いや〜、派手に暴れたな〜、みんな」
一番暴れたあんたが言うな。
「皇帝の近衛部隊はほぼ壊滅したわね。本隊の方は〝刃先〟と〝飛剣〟が相手してくれてるから、全く問題ないわ」
「……おい、ちょっと待て。帝国軍の本隊だろ? 一体何人いると思ってんだよ」
「えーと、私が偵察してきたときで……第一軍から第五軍まで集まってたから……軽く五万はいたわね」
「五万だとおおおっっ!?」
「ほ、ほぼ帝国正規軍の半分はいるじゃないですか! たった二人でどうにかなるレベルじゃないですよ!!」
「……なるのよ」
「「……は?」」
私は深ーい深ーいため息は吐いてから、自分が見てきたことを語った。
「……馬の歩く音が……あっちか」
通りがかりの将軍一行を始末して、身体に付着した敵の血を拭っていたときだった。
大規模な集団が移動している気配を察知し、偵察を開始したのだ。ていうか、すぐに見つけた。
「ウ、ウソでしょ……帝都には第三軍しかいないはずじゃ」
目の前には国境警備を担当する第一軍と第四軍、南側の森林地帯を攻略中だったはずの第五軍、そして「帝国軍の切り札」とされる最精鋭の第二軍。総勢五万は超えるであろう大軍が集結していた。
五万という数は、帝国の常備軍のほぼ半分だ。
「まさか、私達とA級冒険者のためだけにこの数を集めたの!?」
なんて国費のムダ遣い……。
「そうでもない。これでも足りない」
わっ! び、びっくりした!
「〝刃先〟!? あんた、何してんの?」
あ、ハーティア公の時の格好だ。
「何をしているは無いだろう。お前達の助っ人だよ」
? 口調が違う……。
「あんたって変装すると、しゃべり方も変わっちゃうタイプ?」
「っ……変装した時に口調を変えるのは、当たり前の技術だ」
最初の「っ」が全てを物語ってるわね……。
「こらこらシャアちゃん。そう〝刃先〟をイジメちゃダメよ?」
え!? 院長先生まで!?
「まさか〝飛剣〟で出陣するんですか?」
「もちろん! シャアちゃんのためだもの、元院長先生、全力でがんばっちゃうわよ!」
………………うあ。
「全力でやっちゃうんですか〜……大陸割れちゃうかも……きゃっ!」
い、院長先生の拳が私の頭を挟んでる……こ、これは!
「そんなイケないこと言っちゃう子は~、お仕置きよお仕置き〜!」
ぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐり
「んきいあああああっ! 潰れる潰れる潰れるー!! ごめんなさいごめんなさい」
めきっ
「ぎゃあああああ! めきっって言いましためきっって! マジでヤバいですヤバいヤバいへるぷみー!」
「もう言わない?」
「言わない岩内云わない謂わない!!!」
「はい。もうダメよ、人が傷つくこと言っちゃ」
「は、はい〜……顔が伸びる〜」
……元院長先生、得意の拷問技エターナルパワーぐりぐり……昔はこれで竜の頭を潰したらしい。
「止めてやれや、ヒルダ。それで何回勇者を泣かせたんだよ」
「どうだったかな? 回数が多すぎて忘れた」
今の勇者はしょっちゅう泣いてるから、あんまり違和感がない。
「それよりシャアちゃん」
「今はシャアじゃなくてサーチなんですけど……」
やっぱ赤い彗星には敵いませんから。
「あ、ごめんね〜。サーチゃん」
「妙な呼び方しないでください! せめて『チ』を『ち』にしてください!」
「はいはい、サーちゃん」
もういいや、めんどくさくなってきた。
「あなたはあなたで殺ることがあるんでしょう? そちらを優先なさいな」
「え? 私が何してたか、わかるんですか?」
「サーちゃんと何年付き合ってきたと思ってんの。その気になれば、サーちゃんの昨日の夕ご飯のメニューもわかるわよ」
何それ怖い。
「それにね、あなたが指揮系統を潰してくれれば、私達も楽に全員ぶっ飛ばせるから」
「そうですか、わかりました……ていうか、全員って?」
「え? 全員よ」
元院長先生が背後を示す。
……て、え゛っ!?
「全員って……まさか帝国軍全員ですかあっ!?」
「そのまさかよ……そんなに驚くようなこと?」
いやいやいやいや。普通の人間ならぜっっったい驚きますって。
「ヒルダ……お前を普通の人間と同じ基準で当てはめたら駄目だ」
「何よ! 人を化け物扱いして!」
十分に院長先生は化け物ですよ。
「もうA級冒険者になってる時点で、化け物扱いされても仕方ないんだよ」
「それもそうね」
それで納得するんならゴネるなよ!
「じゃあ、さっさと片付けようか」
「久々に少しだけ本気でいくか」
「少しだけじゃない! 全力! サーちゃんの為なのよ!」
「わかったわかった」
「あの、院長先生……わっ!」
私が声をかけようとした瞬間に砂煙が舞い上がり……。
「けほっ……やっぱ、もういないか」
動き出す仕草すらわからなかった。下に展開している帝国軍を見てみると……。
『行っくわよ〜! ≪飛剣三連≫! そーれ!』
院長先生が投げたブーメランは…三つに分裂した!?
ズババババババンッ!
『ぎゃああ』
『うわあああ』
『うぐうぅ』
……………スゲえ。
ある悪役の有名なセリフじゃないけど……人がゴミのように……。
今の一投だけで百人以上は仕留めたわね。
『…………』
ん? 次は〝刃先〟が動く……のかな?
『……≪瞬殺≫』
スタタッ
『…………』
……?
何か瞬間移動みたいなことしたけど……何をしたの?
『……かは』
『……ぐぶっ』
『……無念』
バタバタッドサドサッ
「っっ!!!」
い、一気に何十人も倒れたんですけど……ホントに何したの!? 何にも見えなかった……。
「……はは……これがA級の力なのね」
一体何年経ったら、追いつけるのよ……これに。
「……ていう感じだったから……て、ちょっと」
……何で三人ともジト目なのよ。
「いやあ……なあ」
「今の話を信じろと言われても……」
「……ありえない」
そうよね、そうでしょうね……。
「まあ……私も自分で見てなかったら、同じ反応してたと思うし」
……。
「おい……お前にそういう反応されると、私達はどうしたらいいんだよ……」
どうしたらって言われても……。
「それなら心配いらない」
「ん? スケルトン伯爵?」
「どうかしたのか?」
「君達の疑いも晴れる知らせだ……たった今入った情報だ。帝国軍の第一から第五軍……全て壊滅したそうだ」
「「「「……は?」」」」
「スケルトン伯爵家が雇ったB級冒険者からの情報だ……間違いないよ」
「え? あれから……何時間経った?」
「……まだ一時間だと思いますよ……」
「たった一時間で……五万の大軍を?」
………。
「「「……マジで?」すか?」かよ?」
スケルトン伯爵は大きく頷いた。
「化け物だな」
「化け物ですね」
「化け物」
……ま、そうなるわよね……。
「なーにーよー! みんな揃って人を化け物扱いして!」
「「「!!!」」」
やっぱ院長先生いた……。
さっきから微かな気配を感じてたんだけど……黙ってて正解だったわ。
「人の悪口を言うような子は……お仕置き〜!」
「え……ニャ!?」
ぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐり
「ぎにゃあああああああああっ!!!」
リル……迷わず成仏してね。
「サーチ! 助けてくださいよお!」
「ムリ」
「サーチ姉! へるぷ!」
「ムリ」
「「そんなああっ!」」
「……信じなかったあんた達が悪いのよ」
「ほらほら! まだまだ序の口よ〜!」
「ぎにゃあああああああああ……がくっ」
あと数話で新章です。