第二十四話 ていうか、帝国崩壊の序曲。
「じゃあ散開! 〝刃先〟は勝手にやってて!」
「……一応A級冒険者なんだなら、少しは敬ってほしいな……」
何かボヤきが聞こえたけど、サクッと無視しておく。
「みんな、絶対に生き残るわよ!」
「「「りょーかい」です!」だ!」
私の周りを重装戦士の皆さんが取り囲みました。
「よし、オレ達は偽勇者をぶっ潰すぞ!」
「「「おう!」」」
……別に本物になりたかったわけじゃないです。
「第一陣、前へ! 最初から全力で行け!」
一番前にいた人達が進んできました。全員ニヤニヤしてるのが怖いです。
私も応戦しなければならないので……まずは≪電糸網≫から。
「うらああっ!」
まず斬りかかってきた人の一撃を避けて、振り返り際に頭に釘こん棒を振り抜きます。
「ひっ! ぐちゃ」
何か嫌な音がしましたけど、何も聞こえない聞こえない!
「きゃ! わっ! ひゃ!」
≪電糸網≫によって敵の行動は全てわかるんですけど。
けど!
「怖いものは怖いんです〜! ひゃあ!」
「何でこんなへっぴり腰の小娘に、剣が当たらないんだっ!?」
「好きでへっぴり腰になってるんじゃありません! えいっ」
「ぐぼおっっ!」
背中を殴ったときに「ボキッ」って音がしましたけど、たぶん気のせい。
「くそっ! 矢だ、矢を放てい!」
わざわざ声に出してくれるので助かります。矢が飛んでくる前に≪電糸網≫を強化します。
「射よ!」
矢が私の領域に入った瞬間に、≪電糸網≫の強度をあげて。
ぱあんっ!
矢は空中でバラバラになりました。
ぱあんっ! ぱぱんっ!
飛んでくる矢を全て破壊します。ちょっと強度をあげるだけなので、私に負担はありません。
だけど敵に与えるインパクトは凄いらしく。
「矢が! 矢が全て破壊されました!」
「第一陣も完全に浮き足だっています!」
「な、何ということだがぼおっ」
釘こん棒が割れ始めたので、投げて敵の隊長さんを倒す。
よし、これでサーチからの宿題だった「釘こん棒で五十人撲殺」は達成ですね。
「敵は武器を失ったぞ!」
「今だ! 全員突撃!」
「ちょっと待ってくれ、まだ揺れる胸を見ていたい……」
「気持ちはわかるが、さっさと行けえっ!」
……何で男の人って……!
気持ち悪いので、さっさと片付けます!
「いきます! ≪蓄電池≫最大出力!」
バリ! バリバリ!
「……吹っ飛んじゃえ〜〜〜っ!!!」
ずどおおおおおおおおおおんっっ!!
「「「ぎいああああああああぁぁぁ……」」」
……ちょっとやり過ぎて会場の屋根が粉々になりましたけど……てへ♪
「あっぶね! エイミアのヤツ、やり過ぎだっつーの!」
一時的に獣装を解いていた私は、落ちてくる瓦礫を避けながら愚痴った。
観客席に配置されていた弓兵を倒して回ってたんだけど……これくらいか。
「ったく……観客のフリして、こんだけ潜んでやがったのか」
もう二十人は倒したか? 他の観客は散々脅して追い払ったからもういないとは思うが……。
キリキリ……
っ! 弓を引く音だ!
ビュンッ!
矢はエイミアに向かってる! このままだと間に合わない……!
「あああああニャアアアアアア!!」
再び≪獣化≫を発動させて、身体の半分以上を猫の姿に変える。
それに伴って。
「シャアアアアア!!!」
普段の倍以上の加速で矢に追いつき、矢を叩き落とす。
「私の友達にニャにをしてくれるニョよ!」
矢をはニャった男を見つけると、瞬時ニ男ニョ前ニ立つ。
「ひ、ひぃ!」
頭をニくきゅうで掴み。
ザンッ!
……そニョまま顔を削いだ。
「ナアアアアアアゴオオオォォォ!!!」
血ニョ薫りニ酔った私は声が枯れる勢いで叫んだ。
「キシャアアアッ!!」
エイミアが撃ち漏らした兵士を見つけては、そニョままの勢いで刺殺する。
「ぐあっ!」
そこニいた兵士の頭を叩き潰し、全身を真っ赤に染めたままエイミアに。
「大丈夫、エイミア? 危ニャかったニャ」
ニカっと笑ったんだけど……あれ? エイミアが真っ青にニャってる?
「……きゃああああ! 血ィだるぅまあああああああっ!!!」
……?
エイミア姉の叫び声?
それにリル姉が≪獣化≫してる?
「もしかして……ピンチ?」
うーん。たぶん大丈夫か。エイミア姉には≪電糸網≫があるし。
「何をよそ見してやがるんだああ! うらああ!」
うるさい。
ばごん!
「はぎゃあ!」
〝首狩りマチェット〟の横っ面で、飛び掛かってきた騎兵をぶっ飛ばす。
地面に落ちた騎兵はダメージと鎧の重さで動けず、ジタバタしてたけど……しばらくして動かなくなった。
「私は考え事してた。そんな時に襲ってくるなんて理不尽」
「そんな状態でも騎兵を一人ノックアウトするお前の方が、よっぽど理不尽じゃああ!」
何でキレる?
「わかった。考え事しないでノックアウトする」
「もっと理不尽だよ!」
「じゃあデッドアウト?」
「何じゃそりゃあああっ!!」
うるさいので叫んでいた騎兵をぶったぎる。
「っ……」
騎兵は何か言おうとしたまま、半分に分かれた。
歩いて進みながら大鉈を振り回す。その度にいろんなモノが飛んでいく。
「どうするの? まだ戦うの? 戦いたいなら……じゃなくて死にたいなら、どんどんかかってきて?」
「ナメるなあ! ぐはっ」
「うおおおっ! ぐぶっ」
「だ、ダメだ! 勝てるわけねえっ! 撤退、撤退だああぎゃふっ」
「あ、ごめんなさい。逃げる人斬っちゃった」
分別するのめんどくさい。
「んー……まあいいや。サクッと全滅しよっか?」
「「「理不尽すぎるだろおおおっ!」」」
あれ? 騎兵隊がバラバラに逃げてく?
これが所謂戦線崩壊?
……あれ?
戻ってきたら、帝国軍が半分以下になってる?
「一体何があったの?」
半分呆れながら三人を探していると。
「もうダメだああ!」
「撤退だ! 逃げろー!」
お? あんなにいた騎兵隊が散り散りになってる。
「まてー」
この抑揚のない声は……リジーね。
ばたーん!
? 何か倒れた音が……あ、エイミアが泡吹いて倒れてる。
近くに立ってるの……誰? ていうか、まさかあいつがエイミアをっ!?
「とりゃあああっ!」
「!! 敵かニャふぎゃあ!」
え? ニャ?
あれ? 顔半分だけリルだ。
「リル……なの?」
「いてて…そうよ! いきニャりニャニするニョよ!」
……??
「……な行が多くて、よくわかんないんだけど?」
な行と言うよりニャ行? すると半猫がヒゲを一本抜く。
ぼんっ
「え、あれ? リルだったの?」
「てめえ! 人の後頭部をおもいっきり蹴りやがったな!」
「ごめんごめん。エイミアが襲われてるかと思ったから……それにしてもさっきの姿は何?」
「あれは≪獣化≫と言って……まあ後で説明するさ。それよりお前は何やってたんだよ?」
「ん? 将軍を二人と大臣を六人、あとついでに有力貴族を十人くらい闇討ちしてきた」
「闇討ちって……まあいいけどよ」
「全員軍の関係者だから、指揮系統はズタズタね」
ま、これで帝国軍は半分近く瓦解したかな。
え? これぐらいで瓦解するのかって?
だって……。
〝刃先〟と〝飛剣〟が本気で暴れてるのよ?
下手したら大陸が滅ぶわよ?