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1882/1883

last episode1

「見えて来ました!」


 釣りをしながらモノ思いに耽ていた私は、ヴィーの声で我に返る。


「な、何が見えてきたの?」

「新大陸です! 私達の国です!」


 あ、ああ、着いたのね。


「そっかぁ……着いちゃったかぁ……」


 少し残念そうな口調の理由は、あまりにも平和な旅路が原因だったのだろうか。


「……? サーチ、どうかしましたか?」


 え?


「あ、な、何でもないわ。さぁさ、行きましょ行きましょ!」


 ヴィーに不思議そうな表情をされてるのはわかってたけど、私は何もなかったかのように振る舞った。



「ようこそ、新大陸へ!」


 大きな港に接岸し、私はホントに久しぶりに新大陸の地を踏んだ。


「……ずいぶん近代的になってるわねぇ……」


「サーチの前世に飛ばされた時、色々な物を見ました。そして、色々な知識を得ました。それを元に、新たな産業を興しているのです」


 異世界の知識の持ち込みって……いいんだろうか。


「但し、あくまで平和利用できるモノに限ります。戦争に転用できそうな技術は、一切使わせません」


 うん、そこは重要。


「一度そういう知識が伝わっちゃうと、後戻りできなくなっちゃうからね」


 一度歯止めがきかなくなっちゃうと、あれよあれよど最悪な泥沼戦争へ転がってってしまう。


「そこはヴィーがちゃんと手綱を握ってれば、大丈夫だと思うよ」

「はい! それは勿論です!」


 嬉しそうなヴィーの横顔を見ながら、これはこれでいいか……という気持ちが大きくなりつつあった。



 ヴィーの希望もあって、私達はしばらく新大陸共和国で暮らすことになった。


「そうですわね、ワタクシも賛成ですわ」

「リーフも賛成です!」


 異論はないみたいだったので、私もそれに従うことには……した。


「ていうか、一つのところに留まるなんて、今まで考えたこともなかったしね」


 そう言いながら、ウラハラな気持ちを持て余す。


「サーチ、我が家のお風呂は源泉かけ流しの露天風呂ですよ」


 あーもう、源泉かけ流し言われたらウラハラな気持ちなんかどうでもいい!


「入ってくるわ」


 そそくさと露天風呂へ直行した。



「……いつもの……サーチですよね?」

「どうかしましたか?」

「あ、いや、何と言うか…………サーチの様子が、ねえ……」



 一週間が経った。


「はふぁ……」


「ではサーチ、首相府へ行ってきます」


「いってらっしゃーい」


 今まで一番最初に起きることが日課だった私のサイクルは、定住してからも相変わらずだった。

 ていうか、もう抜けないだろうな。


「ワタクシも行って参りますわ」

「リーフもです」


「はいはい、いってらっしゃい」


 ナイアはヴィーの依頼で、国軍に参加するそうだ。元々軍を率いていた身だから、司令官としてやっていけるだろう。

 一方リーフは、近くの空き家を改装して花屋を開店した。なんせ木属性の権化だから、花を育てるのは朝飯前。確かに天職と言えるだろう。


「……はぁ~あ」


 で、私はと言うと……次の一歩を踏み出せないでいた。


「仕事は……必要なさげよね」


 ヴィー、ナイア、リーフが揃って稼いできてるんだから、私が外で仕事をする理由がない。


「かと言って、専業主婦は……」


 一応得意分野なんだけど……ていうか、今はそれで上手く回ってるんだけど……。


「……はふゎ……」


 最近、あくびばかり出てる気がする。



 夕方。


「ただいま帰りました」


 最初にヴィーが。


「ただいま戻りましたわ」

「ただいま~」


 続いてナイアが、リーフが。


「お帰りなさい。夕ご飯できてるから、うがい手洗いしてきなさいね」

「「「はーい」」」


 今日は久々に作ったビーフシチューだ。


「あ、この匂いは……」


「あ、ヴィーは食べたことあったよね。ビーフシチューよ」


「びーふ、しちゅーですか?」


「……ナイア、あんたも食べたことあるはずなんだけど」


 ジト目で睨まれたナイアは、鳴らない口笛を吹きながら席に着く。


「わあ、美味しそうですね」


 初ビーフシチューのリーフは、ニコニコしながら自分の器を持つ。


「はいはい、盛ってあげるから」

「うふふふ、美味しそうですね」

「サーチはやっぱり料理上手ですわ」

「はい。植物の皆が一番好きなご馳走によく似ています」



 ピシッ



「……リーフ」

「はい?」

「その例え、二度と使っちゃダメだからね?」

「え?」


 ……カレーとハヤシライスのときにも使っちゃいけない例えを、天然でぶち込んでくるリーフには……教育的指導が必要だ。



 それから一ヶ月、半年、一年と過ぎていき。


「……はふゎ……」


 私の周りはどんどん変わっていった。


「サーチ、ごめんなさい! 今夜も帰れるかわかりません!」


 大統領に当選したヴィーは、家にいるのも珍しいくらい忙しくなった。今は多種族の調和、という難しい問題に全力投球中。


「ワタクシもですわ! 新たな部隊を創設するんですの!」


 ナイアは将軍に上り詰め、全軍を指揮する立場に。毎日あちこちに遠征したり出張したり。


「サーチお姉様、リーフも帰れません!」


 リーフの花屋は軌道に乗りすぎ、今度五号店をオープンする。


「……いってらっしゃ~い」


 ……最近、私は置いてけぼりだ。


「……はぁ……」


 今まで多くなっていたあくびは、ため息へと姿を変えていた。


「……やっぱり……ダメだよね、このままじゃ」


 潮時……かな。



 こっそりと募集したメイドさんも、ちゃんと確保できた。これなら、ヴィー達の生活を壊すこともない。


「引き継ぎも済ませたし……そろそろかな」


 しばらく着ていなかったビキニアーマーを装着する。うん、やっぱりこの感触サイコー。


「さて……なら行きますか」



 夜を駆ける。誰もいない夜の闇を。


「……っていうか、やっぱ私は冒険者がお似合いね」

「うん、私もそう思います」


 隣に並んで走るエイミア…………ていうか、エイミア!?


「私もそう思われ」


 って、リジー!?


「あんた達、何で」


「最近のサーチは見てられませんでしたから」

「うむ、ため息ばかりでつまらなそう」


「……ていうか、付いてくるつもりね、あんた達……」


「勿論です。私、サーチの伴侶以上に親友ですから」

「サーチ姉、どこまでも付いていく」


 はあ……仕方ないわね。


「なら久々に、あちこち回ってみましょうか!」

「「さんせーい!」」



「あ、呪われアイテムの匂い……」

「おい、いきなり足並み乱すなっての」

「ひあーっ」

「え、ちょっと、リジー?」

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