last episode1
「見えて来ました!」
釣りをしながらモノ思いに耽ていた私は、ヴィーの声で我に返る。
「な、何が見えてきたの?」
「新大陸です! 私達の国です!」
あ、ああ、着いたのね。
「そっかぁ……着いちゃったかぁ……」
少し残念そうな口調の理由は、あまりにも平和な旅路が原因だったのだろうか。
「……? サーチ、どうかしましたか?」
え?
「あ、な、何でもないわ。さぁさ、行きましょ行きましょ!」
ヴィーに不思議そうな表情をされてるのはわかってたけど、私は何もなかったかのように振る舞った。
「ようこそ、新大陸へ!」
大きな港に接岸し、私はホントに久しぶりに新大陸の地を踏んだ。
「……ずいぶん近代的になってるわねぇ……」
「サーチの前世に飛ばされた時、色々な物を見ました。そして、色々な知識を得ました。それを元に、新たな産業を興しているのです」
異世界の知識の持ち込みって……いいんだろうか。
「但し、あくまで平和利用できるモノに限ります。戦争に転用できそうな技術は、一切使わせません」
うん、そこは重要。
「一度そういう知識が伝わっちゃうと、後戻りできなくなっちゃうからね」
一度歯止めがきかなくなっちゃうと、あれよあれよど最悪な泥沼戦争へ転がってってしまう。
「そこはヴィーがちゃんと手綱を握ってれば、大丈夫だと思うよ」
「はい! それは勿論です!」
嬉しそうなヴィーの横顔を見ながら、これはこれでいいか……という気持ちが大きくなりつつあった。
ヴィーの希望もあって、私達はしばらく新大陸共和国で暮らすことになった。
「そうですわね、ワタクシも賛成ですわ」
「リーフも賛成です!」
異論はないみたいだったので、私もそれに従うことには……した。
「ていうか、一つのところに留まるなんて、今まで考えたこともなかったしね」
そう言いながら、ウラハラな気持ちを持て余す。
「サーチ、我が家のお風呂は源泉かけ流しの露天風呂ですよ」
あーもう、源泉かけ流し言われたらウラハラな気持ちなんかどうでもいい!
「入ってくるわ」
そそくさと露天風呂へ直行した。
「……いつもの……サーチですよね?」
「どうかしましたか?」
「あ、いや、何と言うか…………サーチの様子が、ねえ……」
一週間が経った。
「はふぁ……」
「ではサーチ、首相府へ行ってきます」
「いってらっしゃーい」
今まで一番最初に起きることが日課だった私のサイクルは、定住してからも相変わらずだった。
ていうか、もう抜けないだろうな。
「ワタクシも行って参りますわ」
「リーフもです」
「はいはい、いってらっしゃい」
ナイアはヴィーの依頼で、国軍に参加するそうだ。元々軍を率いていた身だから、司令官としてやっていけるだろう。
一方リーフは、近くの空き家を改装して花屋を開店した。なんせ木属性の権化だから、花を育てるのは朝飯前。確かに天職と言えるだろう。
「……はぁ~あ」
で、私はと言うと……次の一歩を踏み出せないでいた。
「仕事は……必要なさげよね」
ヴィー、ナイア、リーフが揃って稼いできてるんだから、私が外で仕事をする理由がない。
「かと言って、専業主婦は……」
一応得意分野なんだけど……ていうか、今はそれで上手く回ってるんだけど……。
「……はふゎ……」
最近、あくびばかり出てる気がする。
夕方。
「ただいま帰りました」
最初にヴィーが。
「ただいま戻りましたわ」
「ただいま~」
続いてナイアが、リーフが。
「お帰りなさい。夕ご飯できてるから、うがい手洗いしてきなさいね」
「「「はーい」」」
今日は久々に作ったビーフシチューだ。
「あ、この匂いは……」
「あ、ヴィーは食べたことあったよね。ビーフシチューよ」
「びーふ、しちゅーですか?」
「……ナイア、あんたも食べたことあるはずなんだけど」
ジト目で睨まれたナイアは、鳴らない口笛を吹きながら席に着く。
「わあ、美味しそうですね」
初ビーフシチューのリーフは、ニコニコしながら自分の器を持つ。
「はいはい、盛ってあげるから」
「うふふふ、美味しそうですね」
「サーチはやっぱり料理上手ですわ」
「はい。植物の皆が一番好きなご馳走によく似ています」
ピシッ
「……リーフ」
「はい?」
「その例え、二度と使っちゃダメだからね?」
「え?」
……カレーとハヤシライスのときにも使っちゃいけない例えを、天然でぶち込んでくるリーフには……教育的指導が必要だ。
それから一ヶ月、半年、一年と過ぎていき。
「……はふゎ……」
私の周りはどんどん変わっていった。
「サーチ、ごめんなさい! 今夜も帰れるかわかりません!」
大統領に当選したヴィーは、家にいるのも珍しいくらい忙しくなった。今は多種族の調和、という難しい問題に全力投球中。
「ワタクシもですわ! 新たな部隊を創設するんですの!」
ナイアは将軍に上り詰め、全軍を指揮する立場に。毎日あちこちに遠征したり出張したり。
「サーチお姉様、リーフも帰れません!」
リーフの花屋は軌道に乗りすぎ、今度五号店をオープンする。
「……いってらっしゃ~い」
……最近、私は置いてけぼりだ。
「……はぁ……」
今まで多くなっていたあくびは、ため息へと姿を変えていた。
「……やっぱり……ダメだよね、このままじゃ」
潮時……かな。
こっそりと募集したメイドさんも、ちゃんと確保できた。これなら、ヴィー達の生活を壊すこともない。
「引き継ぎも済ませたし……そろそろかな」
しばらく着ていなかったビキニアーマーを装着する。うん、やっぱりこの感触サイコー。
「さて……なら行きますか」
夜を駆ける。誰もいない夜の闇を。
「……っていうか、やっぱ私は冒険者がお似合いね」
「うん、私もそう思います」
隣に並んで走るエイミア…………ていうか、エイミア!?
「私もそう思われ」
って、リジー!?
「あんた達、何で」
「最近のサーチは見てられませんでしたから」
「うむ、ため息ばかりでつまらなそう」
「……ていうか、付いてくるつもりね、あんた達……」
「勿論です。私、サーチの伴侶以上に親友ですから」
「サーチ姉、どこまでも付いていく」
はあ……仕方ないわね。
「なら久々に、あちこち回ってみましょうか!」
「「さんせーい!」」
「あ、呪われアイテムの匂い……」
「おい、いきなり足並み乱すなっての」
「ひあーっ」
「え、ちょっと、リジー?」