extra5 帰還のサーチ。
「……ふぁぁ……」
朝、だ。
「……すぅ……」
「……うふふ……サーチ……」
「あ、そこは駄目ですわ……くぅ……」
……朝だ。
「な、長い夜だった……」
夕ご飯のあと、ヴィーと話し込んで、何となくいい雰囲気になっちゃって。
「……私は何てバカなんだろう。空気に飲まれちゃったのかな……」
久しぶりだったから、ということもあったのは事実だ。だけど私の方から誘うだなんて……!
「んふふ、サーチ……んふ、んふふ……」
ヤる気百万倍となったヴィーは、その場で私を押し倒し……わずか一時間で足腰立たなくされた。
「そしたら≪回復≫をかけてきて、二回戦に突入だなんて……!」
それを三回繰り返し、ようやく終わったかと思えば……。
「途中からナイアとリーフが乱入して……乱入して……乱入してきやがって!」
イキ絶え絶え……じゃなく、逝き絶え絶え……でもなく、息絶え絶えにされてもなお、三人揃って元気というか……。
「……あはは。もう二度と私からは誘わん」
地獄の扉を開けるのは、今回で最後にしよう。
「おはようございます」
「おはよ」
食堂に行くと、宿屋の女将さんが朝ご飯を出してくれる。
「よく眠れましたか?」
「まあ……私以外は」
三人とも実にツヤツヤしていた。私はヨレヨレだったけど。
「お客様、首回りに」
ん?
「鏡どうぞ」
準備のいい女将さんが手鏡を貸してくれる。で、覗き込んでみると……。
「……うぁ」
あ、あいつら、見える部分にはつけるなって言ったのに……!
コトッ
ん?
「お客様、これを塗れば早く消えますよ」
女将さん、ニッコリとしながら小瓶を差し出す。
「こ、これは?」
「薬液です。打ち身や痣には効果抜群ですよ」
な、なるほど、打ち身や痣みたいなもんだしね。
「あ、ありがとうございます」
ありがたくて思わず敬語になってしまう。
ヌリヌリッ
パアア……
ス、スゴい……! 塗った場所のアレが、あっという間に消えていく……!
「た、助かりました! ありがとうござ」
そう言って小瓶を返そうとすると。
「いえ、返さなくて結構ですよ」
……え?
「い、頂いていいんですか?」
そう言うと、私の前に手の平が現れ。
「金貨一枚になります」
っ……く……くそが!
チャリーンッ
「ありがとうございます~♪」
れ、冷静に考えれば、金貨一枚ってボッタクリもいいとこじゃん。
「け、敬語なんか使ってやるんじゃなかった……!」
苦々しい気分で、朝ご飯を口に掻き込んだ。
「……さて、どうやって帰るんですか?」
荷物もまとめ終わり、いよいよ出発の時間。ヴィーが私に重要なことを聞いてくる。
「そうですね、無難なのは……空を飛びますか?」
どうやってよ。
「ヴィーの配下を呼べば早いんじゃありませんの?」
ああ、竜騎士がいるんだから、人を乗せられるドラゴンはいくらでも手配でき……。
「ダメよ」
そうだった、そのドラゴンのせいで灼熱大陸に落っことされたんだったわ。
「大丈夫ですよ、サーチ。最初からモナ・リーゼは当てにしてませんから」
ドラゲナイさん、信用ガタ落ち。
「ならば……船、ですの?」
まあ、空がダメなら海路になるが。
「沈みますね」
「沈みますわね」
「……沈むんですね、やっぱり」
そう、私と船の相性は最悪なのだ。
「だけど安心して。絶対に大丈夫な船があるから」
そう言って私は、スマホを取り出した。
「「えっ」」
それが何かわかるヴィーとナイアは、驚きの声をあげる。
「ていうか、スマホっぽい石版だけどね」
「「石版かよっ」」
つっこみをスルーして、スマホっぽい石版を放り投げ。
「出でよ、ルック船長!」
……ぼわわわん!
スマホっぽい石版は煙に包まれ、だんだんと人の形になっていき。
『……およ? 世界が違う?』
ゴスロリ姿のツインテール眼帯美少女が姿を現した。
「ミスズさんに頼んで、こっちにも呼び出せるようにしてもらったのよ」
ルック船長はキョロキョロと周りを見て、自分がどこにいるのか確認する。
『……世界把握……海路策定……』
ん?
『……幽霊クルーザー顕現』
ブゥン!
ザザザアアアアン!
ルック船長の言葉とともに、ピカピカのクルーザーが海に出現した。
『さあ、七つの海を制覇するのだああっ!』
「って、待ちなさい! その前に頼みたいことがあるのよ」
『……ええ?』
ノリノリで出航しようとしてたとこを止められ、おもいっきり不機嫌な表情を晒すルック船長。
「……ていうか、私は取り憑かれ主のはずよね?」
『……何で取り憑いてる側が、取り憑かれてる側の言う事聞かなくちゃなんないのよ』
それは……確かにそうかも。
「だったら簡単ね」
ジャキッ
「このミスリルの剣の斬れ味、試されたい?」
『た、試されたくないですっ』
シージャックしちゃえばいいんだ。
「だったら私達を新大陸に送ってから、七つの海を制覇しなさい。わかった?」
『わ、わかりました』
ハンズアップするルック船長の横を、ヴィー達が通り抜けていく。
「ていうか、あんた達も当たり前のように乗るわね」
「まあ、サーチのする事ですから」
「いい加減に慣れましてよ」
「リ、リーフも段々わかってきました」
そう言って船内に入っていく三人。
『……取り憑き主ぃ、わたしが言うのも何だけど……いいのかよ?』
「……いいんじゃない?」
もはや苦笑いするしかなかった。
『よーし、出航!』
砂漠大陸の港に、元気な幽霊の声が響く。
「……今回は静かな終わりね」
「そうですわね」
新たな国造りに忙しいふぇ子と長老達には、見送りはできない。他に見送る立場の娘達は、私達より先に行ってしまった。
「まあ……平和に終わったんだから、これはこれでいいんじゃない?」
順調に大陸から離れていく幽霊クルーザーは、結局新大陸まで沈むことはなかった。