extra4 見送のサーチ。
精霊族の新たな生活基盤は、私達が心配する必要もないくらいに順調に作り上げられていく。
「怨嗟様、次はあちらをお願いします」
「ふぇぇ」
「怨嗟様、次はこちらを」
「ふぇぇぇ」
「申し訳ありません、怨嗟様。次はあれとそれとこれを」
「ふぇぇぇぇ!?」
怨嗟……ふぇ子が文字通り二十四時間フル回転で働いているため、難題はあれよあれよという間に解決されていく。いやいや、流石は〝怨嗟の竜〟だわ。
「最終的にはかなり近代的な町になりそうね」
私の言葉に、ヴィーが頷く。
「ちゃんと馬車道も整備されていますね。定期的に乗合馬車が停留所を回るそうですよ」
バスみたいな感じで、こまごまと定期便が設けられるそうだ。
「港も近いし、荷馬車も増やしたし、交易も始めるみたいだし」
「ええ、それは私もありがたい限りです」
先週ヴィーがふぇ子に直接持ちかけて実現した交易は、順調に進んでいるようだ。灼熱大陸からは様々な鉱石を、新大陸からは食糧を輸出する予定で、徐々に品物を増やして拡大していくらしい。
「あんたも抜け目がないわね」
「それはもう。一応、首相ですし」
ヴィーいわく、ここに来ているのにもそれなりに意味があるらしい。
「ていうか、私に会いたかったってのが真の理由で、交易云々は後づけだったりは……しないよね?」
あ、鳴らない口笛を吹きながらあっち向いた。図星だな。
「ていうか、一国の首相が私用で職務をほっぽりだしていいの?」
「ほっぽりだしてません! ちゃんと秘書官が代行してますから!」
……秘書官には何かしらお土産買っていきなさいよ。
こうして、こちらに帰還してから一ヶ月も経たないうちに。
『では、初代大統領は〝怨嗟の竜〟様に決定致しました!』
「ふぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
ふぇ子による支配体制は盤石のモノとなっていき。
「さて、社会システムも構築できましたから……そろそろですね」
私達が灼熱大陸を離れる日が、近づいていた。
「では一足先に帰らせてもらいます」
最初に、ミスズさんが新大陸へ帰ることになった。ずっとふぇ子のお目付役として残留していたけど、役職や縁故で雁字搦めになって逃げられない状況になったと判断しての帰郷だ。
「ミスズさん、何だかんだ言いながらも、ふぇ子には協力的でしたね」
「協力的?」
「はい。私はてっきり嫌ってるんだと思ってました」
それを聞いたミスズさん、ニーッコリと微笑み。
「ダウトされたいですか?」
「い、嫌です!」
「そうですか。ならば二度とそのような戯言をほざかないように」
ミ、ミスズさんの背後に黒々としたオーラが立ち上ってる。
「そ、そんなに嫌々だったんですか!?」
「ええ、まあ。本来ならば、私が精霊族の為にここまで動く理由はありませんしね」
そ、そりゃまあ、そうなんだろうけど。
「なら、何のためにここまで?」
「そうですねえ…………私の加護対象がそう望むだろうから、としか言えませんね」
ミスズさんの加護対象?
「…………」
もしかしたら……ヴィーだろうか。灼熱大陸が繁栄して一番得をするのは、ヴィーが属する新大陸共和国だし。
「……わかりました。ならそこは聞かずにおきます」
「…………………………そうですか」
え? ミスズさん、何故か悲しげ?
「ではサーチ、また会いましょう」
ブゥン
そう言ってミスズさんは帰っていった。
「……? 何であんな表情を……?」
あ、ヴィーじゃないのかな。
「なら……ナイア? いや、あれだけダウトされてるんだから違うか……あ、もしかしたらリーフ? それなら灼熱大陸復興に一生懸命だったのも肯ける」
「はい、八つ当たりダウト~」
ずびしっ!
「ぐぎゃあ!」
ゴロゴロゴロゴロズシャーッ!
ど、どうやら、それも違うみたいで…………がくっ。
しばらくしてから、精霊シスターズ。
「サーチお姉様、先に行ってます」
「ていうか、どうやって行くの?」
「火属性で飛ぶ」
「水属性で飛びます」
「風属性で~」
あーはいはい、わかったわかった。
「ていうか、まずはどこを旅してみるつもりなの?」
三人は顔を見合わせて、首を同時に捻り。
「「「……風の吹くまま、気の向くまま?」」」
……大丈夫だろうか。
「……ま、最初はリファリスにアドバイスしてもらいなさい。それが賢明だわ」
「いえ、リファリスさんでしたか。もう私達とパーティ登録してるみたいで」
リファリス、旅に出る気満々じゃねーかよ。
「……それより、気になるのは……」
「ホープ、ですよね」
そう。精霊シスターズの言うように、ホープが行方不明なのだ。無論、イロハも。
「……精霊族が全員砂漠大陸に移動した時に、一緒に来たとばかり……」
「ま、オニコとツィツァが捜索隊として枯草大陸に行ってくれてるから、そのうち見つかるわよ」
これに関しては、あの二人から申し出てくれたことだ。私が強要したわけではない。
「ていうか、あの二人はもともと残留するつもりだったみたいだから」
「はい。それは私達も聞いてました」
特にツィツァが、イロハに言いたいことがあるんだとか。それにオニコも加わる形だ。
『あくまで復讐だからな、復讐! あたいの顔に傷つけた仕返しだからな!』
『ワシもだ。腕の恨みがメインであって、探すのはついでだの』
あくまで私怨を強調してたけど、とてもそうは思えない。あの二人、意外とツンデレ属性なのかも。
そして、その一週間後。
「いよいよですね」
「……ええ」
私達が旅立つ日がやってきた。