第二十一話 ていうか、私の準決勝! 勝てば決勝!
「いい戦いだったわ。〝刃先〟相手に善戦したわよ」
「ん。私だったらエイミア姉に何もできずに完敗すると思う。見事なり」
なりって……。
「大したもんだよ。私の……捨て身の慰めも、少しは役に立ったんだよな? 立っただろ? 立ったって言ってくれよ?」
残酷だけど……笑いの種になったくらいが関の山かと。
「実際に見事な攻撃だった。この僕が避けるだけで精一杯だったよ」
「ウソつかないの。全然息が上がってないじゃない」
「一応あれくらいの長丁場をサバけないようじゃ、アサシンとしては失格だよ」
ぐさあっ!
「そ、そうなの……アサシンとしては失格……あはははは……」
「ど、どうしたんだい? 顔が引きつっているみたいだが?」
「気にすんな。それよりお前さ、エイミアに言わなきゃいけない事があるんじゃねえのか?」
「ああ、僕もそのつもりでここまで来た。エイミア……だったね」
実を言うとエイミアは、〝刃先〟が来たとたんに私の後ろに隠れていた。私より身長があるから、隠れられてるとは言いにくいけどね。
「……はい、なんでしょうか……」
「先程の戦いの際、あなたに無礼な真似を働いてしまい、本当に申し訳なかった」
あらあ、意外と紳士じゃん、〝刃先〟って。
「え!? あ、はい、こここちらこそ……お気遣いなく」
〝刃先〟の洗練された動作に、エイミアが顔を真っ赤にしてる。下げていた頭を上げた〝刃先〟は、真剣な表情をしていた。
「ただ……ね。君のその格好は止めた方がいいと思うよ」
くっ! こいつ天然でエイミアの心的外傷に触れてきた!
「そんな男を誘惑するような破廉恥な格好をしていると、勘違いした男が群がってぐがっ!」
背後からリジーの壺が炸裂し、〝刃先〟は気を失った。
「エイミア、気にしなくていいからね! あいつの言ってることは……」
「…………もういいです。実際にこの状態になってから、凄く動きやすいですし」
え?
「竜のヒゲの効果なのかわかりませんけど、守備力も魔術への耐性も格段に上がってますし……」
格段に上がったの!? そこまでスゲえアイテムだったのね、竜のヒゲ……。
「ですから、全然気にしてませんよ。全然々気にしてませんよ。全然々々気にしてませんよ。全然々々々気に」
「わかったわよ! 々をいくつ増やすつもりなのよ」
「そそういうわけですから……私は大丈夫ですからね……」
とか言いながらトイレに入っていって。
「……びえ〜〜」
めっちゃ気にしてるじゃないの!!
「……〝刃先〟、あんたが泣かせたのよ」
「え? 僕が悪いのかい?」
どう考えてもあんたの余計な一言が原因じゃないのよ!
「……まあいいわ。エイミアが泣くのは日常茶飯事だし……」
「……日常的に泣くのかい……余程な日常なんだね」
「どういう意味よ! とにかく、明日は私と対戦よ。エイミアのようなわけにはいかないからね」
「まだ戦ってないのに勝ったつもりかい? 余裕だね」
「余裕じゃないし、あんたに易々と勝てるとはカケラほども思ってないわよ!」
「いやいや、僕より前に対戦しなきゃならない人がいるだろ。会場でもう待ってるんじゃない?」
あ! 次の試合、私だったんだ!
「……遅れてくるとは随分と余裕綽々だな」
こめかみに血管を浮かべてる対戦相手が嫌みをぶつけてきた。
「すいませ〜ん……〝刃先〟に呼び止められて話をしてたもので」
「ええ!? 〝刃先〟と!? な、なら仕方ないな、うん。人にはミスがあって当然だからな、うん」
ちょーっと言い方にカチンときたので〝刃先〟の名前を使いました。効果てきめん。まあ、このままでは終わらせないけどね。
「ミスって……ひっど〜い!!〝刃先〟と会話することをミスだって言うんですか〜!? 〝刃先〟に対しても、メチャクチャ失礼じゃないですか〜!?」
まさに「虎の威を借る狐」状態♪
「すいませんでしたあああ! そういうつもりではなかったんですううう!」
うん。いいおっさんが半泣きになってるので止めよう。わんわん泣なかれたら誰得って感じだし。
「どちらにしても、私に勝てば明日は〝刃先〟に会えるわよ? 会いたくないのなら降参する?」
「まさか。それとこれとは話は別。オレが勝って決勝に行く」
「ま、口では何とでも言えるからね」
対戦相手がバトルアックスを構える。私も事前に準備してた短剣を両方逆手で構えた。
『それでは、始めてください!』
「うらああああっ!!」
ぶおんっ!
「ひょいっ」
「『突進王』の異名を持つオレの一撃は重いぞ! そんなやわな短剣で受け止められるか!?」
あんなの誰が受けるか! 重い一撃は受けるんじゃなくて、逸らすのよ!
「どりゃあ!」
ギィン! ギャリ
うわ! 一撃で両方ともヒビが入った!
「うぬ! っとっと」
隙ありぃっ!
「はあっ!」
がごんっ
「おおっ!? ふっ、大した威力だな」
やっぱ蹴りは通じないか。こりゃ私と同じ重装戦士かな?
「なら、これはどう!?」
ドラゴンのレッグガードは硬いわよ!!
「何の!」
がっ! ぐりっ
「うそっ!」
盾の丸みで蹴りを捌いた!
「おりゃっ!」
がごっ!
「かふっ!」
いったあっ! 脇に拳を食らった!
「どうだ! オレのパンチは痛いだろう!」
「当たり前よ! 鉄の小手でぶん殴られれば、誰だって痛いわよ!」
でも、これで勝機が見えた!
「ぬんっ!」
バトルアックスを寸前で避けて懐に入る!
「甘いわ!」
予想通りに飛んできたパンチに合わせて、リングブレードを作り出す!
ギャギ!
「ぐわあっ! 手、手がぁ!」
いっくら鉄の小手でも、ミスリルの刃物相手じゃ分が悪いわよ。相手が怯んだ隙に首に足を巻きつける。あとは遠心力で!
「いっけええ! 久々のフランケンシュタイナー!!」
「ぬわーーー!!」
がぎいいいん!
……すた
地面に突き刺さった対戦相手は……ピクリともしない。
『……どう見ても戦闘不能ですね……この勝負、サーチ選手の勝ち!』
ザワザワ……
「一応最後の帝国貴族になるのかしら?」
〝刃先〟は貴族かどうかわかんないのよね。
やがて。
ざわついていた観衆は、私に毒づきながら退散していった。ほぼ貴族だからムリないけどね。
「やったな、サーチ」
「ん……でも戦い難そうだわ」
「たぶん何か仕掛けてくる」
リジーの言う通りね。このまますんなりと決勝戦を戦わせてくれるはずがない。
「まあ、今考えても仕方ないわ。今日は帰ってパーッと盛り上がりましょ!」
「「「さんせーいっ!」」」
「おのれ…! おのれおのれおのれぃっ!」
「……落ち着かれよ」
「これが落ち着いていられるか! 下賤な輩が、この神聖な帝国闘技大会を汚しておるのだぞ!」
「落ち着かれよ、と言ったはずだ。それに……決勝戦まではまだ時間がある」
「っ! そうだ……まだ時間があるのだ! ははははは、どのような事故が起きようとおかしくないのだ! はははははははは!!」