extra3 昇進のサーチ。
怨嗟……まあ、ふぇ子でいいか……と精霊族との間で話し合いの場が設けられることになり、私達もオブザーバーとして参加することになった。
「っていうか、何で私達が参加しなくちゃなんないのよ?」
「それは私も思わないではありませんが……」
ヴィーは困ったような表情を浮かべ、私の隣に座っている。
「まあ、仕方ありませんわよ。蛇の女王として、月の魔女として、この国の発起を見守って下さいと頭を下げられた以上、付き合わない訳には参りませんわ」
ヴィーと対になるように、私の隣に座るナイア。その席の前には「月の魔女様」と書かれた貼り紙がしてある。
「あの、リーフは思いっきり場違いなのではないでしょうか……」
私の斜め後ろの席に、身を縮みませて座るリーフ。立ち位置としては「蛇の女王様、月の魔女様のお世話役」となっている。
「いいのです。私達と同じサーチの伴侶なのですから、リーフだけ仲間外れなんてあり得ません」
「その通りですわ。ワタクシとしましては、一歩下がったような席しか準備できなかった事を、申し訳無く思ってましてよ」
「いえいえいえ! サーチお姉様の近くに居られるだけで十分ですから!」
緑色の顔を真っ赤に染めながら、両手をブンブン振るリーフ。ていうか、めっちゃ目立ってますよ。
「ていうか、司会進行がミスズさんなのも何気にスゴい……」
そのミスズさん、何故かビシッとスーツにメガネ姿。ていうか、この世界でスーツ見たの初めてなんだけど。
『えー、お集まり頂きまして、ありがとうございます。これより第一回・怨嗟の竜を吊し上げゲフンゲフン、囲む会を開催致します』
今、絶対に吊し上げって言ったわよね!?
ワアアアアッ!
パチパチパチパチパチパチ!
怨嗟、の名前が効いたみたいで、会場の精霊族からは割れんばかりの拍手が巻き起こる。
「……怨嗟の竜って、意外と人気あるのね」
「精霊族は加護対象ですからね。人気があって当然ですよ」
ううむ。確かにそうかもしんない。
って、あれ?
「ねえ、ヴィー」
「はい?」
「嘆きの竜にも加護対象ってあるの?」
「はいい? 急に何ですか?」
「あ、いや、ちょっと気になって」
人間にも獣人にも古人族にも平等に厳しいから。
「そうですね……」
ヴィーは何故かミスズさんをチラチラ見ながら、言うのを躊躇っている。
「何でミスズさんを気にしてるの?」
「あ、いえ、何でもありません……ひぇ!?」
急な殺気を感じて振り向くと、こちらを見ているミスズさんと目が合い、ニッコリ微笑まれる。
「あ、あの、そうです。嘆きの竜の加護対象は、個人なんです!」
個人!? 個人なの!?
「へ、へえ、個人ねぇ……加護対象にとってはずいぶんと贅沢な加護だわね」
「そ、そうですね……」
ヴィーがブルブル震えている。寒いのかな?
「ま、それが私だったり……」
「ひぅっ!?」
「……なんてことはないわね。あれだけビシバシダウトされてるんだし」
「そ、そうですね。あははは……」
……こちらを見ていたミスズさんの視線から殺意は消えたけど、何故か寂しげな気配が伝わってくる。な、何で?
『……さて、ここで来賓の方々をご紹介致します』
来賓……ってことは、私達か。
『まずは魔王アリア様の名代でもあり、蛇の女王でも在らせられる、ヘヴィーナ女史!』
呼ばれたヴィーが立ち上がり、優雅にお辞儀する。首相という立場上、こういう場には慣れているようだ。
パチパチパチパチ!
大きな拍手が送られる。ていうか、魔王名代なんだ。
『続きまして、月の魔女として今回の戦役へも多大な貢献をして頂きました、ナイア女史!』
ナイアも慣れたもので、にこやかにお辞儀する。
キャアアアア!
パチパチパチパチパチパチ!
月の魔女様はこの大陸では信仰の対象でもあるそうで、これまた拍手喝采だ。ていうか、ヴィーより多いよね。
『続きまして、ナイア女史の手下……失礼しました、配下として戦役に貢献しやがった……失礼しました、して頂きました、オニコとツィツァ……失礼しました、オニコさんとツィツァさんです』
あ、いたんだ。
「ワシらだけ扱いが雑すぎる!」
「あたいを何だと思ってるんだよ!」
『はい、五月蝿いので遠隔ダウト~』
ずびしっびし!
「「ぐぎゃあ!?」」
『……はい、次いきます』
何かがズルズルと引きずられていく音がしたけど……まあいいか。
『最後に、ヘヴィーナ・ナイア両女史を伴侶とし、今回精霊族の若き才媛・リーフ嬢を新たに人生の連れ合いとなさいました、A級冒険者の〝闇撫〟のサーチ様!』
へ?
ワアアアアッ!
キャアアアア!
パチパチパチパチパチパチ!
「ま、待って待って! 私がA級冒険者!?」
『はい。私のゴリ押し……もとい推薦で決まりました』
「い、いつ!?」
『ついさっきです』
ついさっきって……ギルドのA級判定会議も同時進行なのかよ!
「ていうか、何で〝闇撫〟を引っ張り出してきたわけ!?」
『サーチ様の代名詞と言えば〝半裸〟か〝全裸〟か〝露出狂〟か〝ビ○チ〟』
おい。その代名詞を考えたヤツ、全員前に出ろ。
『その中で一番〝闇撫〟がまともでしたので』
く……た、確かにまともかもしれない。
『そういうわけで、新たなA級冒険者の〝闇撫〟のサーチ様に、もう一度大きな拍手を!』
パチパチパチパチパチパチパチパチ!
……何か嬉しくない。
結局、肝心なふぇ子を囲む会は、滞りなく淡泊に終わった。