第二十話 ていうか、エイミアが胸を借ります!
後ろからエイミアの肩を揉みほぐしてやる。
「緊張したって仕方ないじゃない。ほらほら」
「あうあう……」
それに合わせて頭をガクガクするエイミア。大丈夫かしら、この子……。
「気張って行かなくてもいいんだよ。リニューアルしたローブの御披露目くらいの気持ちでぶぎゃっ」
「アホかあんたはああああああああっ!! さらにハードルを上げてどうすんのよ!!」
「痛……ハードル上げるって……あ」
「はうううううううっ……」
リルから追い討ちを食らったエイミアが頭を抱えていた。たぶん……現実から逃げていたのね……。
「どうしてくれるのよ。私が必死になってエイミアのテンションを上げてたのに」
「う、うーん……すまん」
「もうっ! こうなったらリルも協力してよ?」
「お、おう、わかった!」
リルはエイミアに寄り添う。
「が、がががんばれ! ナスはなる!」
為せば成るだよ! ナスがなってどうすんのよ!
「や、やってみなけりゃわからねえじゃないか! 〝刃先〟がコケて頭打って死ぬかもしれないし」
宝くじ一等並みの低確率な慰めすんな!
「そ、それに……えっと……お前の下乳に見とれて、大きな隙ができるかも……」
また禁句に触れてるし!
「うぐ……ぐう! お、お前には、私にはない胸があるじゃねえか!」
リルが捨て身になったけど、全然慰めになってないし!
「う……うわあああん!」
リル、壮絶な自爆。
「自分で言ったことにダメージ受けて撃沈しないでくれる!?」
あああもう! どうすればいいのよおお!
「エイミア姉」
すると、意外なところから救いの手が現れた。
「サーチ姉が言ってた事だから、間違い無いと思う。それを踏まえて言うけど」
リジーは泣いているリルをどかしてエイミアの隣にしゃがみ込んだ。
「……どうせ負けるのが確定なら、それを前提に取引してみては?」
「「「……はい?」」」
『それでは両者、前へ!』
うまくいくかしら?
「大丈夫だと思う。サーチ姉の話を聞く限り、〝刃先〟はこういう話には乗ってくると思う」
ま、〝刃先〟は相当手加減してくれるみたいだし……あとはエイミア次第ね。
「〝刃先〟さん。どうかよろしくお願いします」
「こちらこそ。君のパーティのリーダーからくれぐれも頼むと念を押されてるからね……手荒なことはしないよ」
「サーチが……わかりました。ところで〝刃先〟さん」
「何かな?」
「私に触れる事無く勝ってみせる……とサーチに言ったそうですけど?」
「うん、言ったよ」
さあ、ここからよエイミア。ちゃんと教えた通りに言ってくれれば……!
「私をあまり舐めないで下さい。私に対する重大な侮辱ですよ?」
「! ……これはこれは……てっきりあなたは争いを嫌うタイプかと思ってましたよ。それは大変失礼しました。あなたにも武人のプライドがあるのですね」
たぶんエイミアはプライド云々より、そこから逃げ出したい気持ちが勝ってると思われ。
「謝罪を受け入れます」
「ありがとうございます……できれば何か償いをさせて欲しいのですが」
キターーーーーーーーっっっ!!!
「……何でもいいんですか?」
「はい。負けてくれ、とか死ね、とかいう無茶な事じゃなければ」
く……!
「わざと負けて」はやっぱムリそうね。
「……わかりました。でしたら」
エイミアが緊張感を増した。
「試合中に一撃でも〝刃先〟さんに攻撃を当てられたら……“死神の大鎌”をください!!」
………完全に会場が沈黙した。
「……クク……アッハハハハ!!」
堪えきれなかったのか、〝刃先〟は突然笑いだした。
「……むう〜」
笑われたことがイヤだったらしく、エイミアはふくれている。
一頻り笑ったあと、〝刃先〟は涙を拭きながら……。
「あー、面白かった。流石サーチと同じパーティの子だ……わかったよ。その条件でいいよ」
エイミアの提案に乗った。
「ただ僕が優勝するかはわからない。だから僕が優勝した時に限るけど、それでもいいかい?」
「……わかりました」
さあ、お互いに同意したから……。
『それでは……始めてください!』
……真剣勝負だ。
〝刃先〟は構えもせず突っ立っている。エイミアは私の方を向いて叫んだ。
「サーチ! アレを出してください!」
「アレって……まさか!?」
〝知識の聖剣〟を!?
「……いいのね?」
私の確認に頷くエイミア……本気なのね。
「わかったわ、受け取りなさい!」
魔法の袋から〝知識の聖剣〟をゴミばさみで摘まんで放り投げる。それをエイミアは避ける。
ガランガラン!
地面に転がった聖剣を見て〝刃先〟は目を見張る。
「まさか……〝知識の聖剣〟!?」
ザワザワザワ
そりゃザワザワするよね。勇者の証ともなる〝知識の聖剣〟を皇帝じゃなくエイミアが持ってるんだから。下手したらめんどくさいことになる……エイミア、うまく誤魔化してよ?
「違います。聖剣じゃありません」
エイミアが必死に誤魔化す。
「これは…………聖剣に憧れた魔術士が造り出した魔道兵器。名前は……」
エイミアが涙目で私を見る。仕方ないわね。
「その剣の名前は……うーん……マカデミア! 偽剣〝知識の豆剣〟です!」
やべえ。我ながらセンスがなさすぎる。何だよ知識の豆剣って!
「ほう……マカデミアか。聖剣にも負けず劣らずの良い剣だな」
嘘……〝刃先〟が納得した!?
「何と……」
「誰が造ったかはわからぬが、名剣だな」
「大したものだ」
大衆も納得した。
…………まあ、納得してくれたら……いいか。
「それじゃあ行きます!」
エイミアが嫌々聖剣に手をかざす。
すると。
「え!? 剣が浮いた!」
〝刃先〟はかなり驚いてる。
「えい! やあ! たあ!」
エイミアがゴキブリを指差す感じで聖剣を操る。
「ぅわっ!」
かなりのスピードで飛来した〝知識の聖剣〟……じゃなく〝知識の豆剣〟を寸前で避ける〝刃先〟。
一方的に攻めるエイミア。それをすべて避ける〝刃先〟。その戦いは延々と続き……。
「はあはあはあ……これでどうですか!」
「危な!」
結構な近距離を豆剣が通り過ぎる。
と、その時。
すたんっ! くきっ
「!? わったたっ」
着地のときに、宝くじ一等並みの低確率の奇跡によって〝刃先〟が蹴躓き。
「く……くっ……ぅわ」
「きゃあ!」
エイミアに縺れて倒れた。
「ご、ごめん……ん?」
むにゅ
〝刃先〟の手は……毎度お馴染み、ラノベの定番、ラッキースケベとなり。
「い、いやあああああああっ!!」
ぱあんっ!
エイミアの平手打ちが〝刃先〟に炸裂した。
結果。
魔力切れを起こしたエイミアがこのあと失神し、〝刃先〟の勝利。
だけど〝刃先〟に触れるどころか、張り倒すことに成功したエイミアは。
「約束だからね。僕が優勝したら必ず〝死神の大鎌〟は君に譲るよ」
エイミアの〝死神の大鎌〟ゲットだぜ……は確実となった。