last stage13 勇足のサーチ。
「……見えてきたわね」
いよいよ迫ってきた火口。赤く赤く照らされるマグマの赤い光によって、私達を待っているそれが映し出される。
「炎の……王」
灼熱大陸で戦ったのとは違い、ゲーム内の炎の王は人の姿をしていた。
「……迫力がまるで違いますね」
唯一炎の王と戦ったことがあるリーフが、見た目での感想を呟く。
「ま、確かにね。灼熱大陸んときは、炎が顔になってヒャハヒャハしゃべってただけだったし」
「ふぇ? ヒャ、ヒャハヒャハ?」
ふぇ子のつっこみ(?)という珍しい現象が起きたけど、とりあえず無視。
「さーて、挨拶くらいしておきましょうか……えいっ!」
ビシュッ!
投げナイフを取り出し、炎の王に向かって投げつける。
シュウウゥゥ…………ザスッ!
「えっ、げっ!?」
ウ、ウソでしょ!?
「ど、どうしたんですか!?」
思わず驚愕の声を上げてしまった私に、みんなの視線が集まる。
「……ナイフ……刺さっちゃった」
「え?」
「ど、どこにですか?」
額を指差し。
「み、眉間」
「「「………………はい?」」」
当然ながら、普通の人間だったら即死して当たり前の、急所中の急所である。
「…………」
徐々に徐々に近づいてみるものの、眉間にナイフを突っ立てたままピクリともしない炎の王。
「……うん、しっかりと血も流れてるわね」
眉間から流れ出た血が唇を濡らしている。気持ち悪くないんだろうか。
「……あ、本当ですね。生命反応が感じられません」
ヴィーにも見えたようだ。あくまでアン先輩という仮初めの身体に宿っている状態のため、蛇の女王としての力もあまり使えないらしく、普段のような視力はない。
「うむ、確かに生命反応が無いのう」
マーシャンは回復魔術士の視点で診たようだ。
「生命反応が無いって……サーチお姉様のナイフ投げで勝負が決まっちゃったんですか?」
「いや、まさか、ねえ」
……もう一回投げてみるか。
ビシュッ!
今度は喉を狙ってみる。
シュウウゥゥ……ザスッ!
「え゛」
さ、刺さった。
「……眉間ほどではありませんが……致命傷ですよね……」
リーフが呆然とする。ま、確かにその通りだ。
「……もしかして、普通の武器は通用しない?」
「え、普通の武器?」
「もしかした、アンデッド的な存在なのかと」
「「「あー……」」」
もし炎の王がアンデッドだったとしたら、あの身体に普通のナイフが当たっても反応がないのか、理由になる。
「低級なゾンビは別だろうけど、普通のアンデッドは通常の武器は無効だったよね?」
「そのはずです……成程、避けないのでは無く、避ける必要すら無かったという事ですか」
私とヴィーの会話を聞いて、全員納得。
「あの、でしたら私が試しましょうか?」
リーフ?
「いかにアンデッドであろうと、属性攻撃の影響は避けられません」
確かに。苦手な属性でもそうじゃない属性でも、完全に無効化するのは不可能だ。
「うん、いいわね。ちょっとやってみてよ」
「はい。では、『深緑の葉刃』!」
リーフのフェイバリットが炸裂する。
バササッ……シュシュシュシュシュシュッ!
無数の緑色の凶器が、微動だにしない炎の王に殺到する。
……ザスッ!
えっ。
ザクザクザクザクドスドスドスドス!
ええっ。
ズバズバザクザクドスドス!
えええっ。
スパーン! ドシュウ! ザックン!
うわあ、スプラッタぁ。
ボトボトッ ゴロゴロゴロッ
う、うわあ、リアル八つ裂き。
「えええっ!?」
ラスボスとして戦うはずだった炎の王(身体)は、私達と一戦交える前に、完全に死に体となってしまった。
「こ、これって、どうなっちゃうんでしょうか?」
戸惑うリーフ。ていうか、私に聞かれても。
「と、とにかく、近くまで行ってみましょ」
ていうか、それしかないし。
炎の王(身体)に近づいてみると、間違いなくフェ○タ○ティ状態だった。
「内臓ドバァ、脳みそバーン、これで生きてたら奇跡だわね」
アンデッドでも復活に三日くらいかかるだろう。
「今のうちに燃やしちゃいますか?」
「「「さんせーい!」」」
ヴィーの提案に全員が賛同する。ま、見てて気持ちいいモノではないし、さっさと灰にしちゃった方がいいか。
「ならマーシャン」
「……どうにも便利屋扱いされている気がするが……ま、それも良かろう」
よくおわかりで。
「……私もその類の扱いだった気がします」
「その分、あとから私を押し倒してたのは誰だったかしら」
明後日の方向を見ながら、鳴らない口笛を吹くヴィー。
「救われぬ魂に救済を。≪浄化の炎≫」
……ボッ
青い炎が炎の王(身体)を包み、浄化していく。
「ふむ。あの炎でなかなか燃え尽きないとなると、相当に汚染されておるようじゃの」
汚染て。
「まあいいわ。時間かかってでもいいから、骨まで残さずに灰にした方が」
『ああああああああああああああっ!!』
「うわビックリしたぁ!」
後ろから突然悲鳴が響く。し、心臓に悪い。
『わ、我の……我の美しい完璧な身体があああああああっ!』
ん? この声は、まさか。
「……炎の王?」
『斬られてもダメージを受けない完全体がああ! 骨まで焼かれて灰になっているではないかあああっ!』
あ、あらら?
「まさか、その身体にあんたが宿って、ラスボス完成?」
『そうに決まってるではないかああああああっ!』
あ、あら、あらら。
「あ、あはは、あはははは…………ま、まあ、いいじゃない。身体はなくても戦えるでしょ?」
『そういう問題じゃないいい! 我の身体をどうしてくれるのだあああ!』
……マジですまなんだ。