第十九話 ていうか、抽選じゃない抽選で決まった対戦。
「うう〜……恥ずかしい」
会場へ向かいながら、エイミアは悶えていた。
「悶えてません! 何でここまで切れ込み入れちゃうの〜……」
「でもそのおかげで胸のサイズ調整が自在になったんじゃない?」
「もうこれ以上、大きくなってほしくないです!」
さいですか。
その大きくなる成分を私によこせ。
……何てエイミアと漫才をしていると、反対側からリルとリジーがこっちに向かって走ってきた。
「おはよ。こんな早くからどこへ……!!」
リルはエイミアを見て絶句した。リジーもエイミアを凝視している。
「エ、エイミア、お前何でそこまで切れ込みを入れたんだよ!? 下乳まで見えてるじゃねえか!?」
「いやあああああああっ! 言わないでくださああい!」
「……エイミア姉……だいたーん」
「やあああめえええてえええっ!」
「リルは落ち着いて。リジーは抉らないの」
「「……はい」」
でも正直に言うと、これでエイミアは私以上に露出狂扱いされるわね。
「でもあそこまで肌が露出すると、ドラゴンローブの意味が無いんじゃ」
「大丈夫なのよ。あの胸の編み紐、竜のヒゲよ」
「……マジか……」
「防具屋さんが無料でつけてくれたのよ」
超高級品なんだけどね。
「……何てムダな執念なんだ」
……まあ、そのムダな執念のおかげで、エイミアのドラゴンローブの守備力はアップしたんだから、ま、いいんじゃない。
ただし、私達が会場へ向かう間に、エイミアに視線が釘付けになってあちこちに衝突するバカな男が続出することとなった。
「? 何故か往来でケガしてる人が多くないですか?」
厳密に言えばエイミアのせいだよ。
「……私も大胆にいくべき?」
止めなさい。このパーティ唯一の清純派の砦を崩さないで。
「リジー。サーチやエイミアみたいな露出過多は真似しちゃダメだぞ」
「…………」
それだけの脚線美を強調してるリルだけには言われたくない。
……って顔をしてるわね、リジーは。
「リジーは今のままが一番いいわよ」
「ん。わかった」
今日の準決勝もまた再抽選だ。もはやトーナメント表が意味を成さない。
「そうなると……私対エイミア……なんて可能性もあるわけか」
「つーかよ、その可能性が高いわな。どうせ冒険者同士で潰し合いをさせる腹だろ」
……その時は……。
「サーチ。そうなったら私は正面から堂々と行きます。訓練の成果を見せてあげますよ」
……言うじゃない。
「わかったわ。なら私はエイミアの死角から、チクチクとイヤらしい攻撃ばっかしてあげる」
「おい、そこは正々堂々と戦うシーンだろ!?」
うるさいわね。アサシン的にはこれが正々堂々なのよ!
「と……とにかく! 手加減無しで全力でお願いします!」
「わかったわ。ただ……」
「……ただ?」
「命の奪い合いは……御免だからね?」
「そ、それは当たり前です! 私も……嫌です」
もしも。
貴族が私達の殺し合いを目論んでいるのなら……。
「……全員殺す」
「「「!!?」」」
思いつく限りの痛みと苦しみを味わわせて……人間の尊厳を欠片すらなくなるくらい砕いて……死を望みたくなるくらい追い込んで殺してやる!
「…………ん? あれ? どうしたの、みんな?」
「わ、私、何かしましたか……?」
「サーチ、ちょっと落ち着こうな? な?」
「……サーチ姉が怖すぎる」
「「「ガクガクブルブル」」」
……何なの?
「あ、そういうことか……ごめんなさい。全員ってのは貴族のことよ」
「ふえっ!?」
あ、エイミアも貴族だったか。
「エイミアは元でしょ」
「……びえ〜……」
「エイミアもそうだけど、スケルトン伯爵みたいなまともな人もいるぜ?」
あ、そうだった。
「う〜ん……じゃあ悪い貴族ということで!」
「……良い悪いの判定基準は何なんだよ」
「私の独断と偏見」
「「「不安しかない」な」です」
……全員ゴートゥーヘルするわよ……。
「サーチの仲間想いはよくわかってるけど、暴走気味なんだよな」
「悪かったわね」
不貞腐れた時に、係員が「抽選会が始まります」と声をかけてきた。
「抽選会やるの? じゃあ試合は明日?」
「いえ、今日で終わらせる予定です」
……何か急に日程が慌ただしくなったわね?
「予選の頃の方が、ゆったりまったりしていた気が……」
「明日が皇帝陛下の誕生日でございまして」
あー、そういうこと!
決勝戦を皇帝のお誕生会の余興にしようってのか!
「何てめちゃくちゃな日程なのよ……皇帝の個人的都合が最優先なわけ?」
普通は国賓の手前もあるから、皇帝が少しは遠慮するのが普通だ。国のメンツってヤツがあるからね。
「皇帝がまともなら、この大会も少しはマシな進行してただろうさ」
違いない。
まともだったらここまで貴族に有利な展開にはしないだろう。
これじゃ国賓への心象は最悪だろうね。
「あの……できれば帝国側の前で、皇帝陛下をディスるのは止めていただけませんか……」
「「「「あ」」」」
しまった。やべ。
「あの……できればご内密に」
「わかってますよ。私も余計な事を言って、とばっちりを食らいたくありませんから」
……常に皇帝の下で働いてる人達はもっと大変なのね……。
『それでは皇帝陛下がお決めになられました組み合わせを発表致します!』
皇帝自ら決めてる時点で抽選会じゃないじゃない!
『ダラララララ……』
口で言うなよ。小太鼓くらい使えよ。
『ばんっ! ……第一試合! エイミア・ドノヴァン対……』
エイミアが第一試合。
となると私も……?
『……〜……〜……ん〜〜〜……』
変に溜めるな! さっさと言えよ!
『……〝刃先〟!!』
ザワッ
あ。
〝刃先〟って言っちゃったけど……良かったのかな。
ザワザワ……
『あ、失礼しました! 〝刃先〟ではなく、トール子爵様でした』
遅いわ!
完全にバレとるわ!
「あ〜あ……叱られるな、あれは」
「え! ええええ!? 私が〝刃先〟となんですか!?」
「減俸もの」
「ちょっと! 誰も私の心配してくれないんですか!?」
あー、そうだったわ。エイミアのこと忘れてた。
「えーと。エイミアはどうするの?」
「な、何がですか?」
「今回ははっきりと言わせてもらう。あんたじゃ100%勝ち目はない」
「そう……ですよね」
「おい、そこまではっきり言わなくても……」
「私でも100%ムリ。たぶんパーティ全員で挑んでも勝てない」
「そ、そこまで強いんですか!?」
私は頷いた。
「間違いなく、ね……どうする? 棄権するのも手よ?」
「棄権……」
エイミアはそう呟いてから。
「……いえ。戦います」
と、きっぱりと言った。
コツコツコツ
「……誰だ」
「おっさん臭い……」
「わかった誰かわかったからもう言うな」
「今から対戦する」
「わかっている。手荒な事はしない」
「手荒どころか指一本触れてダメだからね」
「難しい事を言う……まあいいだろう。その条件で戦ってやろう」
「え」
「ではな。決勝で待っているぞ」
「ちょっと! ホントに指一本触れないつもりなの!?」