last stage6 アロハのサーチ。
『取り憑き主ぃ、見えてきましたよぉ!』
甲板でストレッチをしていると、ルック船長の声が響いてきた。
「何が見えてきたの?」
『キラキララ火山ですよ!』
………………はい?
「待ってよ。火山に近づいてるなんて話、全くしてなかったじゃないの」
『火山に向かってるのに、火山に近づかないはずが無いでしょ?』
まあ……言われてみれば確かにそうなんだけど。
「だけど急じゃない? できれば『あと何日で到着します』くらいの定期的な報告は欲しかったんだけど?」
『取り憑き主の指示があれば、報告する気満々だったんですよ♪』
ウソつけ。
「まあいいわ。私はいつでもキラキララ火山にアタックできるように、準備は万端だから」
『へえ、流石は我が取り憑き主だぁ♪』
……最近ゴスロリ姿に慣れてきたのか、元の余裕綽々な態度が戻りつつある。フワフワと浮きながらクスクス笑う船長の姿は、元々の美貌も相まって不思議な迫力を醸し出していた。
「…………」
指先にミスリルをコーティングして。
キュッ
『はああああああん! な、何をするんだよ!』
しかもこのスタイルの良さ。幽霊にしとくのがもったいない。
キュッキュッキュッ
『はあああん! はああああん! ひゃあああああん!』
身をくねらせるルック船長。格好も格好だから、艶っぽいのなんの。
『……っ……スイッチ入っちゃいました』
え、スイッチ?
『取り憑き主ぃぃ……』
そう言いながら迫ってくるルック船長。
「あんたさあ…………自分が何なのか、今さら理解してないわけ?」
『取り憑き主ぃぃ……』
だからさあ……。
『取り憑き主の弱点はここだ!』
スカッ
『あ、あれ?』
スカッスカッ
『あれれ~?』
「あんた霊体でしょうが。生身の人間に霊力なしで触れるわけないでしょ」
『あ、あれ? 何で霊力が無いの?』
あんたねえ……。
「少し前に全霊力をつぎ込んで、私に噛みついたのはどこのどなただったかしら?」
『あー……あははは、私でした』
たくっ。
「ほらほら、ふざけてるヒマがあったら船を着けられる場所を探してよ」
『う、うん、わかりました』
そう言って動き出したルック船長ではあるけど、まだ耳は赤いままだった。
「アロハ~、オエ~♪」
みんながいるとこから、聞き覚えのある音楽と歌が聞こえてくる。
「何してんのよ、あんたら」
覗いてみると、思った通りにあの格好で踊ってるし。
「サーチさん、ハワワだよ!」
はい?
「海の楽園ハワワだよ! アロハだよ!」
ハワワ……って、ハワイのこと?
「ていうか、ハワワがハワイなら……キラキララ火山ってキラウエア火山?」
「そうだよ。サーチさん、まだ気付いてなかったの?」
あ、うん、全く気づいてなかった。
「……ん? ていうか、ソース子」
「ん? 何?」
「あんた、ハワイを知ってるのね?」
「え、当たり前じゃない」
「なら、リアルの記憶が戻ってきたんじゃない?」
言われたソース子はハッとなった。
「そ、そうだね、言われてみれば、ナチュラルに戻ってるね」
「なら、自分の名前も思い出した?」
「あ、あははは、肝心なとこがまだなんだ」
……そっか。
「せっかくあんたの正体がわかると思ったのに」
「あは、あははは、ごめんごめん」
「まあいいわ。記憶が戻ったときは、ちゃんと教えてね」
「う、うん、勿論、無論」
何か慌ててるような気がしたけど、気のせいかしら?
「……ふぅーぅ。危ない危ない、流石か……んね」
ソース子以外も。
「ふぇぇ、アローハ!」
「アローハなのじゃ!」
ふぇ子とマーシャンもノリノリ。
「あのね、最終決戦の直前でアローハじゃないでしょ」
「ふぇ!?」
軽く注意したつもりだったけど、メンタル弱めなふぇ子にはクリティカルヒットだった。
「ふぇぇぇぇ、ごめんなさいぃぃぃぃ」
あああああもう! そこで泣かれたら……。
「誰ですか、召喚主様を泣かせたのは!?」
ほらあああ、葉っぱフル装備のリーフが出てくるじゃないのおおお…………って、おい。
「何であんたまでアロハってんのよ!」
リーフ、ふぇ子達以上にフラダンスしてます。
「だ、だって、召喚主様がリーフも一緒にって」
とことん従順だな!
「嫌なら逆らってもいいんだよ? 憲法でちゃんと『基本的召喚獣権の尊重』は明記されてるんだし」
「き、基本的召喚獣権の尊重?」
「つまり、召喚主からのパワハラに抵抗してもいいってこと」
「パワハラ!? とんでもない、これはリーフの意思です!」
ほおう。
「つまり自分の意思で、上陸する準備を放棄して、アロハっていたと?」
「あ…………で、ですが、け、決してサボるつもりは無くて、ですね!」
「サボるつもりがないんだったら、サッサと着替えてきなさいっ!」
「「は、はいい!」」
ふぇ子とリーフが揃って飛んでいく。たくっ。
「ていうか、マーシャンもよ。サッサと準備して」
「いや、妾はいつでも準備万端なのじゃが」
ていうか、いつの間にか戦闘態勢万全になってるし!
「……まあ、マーシャンだしね……」
まあいいや、これで上陸して急に戦闘になっても対処できるでしょ。
タタタタ……バァン!
「陛下、お待たせしました! これから皆でアロー……」
……ヴィー?
「あんたも……アロハフル装備ね」
「あ、いえ、これはっ」
慌てるヴィー。あたふたする姿なんて滅多に見れないから、これはこれで可愛い。
「ヴィー」
「は、はい!」
「当分、月一だからね」
それを聞いたヴィーさん、この世の終わりが来たみたいな表情をして……って、そんなに残念なのかよ!
「……悲しみのアロ~ハ~……」
やかましい。