last stage5 無茶のサーチ。
「お風呂に入りたい」
私の何気ない一言が、今日起きる大騒動の始まりだった。
『今、なんて?』
「だから、お風呂入りたいって言ったの」
「「「あ~……」」」
私の一言にみんな納得。そりゃ、女の子だからね。
「サーチさんだからね」
「サーチですから」
「サーチじゃからな」
「サーチお姉様ですから」
「ふぇぇ、流石はサーチさんです」
待て。何で私だと納得なんだよ。
「「「温泉ジャンキー」」」
ジャンキー言うな。
『ちゃんとシャワーがありますよ』
ルック船長がそう言ってくるけど。
「違う、違うのよ。シャワーとお風呂は全然違うのよ」
私の力説に、みんな頷く。ま、そこは同意してくれるわな。
「温泉とはすなわちロマン! シャワーみたいにただお湯で身体を洗い流すのとはわけが違うのよ」
注! シャワー愛好家の皆様、ごめんなさい。
これはサーチ個人の見解であって、私は1㎜もそんな事は思っていません。恨むならサーチを恨んで下さぽげぎゃあ!?
「サーチ? 何故空中を蹴ったんですか?」
「いや、何か急に殺意がムラムラと……まあいいや。それよりルック船長」
『はい?』
「今すぐ船内に露天風呂を作って」
『とんでもない無茶振りしないで下さい!』
かなり本気なお願いだったんだけど、結局却下となった。
「何でよー」
『この広さの幽霊船に、どうやったら露天風呂が作れるんですか!?』
ま、そりゃそうか。
「だったらヴィー」
「はい?」
「いつもみたいに露天風呂を聖術でオーダー」
ヴィーは少しよろけてから、大きなため息を吐いた。
「サーチ、できるはず無いでしょう」
「えー、何でよー」
「そもそも陸地が無いのに、どうやって露天風呂を作るんですか!?」
「それは……聖術で陸地を造成して」
「超巨大な無茶振りしないで下さい!」
ち、ムリか。
「だったら~……モノズキ面」
『無理だ』
「まだ何も言ってないんですけど!?」
それっきりモノズキ面の応答はない。
「たく、人の期待を簡単に裏切りやがって……」
「「「そんな無茶振り、期待する方がおかしい」」」
やかましい!
「だったら…………人外に頼めばいいのよね。ええ、ええ、最初からそうすれば良かったわ」
「「「物好きの面も、十分に人外では?」」」
だからやかましい!
「なーらー、番に頼むだけだわー……いらっしゃい、ルーデ」
「待って下さい!」
そう言って三冠の魔狼を呼び出そうとした私を、ヴィーが制止する。
「え、何?」
「こんな狭い船の上に三冠の魔狼を呼び出したら、一瞬で沈没してしまいます!」
あ、ああ、そうね。その通りだわ。
「なら海の上に」
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!
『……我が番であるサーチの呼び出しに応じ、我参上わわわわわっ!?』
ひゅ~……どっぼおおおおおん!
これほどマヌケな登場をしたラスボスは、ルーデルを除いて誰もいないだろう。
『…………我を呼び出した理由が、温泉に入りたいから、だと?』
「そうなの。だからさ、露天風呂を何とか都合つけてくれない?」
海から出ている三つ首がそろって首を横に振る。
『できる訳が無かろうが』
何でよ!
「あんたの超常的な力でさあ! ドカンとボカンとやればさあ!」
『ドカンボカンは構わぬが、大陸が沈んでも知らぬぞ?』
あ、それはマズいわ。
「うーん…………要は大量の水を溜められる場所があれば……」
『それが何とかなるのであれば、魔術で事足りような』
うーん、大きな器みたいなのがあれば…………ん?
「あるじゃん、水が溜められる場所」
『ほう? サーチは何か妙案が浮かんだのだな?』
うん、サイズ的には問題ないわね。
「いきなりだけどルーデル、あっち向いてホイ!」
『むっ!?』
上に向けられた指に反応し、三つの首がそれぞれ違う方向を向く。
「ヴィー、スタンバイ!」
「え?」
突然名前を呼ばれて戸惑うヴィー。だけど私は構わずに続ける。
「あっち向いてホイ!」
今度は下を差すと、再びそれ以外の方向を向く。よし、今だ!
「上向いたのを石にして!」
「あ、はい。≪石化魔眼≫!」
カチンッ
三つ首の一つが、上を向いたまま石化する。
『な、何をするか!』
「めんどくさいから全部石化!」
「あ、はい!」
カチンッ カチンッ
文句を言いたげだった首も石化し、胴体だけは沈まないように犬掻きしている。
「マーシャン、あの上向いた狼の口に水溜めて」
「ま、まさかとは思うが……」
「いいから。元に戻っちゃう前に、早く!」
「う、うむ」
マーシャンの魔術によって、石化した狼の口に大量の水が溜まった。
「よーし、仕上げに」
「火系魔術じゃな、わかっておる」
シュボッ ジュワアアア……ゴボゴボゴボ!
よーし、沸いた沸いた♪
「さーて、入ろー入ろー♪」
ビキニアーマーを脱ぎ捨て、石化した狼の頭を飛び移り。
ざばあああん!
「くああああ……! あ、あっついけどサイコー!」
広い大海原の真ん中で露天風呂だなんて、たまんない♪
「みんなも入りなよー、気持ちいいよー!」
私の熱烈な誘いに、誰も乗ることはなかった。
「いやあ、気持ちよかったあ!」
『…………我が番よ、しばらく距離を置かせてもらう』
「え、何でよ」
『当たり前だろが!』
ルーデルはマジギレして、しばらく音信不通になった。何でよ?