last stage2 奮闘のサーチ。
「≪火炎弾≫!」
「『葉刃』!」
「『鉄クズの流星雨』!」
バガガガガガ……ドドオオオン!
「破壊成功! 割れた氷山は左右にわかれ、本船を避けていきます!」
「作戦成功! 我々は救われました!」
わああああああっ!
乗組員の叫び声が夜の海にこだまする。
「はあ、何とかなったわね」
「うむ、やれやれじゃのう」
ヴィーが立てた作戦によって、見事に巨大な氷山を半分に割ることに成功した私達は、船を沈没させずに済んだ。
「これで第一の難関は突破ね」
「「「……ああぁ……」」」
私の一言で、全員が崩れ落ちる。な、何よ。
「そうでした、まだ一つ目だったんですね……」
「あまりに壮絶なドラマが展開されたもんだから、これで終わったような気分でした……」
「ふぇぇ……まだあるんですね、ふぇぇ……」
一本映画が撮れるんじゃないか、ってくらいにいろいろあったからねえ、氷山破壊まで。
「ていうか、次は何かしら」
ヨロヨロと手すりに掴まって立ち上がったヴィーが、ノロノロと口を開く。
「つ、次は大津波ですね」
津波か。氷山よりスピードがある分、もっと厄介ね。
「到達予想時間は?」
「約三十分後です」
うっわ、全然時間ないじゃん!
「ヴィー、急いで何か考えて! 私達は何かお腹に入れて、体力を回復! 急いで!」
ドドドドドドドドド…………
「見えましたぁ! 津波です!」
これは……デカいわね。
「マーシャン、お願い!」
「うむ! ≪風裂弾≫!」
ビュウウウッ!
無数の風の弾が水の壁にぶち当たり。
ドドオオオオオン!
津波に大穴が開く。今だ!
「全速航行! マーシャンは潜り抜けるまで穴を維持して!」
「ぐぬぬぬ……!」
「他の人達は全力でマーシャンを応援!」
「「「フレー! フレー! サーシャ・マーシャ!」」」
ていうか、水のトンネルを抜けるってのも、なかなかのもんね。
「うぐぅ、ぬぅ、お、重いぃのじゃぁぁ……!」
「ヴィー、給油準備!」
魔力回復と体力回復のポーションを手にしたヴィーが、マーシャンの前に立つ。
「給油開始!」
がぼっ
「むぐぅ!?」
ムリヤリ口にポーションのビンを突っ込み、ムリヤリ飲ませる。
「ごっきゅごっきゅごっきゅごぼぼぼっ! ぶべぇ!」
どうやら鼻にポーションが入ったらしいけど、無視して二本目。ていうか、何気にヴィーもムチャクチャするなぁ。
「ごっきゅごぼぼぼっ! ごっきゅぶべべ! ぐびぐびぶばあ!」
鼻水かポーションかわからない液体を垂らしながら、マーシャンが私を睨む……ていうか、実行犯のヴィーを睨みなさいよ!
ザバアア!
「よし、津波通過しました!」
わああああああっ!
再び夜の海に乗組員の歓声が響く。
「やったあああ! 今度こそ助かったぞおお!」
「氷山に! 津波に! オレ達は勝ったんだああ!」
うん、あんた達は何もしてないけどね。
「ごほごほごほごほおっ!」
「ていうか、私達も何もしてないけどね……大丈夫だった、マーシャン?」
「げほげほげほげほ……は、鼻にポーションがシミて痛い……っ」
炭酸飲料が鼻に入ったようなもんかな。
「ま、お疲れ様」
「げほげほ……サ、サーチ、津波は一つかえ?」
は?
「つ、津波は第二波、第三波があるのじゃぞ」
……っ!!
「総員配置に着けええ! 第二波が来るわよおおっ!」
そう叫ぶと、私はポーションをケース単位で取り出した。
「第四波、通過しました!」
よし、もう大丈夫そうね。
「マーシャン、冗談抜きでお疲れ様。大活躍だったわね」
「げほげほこひゅー、ごほごほこひゅー」
咳と虫の息を器用に両立させるマーシャンは、完全に白目を剥いている。
「これで本当に終わりだよな?」
「流石にこれ以上はないでしょ」
乗組員達も疲れたように座り込む。
「さて、私達も休憩を」
「魔力レーダーに反応! 海底から巨大な影が接近中!」
「……そ、そうだった。まだあったっけ、フラグ」
海底からの巨大な影って、モンスター以外にあり得ないわよね。
「……乗組員さん、対潜兵器ってある?」
「た、たいせん?」
あるわけないかぁぁ!
「嬢ちゃん、爆雷ならあるぜ!」
それが対潜兵器だよ!
「水中のモンスター対策に、船には常備されてんだ」
「オッケー! 全弾発射!」
乗組員達が慌ただしく動き、爆雷を水中に沈めていく。
ドボオン! ブクブクブクブク……
……ドドオオン!
「爆発確認! どうだ、モンスターの様子は?」
魔力レーダーをガン見していた乗組員が、暗い表情で叫ぶ。
「敵、進路に変更無し! そのまま突っ込んできます!
ちいっ! 船に体当たりして沈める気だな!
「おそらく突撃シャチかと!」
わかりやすいネーミングだけど、何かダサいな。
「だけど突撃シャチって言うくらいだから、猪突猛進で間違いない?」
「は、はい! ひたすらまっすぐ突っ込んできます!」
オッケー! なら何とかなるかも!
「ちょっと、船底に案内して」
「は?」
「いいから早く!」
「は、はい!」
「こ、ここが船底です。鉄板の向こう側は海です」
床を触って確かめる。よし、この合金ならいける!
「ヴィー、モンスターの向かってくる正確な方向を計算して」
「何気に無茶振りを……やりますけど」
苦笑いしながらも、頭脳をフル回転させてくれるヴィーが好きです。
「……こっちです!」
よし、ここで≪偽物≫!
…………ザクザクゥ!
「…………サーチ、モンスターの魔力が消えました」
よっし、うまくいった!
「な、何をされたんすか?」
乗組員がおずおずと聞いてきたので、得意げに教えてやる。
「魔術で船底から鋭い針山を作り出したのよ」
「つまり、突撃シャチは自ら針山に?」
「ま、港に着いてから、死体を取り外すのね。血の匂いに他のモンスターが反応したら厄介だし」
こうして私達は、沈没フラグを全て叩き折ることに成功した。