play18 準備のサーチ。
ストーリーモード最終章、悪しき炎の咆哮。これをクリアすると、チュートリアル終了。いよいよプレイヤーが群雄割拠するフリーモードへと移行する。
「オンラインゲームのラスボスだから、そこまで強くないよね?」
「はいい!? な、何を言い出すんですか!?」
リーフがビックリして私につっこむ。
「いやね、対戦型オンラインゲームのストーリーモード……チュートリアルって、あくまで通過点なのよね」
「な、何て事を!?」
「ホントなのよ。ストーリーモードをクリア……つまりラスボスが倒されることで、その世界に平和が訪れる。そこからプレイヤー同士の対戦が始まる……つまりホントの意味での対戦型オンラインゲームの始まりなのよ」
ストーリーモード……チュートリアルは、あくまでゲームの世界観・操作方法に慣れるためのモノであることが多い。有名な某モンスター捕獲兼使役系ゲームも、何とか団を倒して何とかリーグのチャンピオンに輝くことで、プレイヤー同士の対戦機能が使えるようになるのだ。
「だ、だからって炎の王が弱いって事にはなりませんよ!?」
「うーん、その辺りも忠実に再現してくれてると助かるのに」
「ラスボスが簡単に倒せてる時点で、既にラスボスじゃないでしょ!」
確かに。
炎の王がいるのは、東の大海の中央にある大火山・キラキララ火山の火口。その火口に至るまでの道が最終ダンジョンみたいなもんらしい。
「挑戦する場合は、何人か仲間を連れていっていいの?」
「うむ。ストーリーモードでは決勝で対戦した相手と、ルームメイトの三人で行く設定じゃったの」
設定に沿うなら、ふぁんてぃと……ラミか。
「ふぁんてぃは回復役専門だから、戦力にはならない。ラミは………………戦力外だわね」
普通の召還獣相手なら滅法強いだろうけど、全身が炎の固まりみたいな相手にはアリは無力だ。
「そうなると…………マーシャンは来てもらえるの?」
「無論、召還主が行くと言うなら、妾も従うまでじゃ」
よし、ならアン先輩……ていうか、ヴィーだけど……にも声をかけよう。
「あとは……ふぇ子を誘って、リーフにも力を貸してもらうわ」
「リーフは構いません。どうします、召還主様?」
「ふぇ!? ふぇぇぇ……」
リーフは行く気満々だけど、ふぇ子は……行きたくない?
「ふぇ子、イヤなの?」
「ふぇ! ふぇ子じゃありません!」
あ、そうだった。
「ごめんごめん、クラ子は行ってくれるよね?」
「ふぇぇ、勿論ですぅ!」
「うん、ならよろしくね、リーフ。ついでにふぇ子」
「ふぇぇぇぇぇぇぇぇん!」
「召還主様泣かないでえ! サーチお姉様、余計な事をしないで下さい!」
あはは、ごめんごめん。
「さて、問題はキラキララ火山に行くまでね」
「そうですねえ……ちょうど反対側ですからねえ……」
地球……かどうかはわからないけど反対側である以上、移動時間はハンパない。
「飛行機だろうが船だろうが、まとまった金額が必要だわね」
「だよねえ……」
ソース子も唸る。私は一緒に暮らしてたから、金欠振りはよく知ってる。
「ふぇ子……じゃなくてクラ子はどうなの?」
「ふぇぇ! ふぇ子って言った! またふぇ子って言った!」
「召還主様泣かないで! サーチお姉様、いい加減にして下さい!」
ごめん、いまのは悪気はなかったのよ。
「で、どうなの?」
「ふぇぇ! ふぇふぇふぇぇ!」
「えっとですね、両親は共働きで、学費は奨学金、仕送りだけでは生活費は賄えないのでバイト」
「あーわかったわかった。もういい」
ここまで現実的な話をゲーム内で聞くことになるとは思わなかったわ。
「なら……アン先輩、お金持ちですよね?」
「…………このゲームに引っ張り込まれてから、随分と散財させられているんですが」
「まあいいじゃん。ゲーム内のお金でしょ?」
それを言われたアン先輩は、苦虫を噛み潰したような顔をする。
「現実のお金ですっ」
は?
「この世界で使ったお金は後で徴収させてもらうのじゃ」
はああっ!?
「ゲームは課金で儲けるのじゃよ」
「だ、だからって私達から徴収するの!?」
「妾は運営委員会じゃぞ? 課金は運営には必要不可欠故に、チャラには出来んの」
く……し、知らず知らずのうちに課金勢に加わっていたとは。
「私は無課金勢なのに……」
「サーチさん? 課金無課金がどうかしたの?」
あ、いえ、何でもありません。
「とにかくお金が必要なのよ。アン先輩、じゃなくてヴィー」
「は、はい?」
「今、首相だっけ?」
「あ、はい、一応」
「高給取りよね?」
「え…………ど、どうなんでしょうか」
仕方ない。身を削ることにはなるけど、背に腹は変えられない。
「ヴィー」
がしっ
「な、何ですか」
ぐいっ
「え、えええっ」
いつになく積極的な私に、珍しく戸惑うヴィー。
「私、ヴィーの伴侶よね?」
「え、あ、はい」
「だったら、困ってる私を助けてくれるわよね?」
「も、勿論です。ですが、私にも生活が」
「無論、ヴィーが困窮するような事態になるまで搾取するつもりはないわ」
「で、でしたら、まあ……」
了承しかけたところで、ヴィーが指を四本立てる。
「但し、週にこれだけで」
「はああっ!? そんなんムチャクチャじゃない!」
「いえ、週四は譲れません」
「せ、せめて二か三じゃ」
そう言ったところで、ヴィーはニッコリと微笑む。
「わかりました。では週三ですね」
…………ていうか、週三でも十分に多すぎじゃないのよ。
「流石は首相。交渉はお手のものじゃの」
ううぅ……純真だったヴィーが、リファリスに染められるぅ……。