play11 食欲のサーチ。
「グギャアアア!」
パアアア……
「相手召還獣消滅! よって、勝者ラミ!」
わああああっ!
元ロマンスグレイのジャミの暗躍がなくとも、ラミは決勝まで勝ち残った。
「やはりあの召還獣は曲者ですわね」
「うむ。妾のような魔術士でもない限り、戦いようが無いのう」
アン先輩とマーシャンコンビと当たってくれてればよかったのに。
「まさか親子で同じ召還獣を引き当てるとはねえ」
そう、女王アリ使いのジャミの娘・ラミもまた、女王アリ使いだったのだ。
「しかもラミの使う蟻は赤い絨毯だし」
ジャミが使っていたアリは軍隊アリ、通称「黒い絨毯」。娘が使っているのはハキリアリなのだ。
「あれ? ハキリアリって茶色かったような……まあいいか」
昔に一度だけ見たことがあったけど、茶色くてひたすらデカかった記憶が。
「まあ、何はともあれ、無限に湧いて出てくる敵は厄介ですね」
リーフもウンザリといった様子だ。
「あら、リーフもアリは苦手なの?」
「ハキリアリって詳しく知ってますか?」
もちろん知ってるわよ。葉っぱをたくさん切り取って巣に持ち込んで、菌類を栽培する変わったアリだわね。
「ハキリアリですよ、ハキリアリ! 葉っぱを切って持って行くんですよ!?」
「確かにそうだけど、あれってジャングルにはメチャクチャ益虫だって聞いたことが」
「確かにそうかもしれませんが、葉っぱを切られる木にしてみれば堪ったものじゃありません!」
まあね。自分の身体の一部をザクザク切って持ってかれるんだもんね。
「ハキリアリ、ですの? とても強そうには思えませんわね」
うーん、普通に考えたらそうなるのかな。
「ハキリアリってね、役割分担がキチンとされてるのよ」
「は?」
「その役割分担の中には兵隊役もいるのよ」
「兵隊の……アリですの?」
「対軍隊アリ用って言われててね、流石の軍隊アリもハキリアリの兵隊アリには敵わないの」
「つ、つまり、軍隊アリよりも上……?」
「ま、一匹一匹の強さじゃね」
軍隊アリって言うくらいだから、基本的に一対一にはならないようにするんだけどね。
「あの、サーチさん。他人事じゃないんですよ?」
あ、そうだった。私が戦わなきゃならない相手だったっけ。
ていうか、その前に準決勝なんだけどね。
「アオオオオン!」
大型の犬が相手だ。モッフモフで正直殺しヅラい。
「グルルル……」
「ていうか、そんなに強そうには見えないんだけど」
「今までの対戦相手は全員途中棄権みたいよ」
途中棄権? 何でだろ。
「ワンワンワンワン!」
「っるさい!」
「ギャイン!」
って、おい。一回叱られたくらいで、そんなに尻尾を垂らさないでよ。
「キャインキャイン、クーンクーン」
うーん、こんなのが強いんだろうか。
「よし、今だ! フェイバリットいくよ!」
「ワン!」
今だって……何でこのタイミングでフェイバリット?
「それ、『甘える』よ!」
「クー……ン」
…………。
「はわわわわ!? か、か、可愛いいい!」
「ふっふっふ、どうよ! 相手に戦う気を失わせる程の可愛らしさ! 皆この可愛らしさに負けて、途中棄権したのよ!」
「う、うう、確かにこの可愛らしさには対抗できない……!」
「クー…………ン」
「あああ、その可愛らしさに傷つけられない! サーチさん、仕方無いよ、これは」
「……赤黒白、だったかしら」
「へ?」
「は?」
「ワン?」
私の一言に、一瞬会場の全てが止まる。
「どっちかっていうと、あんたは白だわね。だから三番目か」
「サ、サーチさん? 何が?」
「何がって、美味しさの順番」
「「「……え?」」」
「赤犬が一番美味いって聞いてたんだけど……まあ、白犬でもいいか♪」
私の視線を受けた犬は、全身の毛を逆立てた。
「ギャイイイン!」
モッフモフの白犬が全力で逃げる。
「待ちなさい、まだ犬の肉は試したことないのよ! 大人しく私の記憶となりなさい!」
「ギャインギャインギャインギャヒィィン!」
ナイフとフォークを作り出し、ガチンガチン鳴らしながら追いかける。
「す、凄いですわね。あの犬、二足歩行で全力疾走してますわよ」
「よ、余程に怖いのじゃろな」
「待ちなさい! あーっはっはっは、待て待て待てええ!」
「ギャヒンギャヒンギャヒンギャヒンギャヒィィン!」
涙と鼻水にまみれた犬が場外に逃げ出すまで、この鬼ごっこは続いた。
「キャンキャンキャンキャンキャン!」
「ごめんねー、ごめんねー」
怯える召還犬を、一生懸命宥める召還主。
「サーチお姉様……」
な、何よ。
「いくら勝つ為とはいえ、あれは酷いんじゃありませんか?」
「ん? 何がよ」
「ですから、あんな可愛いワンちゃんを、食べるぞ食べるぞって脅すなんて」
「へ? 脅すぅ?」
「え…………脅してた……んですよね?」
「え? 美味そうだったじゃない」
「…………え?」
「え?」
な、何かおかしかったの?
「ほ、本気で言ってるんですか?」
「え? 本気だけど?」
私の一言に、リーフが絶句する。
「…………」
え? リーフが私から離れていく。
「それは酷いですわね」
「ちょっと、いや、かなり酷いのじゃ」
アン先輩とマーシャンもドン引き。あ、あかん、これはマズい。
「ジョ、ジョーダンに決まってるじゃない、あはははは……」
ていうか、どっちに転んでも私の何かがガタ落ち。これでいいんだろうか。