play9 非道のサーチ。
「何を考えてるのよ!」
す、すんまそん。
「あんなにホイホイと男についていきそうになるなんて、グチグチグチグチ……」
まあ……確かに軽率だったけど、何でソース子がそんなに怒るんだろ。
「大体ロマンスグレイが良いとか言っておいて、他の男達ともグチグチグチグチ……」
ん?
「ちょっと、何で他の男になんて言い出したの? 私、この世界に来てからは男についてったりは」
「先生方を食ってたじゃないの!」
「……そうでした」
元気だったなあ、サガ先生……いや、サダ先生だったっけ? まあいいや。
「とにかく、相手は対戦相手のお父さんなんだから! 余計な騒ぎは起こしたりしないでよね!」
そう言ってプリプリ怒りながら、部屋へと戻っていった。
「ったく、詰めが甘いわねぇ、ソース子は♪」
ま、そのおかげで、こーんなことができちゃうんだし♪
「お待たせしましたかな、サーチさん」
「いえいえ、ロマンスグレイオジサマ。今来たところです♪」
ソース子から極端に離れられないんなら、相手に近くに来てもらえばいい。さっきの騒ぎのドサクサに紛れて、落ち合う場所を決めていたのだ♪
「まさかサーチさんからお誘い頂けるとは思いませんでしたよ」
「いやあ、話が終わったわけじゃなかったし」
ヤりたいこともあるし♪
「で、続きとは何をお望みですかな?」
「そりゃあもちろん、さっきの話の確固足る裏づけよ」
「さっきの話の……確固足る裏付け、ですかな?」
「そう。口約束だけで相手を信用するほど、私はお人好しじゃありませんから」
「つまり、どうしろと?」
「オジサマが私への妨害を依頼した相手を教えてほしいだけよ」
「ほう……それを聞いてどうするので?」
「そこから先はあんたに言う必要はないんじゃない? ま、命が惜しくないなら突っ込んで聞いてくれてもいいけど」
「止めておこうかな。余計な好奇心は身を滅ぼすだけだし、知る必要が無いのは事実ですしな」
「よくできました……で、何てヤツが請け負ったの?」
「星のティアラ、と言う名のパーティです。私の住む町で一、二位を争う召還術士がリーダーを務めています」
「そんなパーティが何で私達に対する嫌がらせなんてセコい仕事を?」
「パーティ規模の仕事なんて、そうはありませんからな。基本的には個人での行動が主なのですよ」
……つまりあんたは、パーティで動かなきゃならないくらいの嫌がらせを依頼したのね。
「わかったわ。なら、今日はここでバイバイね」
「え?」
何よ。
「これからがお楽しみの時間では?」
「そうしたい気分だったけど、あんたと話をしてたらヤる気が失せたわ」
「何故ですかな?」
「パーティを動かすほどの嫌がらせとなると、最悪はソース子の命を狙う可能性もあったんでしょ?」
「まあ、否定はしません」
「要はね」
ズドムッ!
「ぐっふぅ!?」
鳩尾に膝が突き刺さり、その場に崩れ落ちるロマンスグレイ。
「召還主の命を狙われておきながら、その相手に気を許すほどお人好しじゃないってことよ、私は」
そう言ってから針を作り出すと、口の中で生成した毒を吹きかけて。
ブスリッ
「痛ぅぅ!?」
首筋に刺さった針から、毒が全身に回る。
「い、一体何を!?」
「いえね、ちょーっと特殊な毒をね」
「ど、毒!? わ、私を殺すのか!?」
まさか。
「別に死ぬような毒じゃないわ。ただ、ある細胞に対して劇的なまでに効果があるだけで」
「あ、ある細胞だって!? 一体何に……」
バサバサ
そう言ってる間にも、ロマンスグレイの頭から何かが落ちていく。
「ま、まさか……」
「今の毒、髪の毛を作ったり維持したりする細胞には致命的なヤツなのよ」
バサッバサバサッ
「な、なあああああっ!?」
せっかく決まっていたオールバックも、根元から崩れていく。
「とはいえ、今回は多少薄くなる程度にしておいたから、全滅することはない……って、あれ?」
頭を押さえてうずくまるロマンスグレイ……ジャミの手の間からは、テカる頭頂部が見えていた。
「あらら。年齢的に、結構ヤバかったのね、毛根」
私の言葉を聞いて、血走った目が私に向けられる。
「き、貴様ぁ……こんな事をして、ただで済むと思っているのか?」
「済まないでしょうね。だからもう一つ毒が仕込んである」
「なっ!?」
「その毒ね、私があんたにあることをすると効能が表れるの」
「な、何だ! 何が起きるんだ!?」
「それはね…………あんたが私にしようとしてたことが、今後一切できなくなるかも……って感じ♪」
それを聞いたとたん、ただでさえ悪くなっていた顔色がさらに悪くなる。
「ま、私達に手を出さなければ、そんなことにはならずに済むけどね♪」
「ま、待ってくれ。私から男を奪わないでくれ!」
「だーかーらー、私達に手を出したりしなければ、その毒は発現させないから」
「そ、そうじゃない! そんなモノが体内にあるなんて、私には耐えられない!」
「しつこいようだけど、私があることをしない限り、その毒は発現しないから」
「だ、だから、頼むから取り除いてくれえ!」
「一度体内に入っちゃったモノを取り出せるわけないでしょ。じゃあ、あとは頑張ってね♪」
「う、うわああああああっ! 嫌だ嫌だ嫌だああああああ!」
泣き崩れる元ロマンスグレイを見ながら、ボソリと呟く。
「ていうか、そんな都合のいい毒なんてあるわけないじゃないの」
抜けた毛も普通に生えてくるから、安心なさいな。
この魔術会のあと、どこかの町のロマンスグレイ領主が、急に老け込んで話題になったらしい。