play8 魅惑のサーチ。
「ほら、あれがラミだよ」
ソース子が示す先には、ロマンスグレイな男の人とキャッキャと話す可愛らしい女の子がいた。
「へえ、あれがジャミか……」
「そう、向こうが前回の優勝者・黒い絨毯のジャミよ」
黒い絨毯?
「生物以外でも召還できるの?」
「違うよ、ちゃんとした生き物」
へ? 生き物で黒い絨毯って…………まさか。
「ア、アリ?」
「そう。ジャミ様は蟻の集団をそのまま召還できるの」
アリの集団って…………それってありなの!?
「ありなの、蟻なだけに」
「…………」
「ちょっ!? べ、別に洒落で言ってる訳じゃないよ!?」
いや、シャレじゃなかったら何なのよ。
「ジャミ様が召還してるのは女王蟻一匹! 他の蟻はその女王蟻が使ったフェイバリットなのよ!」
な、なるほど。
「ていうか、シャレを言ったことをそこまで否定しなくても」
「否定したくなるような反応したのはサーチさんでしょ!?」
ま、まあ、そうだったかもしんない。
「それよりも、ラミをどうするの?」
「まあ、場合によりけりかな。あの親子が今回の私達に対する嫌がらせの主犯だったら、一切容赦しない」
「よ、容赦しないって?」
「もちろん、ゴートゥーヘル」
ロマンスグレイは大変好みなんですけど、そんなことは言ってられない。
「…………サーチさん、さっきからジャミ様ばかり凝視してるけど、どうかしたの?」
え? あ、おほほほほほ、何でもありません。
「……サーチさん、獲物を狙う前の猛獣みたいな雰囲気だよ?」
「マ、マジで何でもないって」
意外と鋭いわね、ソース子。
「と、とにかく、あの二人を徹底的にマークするわよ」
「はいはい。なら私から話しかけてくるね」
は?
「あ、あんたもジャミが好みなの?」
「違うわよ。ラミは私と年齢が一個しか違わないから、話しかけて易いの!」
あ、ああ、そういう意味ね。
「そっか、だったら私はロマンスグレイを頂き」
「サーチさん?」
「じゃなくて、話してみようかしら」
さーてと、ちょっと挨拶代わりにっと。
ギィィン……
「……ん? これは……どうやらお客様のようだね。ラミ、父さんは少しお話してくるから、ここで待っていなさい」
「えーっ……まだお父様とお喋りしたいのにぃ」
……あのロマンスグレイ、私が弱めに殺気を見せただけで、こっちの意図に気づいたらしい。普通の召還術士じゃないわね。
「……って、あれ? いなくなった?」
「お嬢さん、他人に殺気を向けるのは感心しないね」
っ!?
「い、いつの間に……」
「おやおや、君は…………これは珍しい、人型の召還獣かい」
アサシンの私に気づかれることなく、ここまで近づいてこれるなんて……!
「ええ。順調に勝ち上がれば、決勝で対戦する可能性があるわね……あんたのお嬢さんと」
「ほう。で、ちゃんと相手について調査していた訳だ」
「当然。戦いってのは情報のあるなしで大きく展開が変わるしね」
「ふむ、その通りだな。ならば……失礼、お名前を伺っても?」
「サーチ。鉄クズのサーチ」
「ならサーチさん、貴女なら私の召還獣とどう戦うか、意見を聞いてみたいね」
「黒い絨毯と?」
「そうだ」
……ここは、ハッキリ言うべきかな。
「ムリね」
「ふむ?」
「例えゾウを召還できたとしても、アリの大群を倒すのは不可能だわ」
「その根拠は?」
「万の中の一を狙う愚について、いちいち語る必殺がある?」
召還した女王アリが大群を呼び出してるんなら、その女王アリを潰さない限り大群は消えない。
「ていうか、その女王アリを簡単に倒させるわけにはいかない。だから間違いなく対策はしてある。違う?」
「その通りだよ。星二の女王蟻でジャイアントキリングを繰り返せたのは、私の作戦が相手の思惑を上回ったからにすぎないからね」
いやいや、その女王アリが星二ってのはあり得ないから。
「で、殺り合えば負けるとわかっている相手に、勝負を仕掛けるつもりかね?」
「仕掛けてもいいけど、今はそれが目当てじゃない」
私の言葉に、ジャミが目を細める。
「ほう……つまり事と次第によっては、私と戦うつもりだったと?」
「そうよ」
「先程自ら勝てないと言った、私に?」
「いえ、勝てないのはあんたの召還獣によ。だけど相手が人間なら話は別だわ」
「…………つまり私を殺す、と?」
「将を射んと欲すれば、まず馬を射よって言うわ。だけど今回の場合は、先に将を射れば馬は何もできなくなる」
「しかしそれは魔術会では御法度だよ?」
「魔術会ならね。だけど今は違うわ」
それを聞いたジャミは、肩を小さく震わせ始め、やがて。
「…………くくく……はははははははは!」
空を見上げるように身体を反らせて、ジャミは高らかに笑い続ける。
「くくく、そうだ。確かにその通りだ。ここで君が私を殺したとしても、大会のルールには何ら抵触する事は無いな」
「わかってもらえたなら幸いだわ。なら、私が言いたいこともわかるわよね」
「自分達に対する妨害工作を止めろ、と言いたいのだろう?」
「理解していただけて嬉しいですわ、オジサマ。私、好みの男性を手に掛けるのはあまり好きじゃないから、この辺りで手打ちにしませんこと?」
「貴女のような魅力的な女性に好いてもらえるのは光栄だな。ふむ、ならば対価はあるのかな?」
「対価?」
「私としては、一晩の熱い情熱を所望するのだが」
「それが対価だって言うなら、私は喜んで」
「サーチさんん?」
「あ…………あはは、そんなわけないじゃないの」
ロマンスグレイもロマンスグレイで、娘に睨まれてタジタジの様子。
「サーチさん、先程の話は承った。対価に関しては、いずれまた」
ま、妨害工作がなくなるだけでも、儲けもんか。
「サーチさんん?」
「あ、あはは、何もやましいことはしてないわよ」