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extra 勝負のコーミ。

「……うん、わかった。気を付けてね」


 彼とようやく繋がった電話は、もう少し発掘現場に籠もる、というモノだった。


 プツッ


 彼は普通に通話を切ったつもりなんだろうけど、私にはとても冷淡に感じられた。


「……せっかくの正月休みに、新種なんて発掘しなくていいじゃない……」


 あれをやろう、ここに行こう、と話していた休みの予定は、休みの一日前に見つかった石っころ一つにぶっ壊された。


「はぁぁ……」


 彼の職業は理解してる。彼の情熱もわかってる。だけど、その熱意や興味を少しくらい私に向けてくれてもいいんじゃないかな。


 ガチャッ


「おっはよー!」


 そんな時、底抜けに明るい声で私の部屋に入ってきたのは……私の前では一切ゴブリンの腕を隠さない、半ルームメイトのナタリーンだった。


「ん? どうかした?」


「……別に。何でもない」


「いやー、何でも無くないよ、コーミのその反応は」


 ……たく、こういう時は妙に鋭いんだから。


「本当に何でも無いわよ」


「……彼氏君と喧嘩でもした?」


 ぐっ。


「け、喧嘩はしてないよ」


「あ~……喧嘩はしてないけど、一方的に約束を破棄された?」


 ぐ……な、何で、こうも勘が鋭いのよ、ナタリーンって。


「あはは、それはご愁傷様、あはは」


 ムカッ。笑われた事で、頭に血が上る。


 ビシュッ!

「うわっと!?」


 懐に潜ませていた投げナイフは、ナタリーンの首筋を掠めて落ちた。


「あ、あっぶな~……今のは洒落にならないよ?」


「うっさい」


「ありゃ、完全に目が据わってる……彼氏君との喧嘩、図星だったんだ」


 ぴきっ


 ビシュッ! 

「わっと!」

 パシッ


 眉間を狙ったナイフは、ナタリーンの指二本で阻まれる。


「ちょっと、防がないでよ」

「いやいやいや、防がなかったら死ぬからね!?」


 タンスに仕舞ってあったベルトを取り出す。ベルトと言ってもナイフ収納用のモノで、ズラッと木製の柄が並んでいた。


「私が一番投げやすいように、特注で作ってもらった投げナイフよ」

「何で平和なこの世界で、特注投げナイフが必要なのかな!?」


 それは勿論。


「ナタリーンみたいな相手が居るからに決まってるじゃない」

「対ボク用なの!?」


 ビシュッ!

 ダン! ビィィィン……


「は、速い……」


 ギリギリで避けたナタリーンの頬には、うっすらと傷がついている。


「あ、あはは、本気なんだね」


 何を言ってんだか。


「私を煽って本気にさせたのは、あんたでしょうが」


 そう言うと、ベルトを装着する。


「……いいね。久々に血が騒ぐよ」


 ナタリーンも普段持ち歩いている特殊警棒を取り出し。


「あら、愛用の鉄パイプじゃなくていいの?」


「いいよ。コーミ相手なら、これで十分」


 ふぅん……だったらその慢心、後悔させてあげるよ!



 ガギィィン!


「ん?」「お?」


 シュルシュルシュル…………バギィィン!


「うお! ま、まさか!?」


「や、やべえ! 紅娘(ホンニャン)さんとこだぞ!」


「また紅美ちゃんとナタリーンちゃんか!?」


 バキィ

 ヒュゥゥ……ズザザザッ!


「ちぃぃ! やっぱり一筋縄ではいかないか!」


「紅美ちゃん!?」

「空から降ってきた!?」


「あ、どうも」


「また喧嘩かい?」


「あ、はい。毎度毎度お騒がせします」


「あはは、まあいいさ。それより、ナタリーンちゃんに圧されてるみたいだね」


 うぐっ。


「ま、まだまだこれからです!」


「……もうナイフもほとんど無いみたいだが」


 うぐぅ!


「く……お、おじさん! 包丁頂戴!」


「はいよ、毎度」


 たくっ、私が喧嘩を始めると、すぐに刃物売る人達が寄ってくるんだから。


「包丁だね、毎度!」

「うちにもあるよ!」

「うちのはよく斬れるよ!」


 はいはいはい、貰います貰います!


 ザザザァ!


「行くぞコーミ、刃物(タマ)の貯蔵は十分か?」


 あんた、色んなゲームやってるわね。


「そこまで言うなら、今回は私が勝つ!」


 ブンブンブン! 


 包丁を三本同時に投げつける。お、重いい!


「ほいほいほい!」

 ガギンガギンガギン!


 威力が無い包丁を難なく弾き落とす。


「く、くそお……!」


「ふっふーん、ナイフ投げが得意だってわかってるんだから、対策は練りやすいんだよ」


 そうね。ナイフ投げなんて、相手にバレてれば実力の半分も出せない。


「そんな事、私だってわかってる!」


 ちゃーんと対策練ってるわよ!


「えい、食らえ!」


 ブンブン!


 近くに転がっているガラクタを投げまくる。壺やら皿やら宙を舞う。


「自棄になっちゃ駄目だよ、コーミ♪」


 ガチャアン! ガチャアアン!


 当然ながら、全て特殊警棒で割られて防がれる。


 ブンブン!

 ガチャアン! ガチャン!


「はあ、はあ」

「ナイフと違って重いからね。体力がいつまで保つかな?」


 そんな事……わかってるよ!


 ブンブン!


 たくさん投げるガラクタの中に、ポケットから取り出した小瓶を混ぜる。


「だーかーらー、自棄は駄目だって」


 ガチャガチャガチャガチャガチャン!


 よしよし、割りなさい割りなさい。


 ガチャガチャガチャン!

 ボフッ!

「わぷっ!」


 よし、大成功!


「ゲホゲホゲホゲホ! ハックション! ハックション! ハクション!」


 流石に粉は斬れないでしょ。胡椒をたっぷり仕込んでおいたのよ!


「ゲホゲホゲホゲホゲホ!」

「はい、詰みね」


 バガァン!

「……はみゃ」


 頭上に壺を落とされ、ナタリーンが目を回す。


「ふ、初勝利」


「やったな、紅美ちゃん!」

「協力した甲斐があったよ!」


 私に協力してくれた商店街の皆様に、感謝。


「いやあ、懐かしいねえ」

「ホンニャンと(シャア)の喧嘩でも協力したもんだよ」


 か、母さん達も!?

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