extra 正月のコーミ。
明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします。
「明けましておめでとうございます」
「はい、明けてめでたいね」
ホンニャン母さんに新年の挨拶をしたものの、忙しいのでサッと流されて終わる。
「父さん、明けましておめで」
「チンジャオロースー出来たよぉ!」
「……とう」
調理担当の父さんが暇なはずもなく、反応すら無い。
「あ、兄さん、明けま」
「邪魔だあっち行ってろ! 次はチャーハン三、タンメン二、カニ玉一!」
「おーう!」
食堂を経営してる我が家、お昼時の今は正月中でも大忙しだ。
「…………はあ」
家を出て数年、手伝うにも現場を離れすぎた私、今更できる事もあまり無い。
「…………出掛けるね」
正月早々、居場所を無くして外出する事になるとは……。
「コーミぃ、出掛けるの?」
ストールに巻いていると、二階からナタリーンの声が響いた。
「うん。ちょっとブラブラしてこようかなって」
「あれ、ホンニャンさんに見せるんじゃなかったの?」
「まあ……その……とっても忙しいみたいで、気付いてももらえなかったと言うか……」
「ええ……あんなに苦労したのにね」
お互いの着物を見て、苦笑いするしかなかった。
少し時間を遡って年が明けたばかりの一時頃、日本のテレビ番組をネットで見ていたナタリーンが、目をキラキラさせながら私に近付いてきた。
「ね、ね、コーミ。この綺麗な衣装って何!?」
不意に見せられたタブレットに映っていたのは、二年参りに行くカップルらしき男女の映像だった。綺麗な衣装って事は。
「着物ね。日本の民俗衣装かな」
「へえーっ! こんな綺麗な服、毎日着てるんだ」
いやいや、毎日は無い。
「お祝い事だったり成人した時くらいじゃないかな」
「へえ~……いいなあ、着てみたい」
お。普段ファッションやらメイクやらに全く興味を示さないナタリーンが、珍しい反応。
「……ちょっと待っててね」
ナタリーンに断ってから、押し入れの奥を探る。確か、この辺りに……。
ゴソゴソ
「コーミ?」
「この箱だったかな……あった!」
日本の友達から送ってもらった、簡単に着られるマジックテープ式の着物。
「振袖じゃ無いけど、着物はあるよ」
「え、本当に!?」
友達と一緒に着る為に二着買って、一度着ただけで押し入れに仕舞いっぱなしだった。
「普通の着物は着付けが大変なんだけど、これならそこまで難しく無いから、一緒に着てみる?」
「みるみる! 着てみる!」
ふふ、捨てずにとっておいて良かった。
で、お互いにキャッキャキャッキャと着たり脱いだりと遊んでいるうちに夜が明けてしまい。
「あら……初日の出がもうすぐね」
「だったらコーミ、お日様を拝みに行こうよ!」
へ?
「あ、要は初日の出を見に行きたいのね」
「そう! この格好でね」
着物でかぁ……まあ、たまには良いかな。
「わかったわ。なら行きましょうか」
……で、高台で初日の出に手を合わせ、街中を少しブラブラしてから家に戻り。
「あ、ついでだから着物姿をホンニャンさん達に見てもらったら?」
……というナタリーンの提案に乗っかり、母さん達の前に着物姿で立ったんだけど……今に至る。
「まあ、確かにホンニャンさん達は忙しいだろうけど……」
「まさか気付いてももらえないとは……」
ガックリと肩を落としながら歩く私を、ナタリーンが慰めてくれる。
「まあまあ。せっかくのお正月なんだし、どこかでパーッと飲もうよ」
飲むって……着物姿で?
「これ、洗えるんでしょ?」
「まあ……洗濯機で洗えるヤツだけど」
「なら、多少は良いじゃん。行こ行こ」
ん~…………まあ、いいか。
「わかったわ、行こ!」
「そう来なくっちゃ! ヤホー!」
母さん達に無視されたイライラもあって、私はナタリーンの誘いに乗った。
「だぁぁぁいたいさあ、娘が着飾ってるんだからさぁぁぁ、気付かないってどういう事よぉ?」
「コーミ、目が据わってるよ、ヒック」
「ナタリーンもねぇ、ヒック」
うーん、気持ち良く飲み過ぎたかなぁ。
「おねーさん、ビールもう一杯、ヒック」
「お、お客さん、大丈夫?」
「うーい? 大丈夫ぅ? だいじょばないかもぉ…………ケラケラケラケラ」
「コーミ、笑い方が変だよ」
ええ、そうかなー。
「も、もうお止めになった方がいいんじゃないですか?」
「そうですね、これで止めときます……幾らですか?」
「ありがとうございます」
ナタリーンが支払いを済ませてくれてる間に、私はフラフラと立ち上がる。
「ちょっと、コーミ! ジッとしてて!」
「ケラケラケラケラ」
自分でもわかるくらい気味悪い笑い声をあげながら、ナタリーンに抱きついて歩いていく。
「コーミ、重い」
「あ、ひっどーい。私、ナタリーンより軽いよぉ。ケラケラケラケラ」
そんな私達に近付く連中が五人。
「コーミ、シャンとして。どうやらボク達を狙ってるみたい」
「とーぅ!」
「って、コーミ!?」
バキィ!
「ぐはあ!」
近付いてきた男の顔面に、飛び蹴り炸裂。
「な、何しやがる!」
「何しやがるってぇ、いたいけな女の子を集団で襲うような輩、私がせーばいしてくれる!」
「い、いや、俺達はそこのアパートに住んでるから、帰る途中なだけがはぁ!?」
「オラオラオラァ! 私を襲いたいなら、私を倒してからにしにゃさーい!」
「だ、駄目だあ! この酔っ払い、凶悪すぎるぅ!」
「逃げろおお!」
「こら、待てええ!」
「ちょ、コーミ! マジックテープが取れてるって! 脱げるから走らないの!」
「こ、紅美が居ないじゃないのさ!」
「ホ、ホンニャンが誉めてやらないから……」
「あんただってチラ見するだけで、相手にしてなかったじゃないの!」
「しまったぁぁ……俺、邪魔だって言っちまったぁ……」
「「だったらお前が一番悪い」」
「し、仕方無いだろ、忙しかったんだから!」