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extra 年越のコーミ。

「ふう、一旦ゲーム止めよっか」

「そうだね」


 今日は日本で言うところの大晦日。中国ではやっぱり春節……旧正月の方がメインだけど、元々日本人な私には日本の文化がよく馴染む。


「さて、ちょっと買い物に行ってこようかな」


「え、買い物? 昨日必要なモノは買ったよね?」


「うん、まあ……ちょっとした思いつきで、作ってみたいモノが出来てさ」


「ふーん……コーミが作りたいって言うなら、ボクも手伝うよ」


 そう言って出掛ける準備を始めるナタリーン。こんなご時世だから、どこに行くにも必ずナタリーンは付いてきてくれる。


「ありがとう。多分私だけだと、運ぶの大変だから」


「……コーミは一体何を買おうと思ってるの?」


 そうねえ、確か使われてたのは……。


「松の葉と、ゴザと、紐と」


「松の葉とゴザと紐? 何を作るつもりなの?」


「後は……竹」


「竹!? パンダに餌やりするつもり?」


 何で竹って言ってすぐにパンダになるのよ。


「ただ使うからよ。ていうか、竹がメインかな」


「……どれくらい要るの?」


 そうねぇ、やっぱり対になるんだから。


「……六本かな」

「はあああっ!?」



 市場近くにある日本の食材の専門店でそばを買う。


「……そばも飾り付けに使うの?」


 違うわよ。


「これは年越しで食べるの。年越しそばって言ってね」


「ふうん? 年越しにそばって、よくわかんないねえ」


「長いでしょ、そばって。長く生きられるって言う縁起モノなのよ」


「へえ……なら別にラーメンでもいいんだよね?」


 まあね。私もカップラーメンで年越しそばにした事は何回もあるし。


「ナタリーンがラーメンがいいんなら、別に買うけど?」


「んーん。コーミが作ってくれるんなら、そばでいいよ」


 何よそれ。


「ていうか、時間も無いから早く買いましょ。もうすぐトーナメントの準決勝の配信よね?」


「そうだね……そう言えばコーミ」


 ん?


「最近、すっかりサーチの口癖がうつったね」


「へ? 口癖?」


「無意識だったんだね…………よく言うじゃん、『ていうか』って」


 え、本当に?



 買った材料を実家の屋上に運び込む。あまり広いところが無いこの辺りじゃ、屋上は立派な作業場だ。


 ゴリゴリゴリゴリ


「か、かったい竹ね……ノコギリでも時間かかるわ」


「コーミ、ちょっと退いてて」


 そう言ってナタリーンは、愛用の鉄パイプを構え。


 ……ザクンッ!


「はい、こんな感じでいい?」


 ど、どうやったら鉄パイプで竹が斬れるのよ。


「こんなの、斬鉄ができるボクには訳無いよ」


 鉄パイプで斬鉄。もう意味がわからない。


「さあさ、チャチャっと作っちゃお。段々寒くなってきた」


 上海も当然ながら寒い。日本の鹿児島と同じくらいの緯度だけど、四季はちゃんと感じられる。ま、雪がガッツリ積もるのは珍しいけど。


「次はどうするの?」


「あ、はいはい。竹を斜めに斬って」


「ほいさ」

 ザンッ!


「こんな感じ?」


「そうそう。で、長さを少しずつ変えて……」



「ちゃんと持って! ここでしっかり固定しないと、倒れちゃうんだから!」


「わ、わかったけど、コーミは何を作りたいんだよ!」


 出来てからのお楽しみよ!



「で、ここにゴザを巻いて、紐で固定して」


「……? よくわかんないなぁ」


「いいからいいから」


 あとは飾り付けに松の葉と、南天を実が付いたまま差し込んで……。


「うん、なかなか良いんじゃないかな」


「……コーミは何を作りたいのかな?」


「え、もう完成よ」


「ふーん……で、何なの、これ」


「門松」


「か、かどまつ?」


 ネットで手作りしてるのを見た事があって、一度作ってみたかったのだ。うん、我ながら上手く出来た。


「さて、運ぶからそっち持って」


「は、運ぶってどこへ?」


「玄関よ。門松は入口に門みたいに飾るから門松なの」


「って、重いよこれ!? ちょ、ボクにばかり過重かけないでよ!?」



 ズンッ


「は、はあ、はあ、お、終わった……」


「ご苦労様」


「は、運んだの、ほとんどボクじゃないか!」


 だからご苦労様って労ったじゃないの。


「……何をしてるんだい?」


 物音に気付いた紅娘(ホンニャン)母さんが顔を出す。


「あ、どう? これ」


「どうって……これはカドマツ、だよね?」


「あれ、知ってるの?」


「まあね。この店を開店した時に、(シャア)が飾ってくれたんだ」


 母さんが?


「ほら、あの写真さ」


 そう言って母さんが指差したのは、店の隅に飾ってある写真の一枚だった。


「……本当だ。門松が並んでる……」


「縁起モノだからって、殺が飾るって言って聞かなかったのさ」


 あはは、流石は母さん、ゴリ押しだ。


「だけどね、カドマツのモノ珍しさに誘われたのか、初日からお客さんが絶えなくてね。こうして今日までやってこれたのさ」


 確かに、上海の街に門松は違和感半端無い。


「で、ホンニャン母さん。これ、このまま飾っていい?」


「良いよ。せっかく紅美が作ってくれたんだ、駄目だとは言えないよ」


 あ、ありがとう。


「それに……母子揃って同じモノを作るなんて……やっぱり因縁ってあるんだねえ」


 因縁って。


「あ、そうだ。ホンニャン母さんも年越しそば食べない?」


「年越しそばまでかい? 殺にご馳走になった事があるよ」


 母さん、いろいろやってたのね。


「父さんや兄さんの分もあるから、今日は夕飯に食べようよ」


「はいはい。男共は私の料理より、紅美の手料理を喜ぶからね。異論は出ないさ」


 あははは……否定できない。


「そういや彼氏はどうしたんだい?」


 この話題になった途端、ナタリーンがご機嫌斜めになる。


「ああ、彼は発掘が忙しいからって現場で泊まり込み」


「相変わらずだねぇ……」


「あいつの話は無し無し。さ、中に入ろ」


「……ナタリーンと仲が悪いのも相変わらずなんだねぇ……」



 次の日の朝、手作りの門松には、うっすらと雪が積もっていた。

良いお年を。

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