play7 泥棒のサーチ。
勝つには勝った。だけど腑に落ちないことがある。
「ソース子、相手の召喚獣、明らかにパワーアップしてたわよね?」
「え? あ、そうだった?」
「見た目が全く変わってたじゃん」
「それは流石にわかった。頭やら足やら手やら増えてたし」
翼も一本増えてたし。
「大会規約に反してるのは明らかじゃない?」
「ん~……でも見た目を変化させる召喚獣って、居ない事は無いんじゃないかな?」
え、そうなの?
「タヌキ様とか、キツネ様とか」
いるの!?
「流石に戦闘向きじゃないけど『変幻自在』を使って探偵をさせたらピカイチらしいわ」
探偵……調査向きだわね、確かに。
「うーん、そうなるとあのキメラにも変身するフェイバリットが?」
「まあ……サーチさんやリーフみたいに、二つフェイバリットを持ってる召喚獣も居るからね」
……基本的に一匹の召喚獣には一つのフェイバリットらしいし……そこまで例外ばっか集まるもんかな?
「ならサーチさん、他の試合を観ておこうよ」
「…………そうね。他の召喚獣を偵察しておく必要もあるし」
何かしらの変化が、他の召喚獣にもあるかもしれないし。
が。
「申し訳ありませんが、選手の試合観戦は禁止になりましたので」
「は? 何でよ?」
「観戦を装って、相手の召喚獣の偵察・研究をする輩がいる、という通報が寄せられましたので」
はああ?
「そんなの当たり前の戦法じゃないの」
「いえ、卑怯ですから」
「はあ? 何を今さら」
係員と揉めそうになる私を、ソース子が割って入って止める。
「待って下さい。大会規約には、そんな文言はありませんよ」
「昨日改定されましたので」
「急に変えるなんて……周知もさせずに施行させていいんですか?」
「私にはわかりかねます。文句があるのでしたら、運営委員会へどうぞ」
「…………」
「……ハッキリ言うとな、気に入らないんなら棄権しろよ。星一が活躍するなんて、目障りなんだよ」
はああ!?
「ほら、こっちは忙しいんだから、とっとと失せろ」
「…………っ!」
「はいはいはい、止めに入ったあんたがキレてどうすんのよ」
今度は私がソース子の前に割って入る。
「…………ふん」
最初に突っかかった私が言うのもアレだけど、ここまで態度が変化するのはおかしい。裏で何か起きてる可能性が高い。
「……ソース子、今夜ちょっと付き合ってもらうわよ」
「へ?」
情報収集が得意なのは、『変幻自在』を使えるタヌキ様キツネ様だけじゃないのよ。
……真夜中。
ス……ス……
足音を発てずに歩く私と。
テクテクテク
しっかり足音を鳴らして歩くソース子……って、おい!
「静かに歩きなさいよ! 見つかったら大変でしょ!?」
「だ、だって、私はサーチさんみたいに泥棒みたいな事できないし!」
「ドロボー言うな。ていうか、今どきテクテクなんて足音は珍しいわよ?」
「あ、足音突っ込まれても……」
「ん? 物音がしなかったか?」
「そうか? ちょっと確認してくるか」
ヤバい、見つかった!
タタタタ……
「……誰も居ないじゃないか」
「鼠か? たく、人騒がせな……」
…………何とかやり過ごせたか。
「はぁぁ、よかった。用心深いタイプだったら、見つかってたかも」
実際に明かりがあと1m奥まで届いてたら、私達は見つかっていたのだ。
「こ、怖かったあ……」
ていうか、できればソース子を置いていきたい。私一人だったら、簡単に侵入できるのにぃ。
「サ、サーチさん、まだ進むの?」
「ここまで入り込んどいて、戻っちゃ意味ないじゃない」
「そ、そりゃそうだけど……」
ソース子の顔には「帰りたい」とハッキリと書いてある。ま、気持ちはわかるけど。
「何で陛下はこういう時に居ないのよっ」
たぶんリーフかクラ子辺りをあの艶空間に連れ込んでるんじゃない。
「ていうか、先進むわよ。さっき教えたみたいに、指先からゆっくり足を下ろすの」
「はい…………抜き足、差し足、忍び足……」
ていうか、何でそれを知っててテクテク歩いてたのかな。
「事務局……あった」
≪偽物≫を使い、ドアの鍵を複製して。
ガチャリ
はい、解錠。
「……サーチさん、やっぱり泥棒?」
「だからドロボー言うな。情報収集する場合はあちこち忍び込むからね」
「……やっぱ泥棒と同じいったあああい!」
足を踏まれて叫び声をあげ……って、静かにしなさいっての!
「さて、さっさと調べるモノ調べて失礼するわよ。ソース子はそっちね」
「あ、はい」
机の上に無造作に広げてあった書類には目も向けず、メモ帳や紙の切れっ端やらを調べる。
「……ち、落書きばっかじゃん……」
「あの、サーチさん? 書類とかは調べないの?」
「今私達が知りたいことは、非公式なことなの。そんなのが正式な書類として回ってるはずないでしょ」
「な、成程」
そう言いつつ手は休めない。ゴミ箱の中も探す…………ん?
「ジャミ様から連絡あり、番号は…………これって念話番号よね」
ジャミって人からの念話を知らせるメモ。
「ジャミって、ジャミ様ですか!?」
へ?
「ソース子、知ってるの?」
「知ってるも何も、前回の優勝者ですよ!」
前回の優勝者の番号?
「ていうか、ジャミなんて出場者はいなかったような」
「一度でも優勝した事がある人は、殿堂入りして大会には出られなくなるんです」
殿堂入りて。
「ていうか、なら何で事務局に前回優勝者から念話が?」
「ただ……明日の試合に出るラミって人」
ジャミにラミ。それって血縁関係じゃないの?
「ジャミ様の娘です」
血縁関係どころじゃないくらい血縁関係だった! これって今回の件に間違いなく関わってるわよね!
サーチ「ドロボー言うな」