play6 単独のサーチ。
「世界一魔術会もいよいよ準々決勝に突入です!」
わああああああっ!
「……ふぅ」
表の盛り上がりに、珍しく緊張してしまう。こういうときは深呼吸して。
「はぁぁぁ、ふぅぅぅ」
落ち着かなきゃ。余計な緊張は身体の動きに硬さを生む。
「はぁぁぁ、ふぅぅぅ、はぁぁぁ、ふぅぅぅ」
少しずつ少しずつ筋肉の弛緩を解いていく。こういうのは焦らず、ゆっくりゆっくり。
「はぁぁぁ、ふぅぅぅ、はぁぁ」
きゅっ
「ああああああん!」
「ふむ、緊張しておるようだったからの。妾が直々に緊張を解いてやったのじゃ」
い、い、いきなり何すんのよぉぉぉ!
「禁断おしおキィィィィック!」
バゴチィィィィン!
「ふぎゃあああっっ!」
フルパワーのおしおキックを股間に食らったマーシャンは……まあ、ご臨終とまではなってない……と思う。
「サーチさん、試合始まるよ」
あ、はい。
「……何で陛下が泡吹いて倒れてるの?」
「ちょぉぉっとセクハラまがいなことをしてきたからね」
「……セクハラで生死の境をさ迷っちゃうんだ」
ソース子がマーシャンの目に光を当てている。どうやら瞳孔が伸縮するか確かめているみたい。
「ていうか、まさか反応なし?」
「……ちょっとだけある。うん、まだ大丈夫」
ふう、ならよかった。今度からは普通に蹴り上げるようにしよう。
「先に行ってて。私はふぁんてぃに陛下の事を頼んでくるから」
……は?
「な、何でそこでふぁんてぃが出てくるの?」
「ふぁんてぃの召喚獣・ハクビシンは回復特化でしょ? だからこういう大会の治療班として、よく呼ばれるのよ」
へええ。一芸に秀でるってのも役に立つもんね。
「まあいいわ。パパッと片づけてくるから、ふぁんてぃによろしく伝えといて」
「わかった」
さぁて、今度の相手は強いのかしらね。
「ヌボォォォォォォ!!」
…………。
「ちょっと、何よあれ」
あまりにも前の試合で見た姿とは違う相手召喚獣に、思わず審判に詰め寄る。
「何よと言われても、ダカンダ選手の召喚獣・集合体のキメラです」
キメラだったわよね、それは試合観てたからわかってる。
「だけど首やら足やら翼やら、いろいろ増えてるじゃないの!」
「キメラですから」
「いや、キメラだからって途中でパワーアップしたりしないでしょ!」
「キメラですから」
「明らかに手が加わってるんじゃないの!?」
「キメラですから」
「召喚獣の人為的な改造は、禁止されてるんじゃないの!?」
「キメラですから」
ああもう、話になんない!
「不満でしたら棄権なさりますか? 召喚主と話し合って決めて下さい」
「あーはいはい! わかりました! やりますよ!」
そう言って≪偽物≫でリングブレードを作り出す。
「では、両者とも準備完了という事で、試合開始!」
「ボワァァァァァァァァ!!」
複数の口から同時に叫び声を上げ、キメラが突進してくる。
「ていうか、ちょっと! こっちの召喚主がまだいないんだけど!」
指示出してくれないと、動くに動けないじゃないの!
「ボワァァァァ!」
迫る牙やら爪やら。ちょちょちょちょっと!?
「し、仕方ない。とりあえず避けなきゃ!」
召喚主の指示なしで動けますように!
ぶぉん!
ひょいっ
「……あれ?」
よ、避けれた?
「ボワァァァァ!」
どどぉぉん!
そのまま壁に突っ込むキメラ。それでも足は止まらない。
「キメラ! 壁じゃない! この女に『突撃』だ!」
「ヌボォォォォ!」
そう言われて、ようやくキメラが軌道修正する。
「……まさか、まっすぐ突撃しろって言って、バカ正直に壁に突っ込んだわけ?」
応用がきかないみたいね……ならやりやすい。
「ボワァァァァ!」
再び突っ込んでくるキメラ。だけど「私に向かって突っ込んでくる」んなら、迎撃はカンタンだ。
「はあっ!」
ザンッ!
攻撃を避けながら、リングブレードでキメラの身体を確実に斬り裂いていく。
「く、ちょこまかと! キメラ、最高速で『突撃』だ!」
「ヌボォォォォ!」
あーあ、最高速で突撃なんて言っちゃって。
「さっきの流れで、私に突撃って加えないとどうなるか、わかってないのかしら」
そのまま壁際に移動し、キメラが来るギリギリまで待ち。
「ひょいっと」
サッ
ズドオオオオン!
再び壁に激突。しかも一番固そうなとこだったから……。
「ヌボゥァァァ!!」
額から大量に血を流してのたうち回る。そりゃ痛いでしょうね。
「えい」
ザクッ
「ボワァァァァァァ!」
その傷をリングブレードで抉る。
「それじゃトドメといきましょうか……」
抉って広げた傷口に手を当て。
「『鉄クズの流星雨』!」
ドスズブズブザクザクグサァ!
硬い皮膚じゃなく、内部に直接放たれたフェイバリットは、容赦なくキメラの体内をズタズタにし。
パアアア……
断末魔の叫びをあげることもなく、霧散していく。
「あああ、キメラが!」
「勝者、鉄クズのサーチ!」
わああああっ!
召喚獣を失って膝を着く対戦相手。ダカンダさんだっけ、ごめんね。殺さずに済ませられるほど、楽な戦いじゃなかったから。
「……フーンだ」
舞台裏に戻ると、ソース子が不貞腐れていた。
「何よ、勝ったのに」
「だってさー、私と一緒に戦ってるときより、生き生きとしてるんだもん」
「そりゃそうよ。指示通りにしか動けないのと自由に動けるのとじゃ、雲泥の差よ」
ていうか、何で自由に動けたんだろ。
「…………ソース子、今度から試合のときは」
「どっか行けって言われたって、絶っ対に嫌だからね!!」
……ちっ。