play5 釣餌のサーチ。
私の試合のあとは、無難な試合ばかりだったらしく、日に日に空席が目立つようになってきたらしい。
「ていうか、空席目立つってレベルじゃないでしょ、これ」
次の対戦相手がどんなのか、偵察を兼ねて観戦に来たんだけど……。
「がら~~ん……って言葉がピッタリ合いそうなくらい、観客いないわね」
「通りでチケットを格安で融通してくれた訳だ」
「……買ったのはわたくしで、同伴を許可したのもわたくしで、貴女達は何ですか?」
「「はい、感謝しております、アンチテーゼ先輩」」
最近金銭面ではアンに頼りっぱなしだ。ますます頭が上がらなくなる。
「……クスクス……お気になさらず。ちょっとからかっただけですわ」
へ?
「あれだけ派手に負けたのですから、サーシャ・マーシャも少しは堪えたようです。最近はわたくしを襲う事も無くなってきましたわ」
そりゃよかった。
「言われてみれば、私のところにも来ないわね」
襲われてる回数では、私とアンが双璧なのは変わらないはず。
「ねえねえ、それって対象が変わっただけじゃない?」
すると話を聞いていたソース子が、向こう側の観客席を指差す。そこには。
「良いではないか、良いではないか」
「ま、毎晩毎晩勘弁してほしいのに、今日は昼間からですか!? リーフは体力がもちません!」
「ふぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
……ああ、あの二人が餌食になってるのね。
「確かにクラ子さんは、意外にスタイルが良いですからね。サーシャ・マーシャ好みですわ」
「リーフも何だかんだ言って、二桁だったわよね~」
クラ子もああ見えて二桁なんだから、見た目のギャップはリーフ以上だ。
「ていうか、アンもそれなりにあるの?」
「はい? 何がですの?」
「だから、経験」
「はい?」
「わかんない? 経験人数よ、【あはん】の」
それを聞いた瞬間、一気に沸騰するアン。耳から水蒸気が吹き出しそうな勢いだ。
「そそそそんな事、言えるはずがありませんわよ!」
「えー、そうかな。私は普通に言えるけど」
「っ…………ち、ちなみにどれくらいですの?」
「え、【三桁】だけど」
それを聞いた瞬間に、アンはひっくり返りそうになる。
「ひゃ、ひゃ、百【ぴー】人!?」
「何よ」
「し、信じられませんわ。婚前交渉ですら如何なモノか、と言われている昨今に……」
いつの時代の概念だっつーの。
「アン先輩、私も同意します! やっぱりおかしいですよね、サーチさん!」
「ソース子、同意してくれるのですね!」
共通の価値観が、二人に新たな友情を芽生えさせる。
「ていうか、あんた達って経験人数は一人で、両方とも相手はマーシャン?」
「「言わないで下さい!」」
……図星か。
次の日。再び同じメンツで観戦していると。
「……ねえ」
「はい?」
「何ですの?」
周りを見渡しながら、二人に聞く。
「昨日より観客増えてない?」
そう言われてアンとソース子も周りを見る。
「……確かに……昨日より多いですわね」
もしかしたら今日の試合、注目の一戦があったり?
「もしかして隠れ優勝候補がいるのかも」
「だったら要注目だね」
「よく観ておきましょう。そうしないと、わたくしが払ったチケット代が無駄になりますわ」
だから、感謝してますって。
が。
「……普通だったわね」
「普通と言うより、観る程の試合ではありませんでしたわね」
「ハッキリ言って、時間の無駄だったわね」
おかげで途中から昨日みたいな雑談に興じてたくらいだ。
「……帰ろっか」
「そうね」
「そうですわね」
私達が席を立つと、他の観客達もゾロゾロと帰り始める。
「……何でこんなに観客来てたのかしら」
「さあ……有名人でも居たんじゃないの?」
有名人ねぇ。
さらに次の日。
「……?」
ワイワイガヤガヤ
昨日の倍はいる。何故か観客が増えている。
「きょ、今日こそ注目の試合が?」
「……いえ、そこまで期待できる選手は出ていませんわよ」
「…………気のせいかもしんないけど、私達の席を中心に、やけに密集してないかな?」
言われてみれば、いる観客の九割以上男だ。魔術式映像記録機……平たく言えばビデオカメラ……を持ってきてるのもチラホラ。
「……まさかとは思うけど……」
「……目的は試合じゃなくて……」
「……わたくし達……ですの?」
試しにチケットを払い戻して、他の席のを買ってみる。
で、戻ってみると。
ワイワイガヤガヤ
再び私達の席を中心に、ギャラリーが形成されていた。
「おかしい。絶っ対におかしい!」
私達は運営委員会の事務局に乗り込んだ。
バァン!
「わっ!?」
「な、何事ですか!?」
「何ごとですか、じゃないわよ! 絶対に事務局も絡んでるわよね、あれ!」
モニターには私達のいた場所がバッチリ映っている。
「え、あ、な、何の事でしょうか」
「観客の一人捕まえて問い詰めたら、事務局から情報をリークしてもらったって白状したわよ。しかも有料だって」
ガタタッ
それを聞いたとたん、事務局員は一斉に立ち上がり。
「「「申し訳ありませんでしたあ!」」」
一斉に土下座をしてきた。やっぱりか。
「……つまり、上からの指示で?」
「……はい」
正座したままの事務局長が白状した。あまりの閑散ぶりに、少しでも収益を上げるため、私達をエサにお客を集めていたそうだ。
「で、具体的には誰の指示?」
「そ、それは……」
「まあ、聞かなくても想像はできるけどね」
私達がエサとして使えると判断できるってことは、私達のことをよく知ってなきゃムリなわけで。
「マーシャンね?」
「…………はい」
事務局長は白状した。
で、マーシャンが後日血祭りにあげられたのは……言うまでもない。