play10 観戦のサーチ。
バカ騒ぎの次の日、今度はリーフの予選決勝戦だ。
「負けんじゃないわよ」
「はい、勿論。本戦の決勝戦でサーチお姉様と対戦するのは、リーフですから」
おお、言うねえ。
「リーフや、妾の存在を忘れておらぬか?」
「え………………あ、ああ、陛下は…………サーチお姉様に負けますから!」
おい。「リーフが倒します」ってくらい言えよ。
「妾がサーチに負けるかえ。あっはっはっは……………………言い返せぬ」
マーシャンも「負けるはずなかろう」って言えないのかよ!
「まあ、何よりは本戦に勝ち残ることよ。リーフ、油断大敵なんて言うくらいだから、気を引き締めていきなさいよ」
『え、気を引き締めて逝くのぶぎゃおえ!?』
クソ幽霊は黙ってなさい!
「あ、あはは、ルック船長なりの激励だと思っとくわ。なら、行ってきます」
『え、逝ってきますごぶふぁい!?』
いい加減にミスリル作るの止めさせてよ。MP消費がバカになんないのよ。
「待つがよいぞ、リーフや」
「え? 何でしょう?」
「其方、大事なモノを忘れておるぞ」
「へ? だ、大事なモノって」
「ふぇぇぇぇん!」
「……………………あ」
マーシャンの指差した先には、みんなに存在を気づいてもらえずにふぇふぇ言ってるクラ子の姿があった。
「それでは、決勝戦を開始します!」
わあああああっ!
舞台にはすでに対戦相手がスタンバイしている。ドギツい赤で全身を固めた人型召喚獣と、これまた真っ赤な召喚主のコンビだ。
「来たな、我に倒される引き立て役が」
おお、相手はおもいっきりフラグ立てたねぇ。
「その言葉、そっくりお返しします」
リーフまでフラグ立てんじゃないの。
「そういう者ほど、アッサリと負けるものなのだよ」
「ですから、その言葉をそっくりお返しします」
「同じ対応を繰り返すとは能が無いな。無駄な自信は視野を狭めるだけだが」
「本当に繰り返しになりますけど、そっくりそのままお返しします」
「ったく、他に違う事は言えないのか? これだから低脳な輩はクドクドクドクド」
もはや言い返す気にもならないらしく、ため息を吐くリーフ。
「あのー、審判さん。いつまで付き合えばいいでしょうか?」
「…………では、始めて下さい」
まだ一人でクドクドと説教している対戦相手は、試合開始が宣告されたことに気づいてない。これはチャンスよ、リーフ。
「ふぇ、ふぇい、せ、先手、必勝ですぅ!」
「はい、召喚主様。『深緑の葉刃』!」
珍しくクラ子がちゃんと指示し、フェイバリットを発動させる。
バサササッ
シュンシュンシュン!
宙を舞っていた葉っぱが一気に対戦相手に殺到する。これは逃げられないな……リーフの勝ちね。
「クドクドクドクド……むっ」
シュンシュンシュン!
「猪口才な!」
ゴォウ!
寸前にまで迫っていた葉っぱは、突然現れた炎によって焼き払われる。
「ふぇ!?」
「う、嘘でしょ!?」
クラ子もリーフも勝ちを確信していたらしく、あのタイミングでのレジストに驚いている。
「ふん、所詮引き立て役の攻撃など、不意打ちでもこの程度か」
いやいやいや、不意打ちじゃなくて、あんたが余裕ぶっこいて一人でしゃべってただけですから。
「ふん、我の攻撃の番である以上、これで終わりだ。王者たる我に刃向かった事を後悔するがよい!」
「っく!」
木属性のリーフが最も苦手な火の攻撃が迫る。
「そもそも我に対してあのような態度で接する事自体がおかしい」
迫る。
「良いか、下の者であろうと、守らねばならぬ礼儀というモノがあるのだ」
迫る。
「そんな事もわからぬとは、何と低脳な輩であろうか。近頃の若い者は」
せ、迫る
「大体最近の若者はクドクドネチネチクドクドネチネチ」
迫る…………ああもう、いつになったら終わるのよ!?
「ちょっと審判! あの一人言、何とかなんないの!?」
「う、うむ……試合再開!」
「クドクドネチネチクドクドネチネチ」
「試合再開!」
「クドクドネチネチクドクドネチネチ」
「っ…………これ以上審判の指示を聞かないのなら、失格にしますよ!」
「ネチネチクドクドネチネチクドクド」
「最後です。試合再開!」
「クドクドクドクドネチネチネチネチ」
何回警告しても聞かない対戦相手に、審判は大きなため息を吐き。
「…………勝者、深緑のリ」
「お、我の番だな。『炎剣』!」
審判がリーフの勝ちを申告してる途中で、対戦相手の攻撃が始まる。
ゴオオッ!
リーフの三倍はありそうな長大な炎の剣が、天に向かって伸び。
「斬り裂けぇ!」
ゴオウッ!
振り下ろされる。
「くっ……『葉っぱ防御』!」
何とか防御しようとするものの。
ボヒュッ!
アッサリと守備を突破され。
ザンッ!
「きゃあああああああああ!」
リーフの左腕を切断する。
「あああああ! うああああああ!」
激痛に転げ回るリーフ。これは勝負ありか。
「勝者、深緑のリーフ!」
……って、え?
「なっ…………ふざけるなあ! 何故あの小娘が勝ちなのだ!?」
もう勝敗が決したのは間違いないんだから、とりあえず治療が先ね。
「リーフ、ちょっとガマンして」
持ってきた布で傷口を縛る。
ギュゥゥ
「あううっ!」
「ほい、ガマンガマン」
さらに脇を強く縛り、出血を止める。
「よし、あとは適切な治療を受ければ問題ないわ」
「ううう……あ、ありがとうございます、サーチお姉さ」
「ふぇぇぇぇん! リーフぅぅぅ!」
よほど心配だったのだろう。泣きながらクラ子がリーフに抱きつき。
ギュウウッ
「いでええええええええええ!!」
応急処置したばっかの傷口におもいっきり手が当たり。
ぴゅーっ
再び激しい出血が始まった。
「ふ、ふわぁぁ……」
バタッ
貧血気味でブッ倒れる
リーフ。
「リーフぅぅぅ!? き、棄権しますぅ!」
「審判の裁定は覆らな……え?」
「クドクドネチネチ……え?」
こうして、リーフは本戦出場を逃した。あ、腕はマーシャンのおかげで繋がったんだけど。
「召喚主様ぁぁぁ……」
「ふぇぇぇ! ごめんなさい! ごめんなさいいい!」
ま、いいコンビだ。