play6 予選のサーチ。
「天下一……ではなく世界一魔術会に参加の方は、こちらで受付を済ませて下さーい」
今、天下一何とかって言いかけなかった、あの係員?
「たくさん居るわね、人が」
我が召喚主はいかにもおのぼりさんといった風情でキョロキョロ。頼むから堂々としててよ。
「当たり前ですわ。世界三大大会の筆頭と呼ばれる大会ですのよ」
自慢のドリルをビョンビョンさせながら、周りを見下し気味に歩くアン様。ここまで堂々としなくていい。
「ふぇ、ごめんなさい、ふぇ、すいません、ふぇぇ!」
「召喚主様、落ち着いて下さい!」
相変わらずふぇふぇ泣いているソーコ改めクラ子は、通る人通る人全てにぶつかっている。ていうか、器用というか不器用というか。
「ふむ、サーチや、妾が全員の分を受付して進ぜようぞ」
堂々としてなくても堂々してるように見えるのは、マーシャンの女王としてのオーラなんだろうか。受付に進むと何故か周りの人が避けていく。
「あれはサーシャ・マーシャの厭らしい気配を、本能的に察して避けているんですわ!」
相変わらず自分の召喚獣に【あ゛ーっ!】させられてるみたいで、影では散々コキ下ろしているアン様。
「ん~? 何か言うたかのぅ、召喚主様や~?」
「ひぅ!? な、何も言ってませんわ!」
「そうかえ、そうかえ。今夜も鳴かせてあげた方が良いようじゃの」
「なっ!? き、昨日も朝方まで……」
朝方までヤってたのか。だから目の下に隈ができてんのね。
「良いではないか、良いではないか」
「な、ちょっ、どこへ、あああああれえええええ!」
……マーシャンに引き摺られてアン様退場。
「ていうか、受付は?」
「……済んでおる。先にイって、いや行っておれ」
ヤル気満々な言い間違えだな。
『え~、逝くんですか~♪』
幽霊は黙ってなさい。
予選を行った上で、計十六組によるトーナメント戦となった。天下一何とかの倍なのね。
「うーん、くじ引きなのも同じか」
「……サーチさん、一応聞くけどさ、くじ引き以外に決める方法ある?」
「…………あみだくじとか?」
「いい大人が百人超集まってあみだくじするの!?」
……よくよく考えたらスゴく手間だわね。
「次の方、どうぞ」
あ、私達の番だ。
「ほら、ソース子」
「あ、うん」
ソース子がくじを引いている間に、後ろにいるルック船長に声をかける。
「頼んでた通りにお願いね?」
『りょーかい♪ その為に透明になって大人しくしてたんだし♪』
透明なまま抽選箱に向かったルック船長には、私達とリーフ組とマーシャン組を別々のブロックにわけてくれるよう頼んである。
え? 明らかに不正じゃないかって? バレなきゃいいのよ、バレなきゃ。
「えっと、私達は…………Cブロックか」
「ふぇ、Eですぅ」
「妾達はDかえ。見事にバラバラじゃの」
そう言いながら、マーシャンは私に鋭い視線を向ける。ありゃ、バレたか。
「……今回は見逃しても良いがの……」
「あはは、いいじゃん、みんな予選で当たらないんだし」
「そういう問題では無い! たまたま審判が居なかったから良かったものの、バレたら失格どころでは済まなんだぞ!」
ええ!? そ、そうなの?
「妾が魔術で誤魔化したから、どうにかなったのじゃぞ?」
あ、あはは、ごめんなさい。
「たく、こっちに来るのじゃ! お説教じゃ、お説教!」
え~……はあ、まあ仕方ないか。
「ソース子、ちょっと叱られてくるから」
「あはは、いってらっしゃい」
『え、逝ってらっしゃい?』
幽霊は黙ってろ。
「何よ、こんな暗いところに…………はああああああん!」
「良いではないか、良いではないか」
「ちょ、どこを触って……止めなさい、止めて!」
「良いではないか、良いではないか」
「誰か助けてえ! あああああれえええええ!」
「……では予選を開始しまーす」
「あ、来た来た。始まっちゃうよ」
「う、うん、ごめんなさい」
「サーチさん? 何か疲れてるみたいだけど?」
あ、あのクソ女王、本戦で当たったらボッコボコにしてやるっ。
「次、ソース子対あべら~」
お、いよいよ私達の番ね。
「サーチさん、一旦私の中に戻って」
ほいほいっと。
「では、両者、召喚を」
「契約せし召喚獣よ、今ここに! 『飢餓の魔獣フェンリル』!」
「お願いね、『鉄クズのサーチ』さん!」
パアアア……
おおおおおおっ!
私が姿を現すと、会場から歓声があがる。
「人型だぜ」
「しかも女の子だぜ」
「しかもあの体型だぜ」
「しかもあの格好だぜ」
野郎どもが全員頷き。
「「「頑張れ、鉄クズのサーチ!」」」
心一つに、私の応援を始める。まあ、ヨダレをダラダラ垂らしてる魔獣を応援する気にはならんわな。
「ふっふっふ、人型が最初の相手か。これは楽勝だな」
あーあ、殺られ役の典型的なセリフだわ。
「では、始め!」
さて、学校での戦いみたいに遠慮する必要はないわね!
「くらえ、『飢餓の牙』!」
って、速いわね。
「よっと」
サッ
「よ、避けた!?」
あんなん避けられないはずがない。
「はーい、よしよし」
犬……じゃなくてフェンリルの頭を撫でてから。
「『鉄クズの流星雨』!」
ヴォバアアアン!
撫でてた手からフェイバリット発動。頭を跡形もなく粉砕し、勝負あり。
「勝者、鉄クズのサーチ!」
「ふ、とーぜん」
わああああっ!
再びあがる歓声。うふふ、注目されるって快感ね。
「揺れてたな!」
「ああ、しっかり揺れてたな!」
どこを見てた、あんたら。
「召喚獣虐殺はんたーい!」
「召喚獣への暴力を許すなー!」
何で召喚獣愛護団体がいるんだよ!
「ていうか、私も召喚獣なんだけど」
「「…………」」
おい、視線を逸らすな。