play3 追撃のサーチ。
ルック船長が仲間に……ていうか、一方的に取り憑いてきた……なってから、妙な効果が現れだした。
「失礼します」
コンコン コン
……ん?
「あれ? 私、ノックは二回だけにしてたはずだけど…………気のせいかな?」
とか。
「さーて、ニンジン刻んでっと」
トントントントントントントントン トントントントン
……ん?
「こ、ここまで細かく切るつもりはなかったんだけど……?」
ん~……ま、まあいいや。別に致命的な失敗ってわけじゃないし。
「そ、そうだ、デザートに使うリンゴの皮を剥いとかなきゃ」
シャリシャリシャリシャリシャリシャリシャリシャリ シャリシャリシャリシャリ
「あ、あれ? 何でリンゴが小さくなって?」
ていうか、皮じゃなく中身をこんなに削っちゃってりゃ、リンゴ自体が小さくもなるわな。
「い、一体何が……?」
とか。
「ソース子、起きなさい。船長さんがお呼びよ」
ゆさゆさ ゆさ
あれ、まただ。二回揺すったのに、勝手に一回揺れてる。
「う~ん……ていうか、早く起きろ」
ゆさゆさゆさゆさ ゆさゆさ
「ね、眠いぃ……」
「起きなさい。給料減らされるわよ」
ゆさゆさゆさゆさ ゆさゆさ
まただ。まあ、今はそれよりも。
「起こすことが肝心ね。だから、奥の手!」
キュッキュッ
「はああああああん!」
キュッ
「はあああん! そ、そんなに何回も摘ままないで!」
へ? 何回も?
「…………やっぱりこれは…………」
心当たりがある変化といえば。
『ああ、私がやってるよ♪』
やっぱり。ルック船長の仕業だったか。
「ていうか、何でそんなことを?」
聞かれたルック船長は、キョトンとした表情を浮かべる。
『あれ? もしかして、気付いてないのかな?』
え、何を?
『はああ、やっぱりだぁ♪ だったら自分のステータスを見てごらんよ♪』
え、ステータス?
「まあいいけど……ステータスオープン」
ブゥン
「…………別に変わったところは……ん?」
下の「特殊効果」ってのが「new!」ってなってる?
「特殊効果? こんな項目あったっけ?」
開いてみると、そこには「付与霊・ルック船長」とあって。
「……効果・追撃……相手に与えたダメージの半分を、更に追撃してダメージを与える」
……つまり、追加攻撃か。それはそれでとっても便利な効果だけど。
「普通、戦闘のときだけなんじゃない? 日常生活にまで追加攻撃しなくていいんじゃない?」
だからノック二回したら一回増えてて、ニンジンが余計に細かくなってたりして、リンゴの皮剥いてるつもりが中身まで剥いたりしちゃって、ソース子が萌え萌えしちゃったりして。
「どっちかっつーと、迷惑だわ」
『がびぃぃぃぃん!?』
何よ、その昭和っぽいリアクションは。
『そ、そんな、私は取り憑き主の為に、取り憑き主の為だけを思ってええ♪』
何だよ、取り憑き主って。ていうか、深刻さが微塵も感じられないし。
『こ、こうなったらぁ……呪ってやるんだからぁぁ♪』
「どうぞ」
今の状態でも、十分呪われてるようなもんだし。これ以上増えたって、大したことはないでしょ。
『サーチへの特殊効果、更に強化してやるぅ♪』
特殊効果の強化が、何で呪いなんだよ。
どうせ深刻なことにはならないだろ……と考えていた私がバカだった。
コツコツコツコツ
チャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカ
「…………」
カツカツカツカツ
カチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャ
「ふんっ!」
バゴォ!
『ぶべぇ!?』
歩く私の後ろを、タップダンスしながらついてくるルック船長。問答無用でブッ飛ばす。
『な、何をするかあ!』
「それはこっちのセリフよ! チャカチャカチャカチャカうっさいのよ!」
『途中からカチャカチャに変わったごぶぅえ!』
そんなのはどうでもいいのよ!
「何でこんなことしてるのかって聞いてんの!」
『だ、だから、追加攻撃を強化するって言ったよね♪』
追加攻撃を?
「呪ってやるとは聞いてたけど、追加攻撃の強化は聞いてないわよ?」
『いやいや、追加攻撃の強化だよ♪ ちゃんと追加攻撃してたでしょ♪』
追加攻撃? 何に対して……………………まさか……今のタップダンスって……。
「歩いてたのを……床への攻撃とみなして?」
『あったりー♪ 床への追加攻撃さおぶべぅ!?』
クソ船長に三十倍の追加攻撃をしてやった。
「……つまり、サーチさんには日常生活に支障が出るくらいの?」
「当たり前よ! 全ての行動に追加攻撃だなんて、迷惑以外の何モノでもないわよ!」
『ないわよ!』
言葉まで追加攻撃しなくていい!
「で、私にどうしろと?」
こうなった以上、召喚主であるソース子に頼るしかない。
「ルック船長が私に憑いてるってことは、ソース子の絶対命令の範囲内だと思うのよ」
「えっと、つまり?」
「私に対して『追加攻撃は戦いの場に限る』って命令して」
「ああ、成程ね。それなら日常生活に影響出なくなるね」
「そ。だから、お願い」
「わかったわ……絶対命令。追加攻撃は戦いの場だけにしなさい!」
「うい」
さーてと、ステータスを確認してっと。
「効果・追撃……相手に与えたダメージの半分を、更に追撃してダメージを与える。ただし効果は戦闘時のみに限る……よっし、カンペキ!」
試しに壁を叩いてみるけど……うん、追加攻撃ない!
「やったあ! 日常生活を取り戻したあ!」
「良かったね」
『ううぅ……私の出番が少なくなっちゃったあ』
背後でタップダンスされるような出番なんかいらんっつーの!