play2 憑き物のサーチ。
「おらあ、ヒモを引けえ!」
「は、はいい!」
「おらあ、グズグズすんなあ!」
「ひ、ひええ!」
「大変ねえ~、召喚主様~」
『本当にねぇ♪』
ソース子の悲鳴が響く中、私と元船長は優雅にマグロ漁船生活を満喫していた。
「な、何で私ばっか! 直接原因の召喚獣が何もしないなんておかしい!」
「だって~、私は幽霊船長に取り憑かれちゃったし~」
『取り憑いちゃったし~♪』
「幽霊に取り憑かれようが取り憑かれてなかろうが、労働するしないとは関係無い!」
ま、そりゃそうだわな。
「こうなったら、絶対命令権発動!」
あ、こら、ダメだって。
「私の代わりに、この船で働い」
「幽霊憑きなんて御免だな。ほら、さっさと腕を動かせ!」
「てって、ひええええぇぇぇぇ!?」
マグロ漁船の船長が介入してくれたおかげで、私は強制労働は免れた。
「何で! 何でええ!?」
「馬鹿野郎! 自分の召喚獣の不始末は、召喚主が拭うのが当たり前なんだよ!」
そう力説するマグロ漁船長。さっき聞いたんだけど、色んな理由で召喚術士がマグロ漁船に乗るそうだが、主なのが召喚獣の壊したモノの弁償なんだとか。
「サーチさん! 私に対して申し訳無いとは思わないの!?」
「それは~……ほんのちょびっとくらいは」
「ほんのちょびっとなの!?」
「まあ、幽霊船長に関しては、申し訳ない気持ちでいっぱいだけど」
『船を返して下さいな♪ 服も返して下さいな♪』
「だったら何で!」
「いや、幽霊船退治しろって絶対命令したの、あんただし」
「うぐっ……で、でも、船を沈めろとは言ってない!」
う。そ、それはそうなんだけれども。
「馬鹿野郎!」
ガツン!
「いったああああああい!」
マグロ漁船長に殴られ、涙目のソース子。
「きゅ、急に乙女を殴るなんて反対! パワハラ反対!」
「うっせえわ! お前、幽霊船長に取り憑かれてるヤツを、船員として使える訳がねえだろ!」
へ?
「幽霊船沈めちまったってだけで、どんな災いが降りかかるかってのに、幽霊船長のお気に入りをコキ使うなんざ…………ああああああ! 恐ろしくってできる訳がねえええぇぇぇぇ!」
そんなに怖いの、この幽霊船長。
「あんたさ、マグロ漁船に対して何かしたの?」
『何もしてませんよ♪ 私達もマグロ穫ってるだけで♪』
ていうか、あの幽霊船もマグロ漁船だったのかよ!
『だけど、そこの召喚主さんからの熱い熱いリクエストでぇ♪ 今回は客船として運航してたんです♪』
「ていうか、真っ当に働いてたんじゃん!」
『その通りですよ♪』
「そんな幽霊船の乗組員に、私は襲いかかるよう命令されたってわけ!?」
『その通りですよ♪』
私はビシッとソース子を指差し。
「二十四時間働け」
「そんなあああああああ!?」
ソース子の微かな希望は、ここで打ち砕かれた。
「よおおおし、休憩! 飯だ飯!」
「「「おう!」」」
「お、おぅぅ……」
ドサァ
それからホントに二十四時間働き続けたソース子は、食堂に戻ってくるなり倒れ込んだ。
「お疲れ様」
『お疲れサマー♪』
「あ、あんた達、覚えてろよ……」
恨みつらみムンムンなソース子の前に、ご飯をドンッと置く。
「え?」
「私だってサボってたわけじゃないわ。船に乗ってる間、厨房を任されたのよ」
今日は穫れたてのマグロだけを使った海鮮丼と、マグロの大トロの刺身よ。
「お、おぅお、マグロ、マグロォ!?」
「船長がね、商品になる箇所以外は好きに使っていいって言ってたから、切れっぱしを貰って作ったのよ」
そう言って、同じモノを船員さん達の前に並べていく。
「「「うほほーい!」」」
他の船員さんのテンションも爆上がり。流石はマグロだ。
「さあさあ、お代わりもたっぷりあるから、ガンガン食べちゃって」
「うおっしゃああああ! 食い尽くすぞおおおおおお!」
「ガツガツガツガツ、お代わり!」
「モグモグモグモグ、お代わり!」
「ハムハムハムハム、お代わり!」
「はいはいはい、順番だからね、順番…………ていうか召喚主、あんたがキャラ設定無視して大食いしてんのかよ」
「ハムハムハムハム……だったら、あんたも二十四時間働いてみなさいっての!」
いえ、お断り致します。
「ガツガツガツガツ、お代わり! むっふー!」
「バクバクバクバク、お代わり! ふんがー!」
ていうか、お代わりにくるヤツ全員、くの字になってるような?
『ははああんん……成程成程、それは皆さん、くの字になる訳だ♪』
へ?
「幽霊船長、何かわかったの?」
『と言うより、サーチは自覚が無さすぎですねぇ♪』
自覚? 何が?
『サーチ、まずは今の姿を姿見で見てみよう♪』
姿見で? ていうか、ちょうど近くにガラスがあるから、全身を映して………………あ。
「なるほど、そういうことか」
私の今の姿は、ビキニアーマーの上にエプロン。つまり、見る角度によっては、男性の永遠の憧れになっちゃうわけで。
「あ~……マジですんませんした」
「「「いや、グッジョブっす!」」」
その姿を見ながら、幽霊船長はケタケタと笑っているのだった。
夜。幽霊船長に見張り役として駆り出された私は、夜風に吹かれながら星空を見上げていた。
『サーチ、サボるでないぞ♪』
「サボってないわよ。ほら、そこ」
指差した先にはモンスターが山のように積んである。
『おっほー♪ 強いねえ♪』
「ていうかさ、いつから私を呼び捨てにしてんのよ」
『気にしない気にしない♪』
まあ、いいけどね。
『それより何より気に入ったわ♪』
は?
『これからよろしくね、憑き主のサーチさん♪』
はああ?
こうして。
召喚獣が幽霊に取り憑かれる、という珍事が発生した。
『あ、私はルック船長って言うんだ♪ 重ねてよろしく♪』
ルック船長って……どこかで聞いたような。