play1 (やっぱり)沈没のサーチ。
「ふんふん、ふふーん♪」
出航してから二日。船旅は問題なく続いている。
「ふはあ、絶好の日光浴日和~♪」
『本当にね~♪ これが月光浴だったら、もっと良かったのに~♪』
ていうか、うっさいわね。
「何であんたが私についてくるのよ?」
『私は憑いてないよ♪ 私の逝き先に貴女が居るだけで♪』
ちょっと、縁起でもない言い方しないでよね。
時間はちょっと遡る。
「こ、この船、ホントに大丈夫なの?」
「うーん、大丈夫だと思うけど……」
船着き場に現れたのは……誰がどう見ても幽霊船だろ、って感じのボロ船だった。
「おーっほっほっほ、庶民にはお似合いの船ですわね」
「これこれ、品の無い笑い声を出してはならぬのじゃ」
「な、どこに手を入れて、は【ノクターンかよ】ん!」
あー、アンチテーゼさんは無視無視。
「ふぇぇ、幽霊船ですぅ、ふぇぇっ!」
「召喚主様、落ち着いて下さい。深呼吸ですよ、スーハー」
「ふ、ふぇぇ、ふぁぁ」
ソーコ改めクラ子も無視無視。あんだけ注目されるなんて、恥ずかしいったらありゃしない。
「……サーチさん……」
「何?」
「アン先輩やクラ子を遠い目で見ない方がいいんじゃない?」
は? 何でよ。
「私達が注目されてるのって、八割くらいはサーチさんが原因だよ?
だから、何でよ。
「その格好……注目されないはずが無いじゃない」
何よ、由緒正しきビキニアーマーの何がいけないってのよ。
「だから、私達があのギリ幽霊船に乗らなきゃならなくなった理由、ドレスコードですから!」
確かにビキニアーマーはお断りされたけど、私だけが原因じゃないでしょ!?
「二人分の旅費を稼げなかった召喚主にも問題あるわよね!」
「うっ…………ど、どうせ、どうせ、私は不器用ですよーだ! さあ、乗船するわよ!」
そう言って幽霊船へと乗り込むソース子。で、引っ張られる私。
「たく、召喚獣が召喚主から一定の距離から離れられない縛り、こういうときに不便さを感じるわ」
「おーっほっほっほ、さっさと行きなさい」
「じゃから、そういう笑い声は駄目じゃ」
「ひゃ【ムーンライトかよ】ん!」
「ふぇぇ! ソース子さぁん、ふぇぇ!」
「ほら、泣かない泣かない。サーチお姉様、お気を付けて」
こうしてアンチテーゼさん・マーシャン組は豪華客船、クラ子・リーフ組は普通客船。
で、私とソース子は。
ギシギシギシギシミシミシミシミシ
「……マグロ漁船かカニ漁船の方がマシだった気がするわね……」
歩くたびに軋む音。ときどき聞こえてくる妙な笑い声。無意味に多いクモの巣。
「まんま、幽霊船じゃないの。ていうか、よく幽霊船に予約できたわね」
「い、一番安い船で検索したら……」
そりゃ一番安いわな。
ガクガクブルブル
「ていうか、いい加減に私から離れなさいよ!」
「だ、だってぇ、怖いんだもん!」
怖いんなら幽霊船に予約すんなよ!
「ていうか、サーチさんは怖くないの?」
は? 幽霊船が?
「別に怖くないわね。モンスターとして出てきたのは、容赦なく斬り捨ててたし」
ミスリルで剣作れば、だいたいは一撃で昇天させれたし。
「ううう、ならサーチさん、幽霊船の幽霊全部やっつけて」
「え~……めんどくさいなぁ」
「なら絶対命令権行使!」
ぐっ!
「この船の幽霊、全部浄化してきてぇぇ!」
「わ、わかったわよ! やるわよ、殺ったるわよ!」
あーあ、何が悲しくて幽霊船で幽霊退治しなくちゃならないのよ!?
ザンザンザン!
『ぎぃあああぁぁぁ……』
『恩知らずぅぅぅ……』
ミスリルの短剣で次々に幽霊を浄化していく。
「ていうか、害になるような幽霊が一切いないんだけど」
だけど、絶対命令権を使われちゃっている以上、殺らないわけにはいかないのよ。
「ごめんねえ、恨むんならソース子を恨んで」
『誰よ誰よだああああれよおおおお♪ 私の大事な従業員を逝かせてくれちゃったのわあ♪』
ん? 強い魔力……幽霊船の船長か?
ぼわぁん
何故かピンク色の煙が立ち上り、そこから新たな幽霊が現れる。
「…………はい?」
『貴女ねぇ♪ 私の可愛い部下達を可愛がってくれたのはあ♪』
出てきたのは、確かに幽霊船の船長……ていうか、海賊船の船長?
『可愛い部下達の仇、取らせてもらうよぉ♪』
超美少女が眼帯して、片腕は鉤つきの義手。何かの倒錯プレイにしか思えない展開だわ。
「まあ……あんたが船長だってんなら」
ズバズバズバン!
『いやああああ、逝っちゃううう♪』
一気に勝負を決め…………え?
『あーあ、紙一重で避けるので精一杯でしたあ♪』
ふ、服が何ヶ所か切れただけで、無傷ですって?
「あんた……ただ者じゃないわね」
『そりゃあ、幽霊ですし♪』
だったら本気で……!
「これは避けられないでしょ! 秘剣≪竹蜻蛉≫!」
ピシュン!
『はひゃあ! あ、危うく本気で逝っちゃうとこでしたあ♪』
再び紙一重で避けたらしく、服だけがバラバラと……。
『あ。いやああああん♪』
ビキニアーマー並みに際どくなった服を押さえ、再び対峙する船長。
『………………あ』
ん?
『召喚獣さんよね?』
「え? あ、はい」
『貴女、絶対命令権で戦わされてたのよね?』
「え? あ、はい」
『なら、召喚主にお願いしようかしらあ♪』
「な、何を?」
幽霊船長、ニッコリと一言。
『貴女の秘剣で、船底に穴が空いちゃった♪』
へ?
『船、弁償してもーらお♪』
……へ?
ざばあああん……ブクブクブク……
で、たまたま航行していたマグロ漁船に助けてもらい。
「おらあ、召喚主ぃ! キリキリ働けぇ! 海に放り込みぞぉ!」
「ひぃぃぃえぇぇぇ! 何で私だけぇぇぇ!?」
「あー、いい天気だわぁ……」
『いい成仏日和だわぁ♪』
弁償のためにマグロ漁船で働くソース子を尻目に、私と幽霊船長は甲板で寛いでいた。
ていうか、上記に戻って終わり。




