EXTRA 仰天のコーミ。
「……ふう。やっと世界一魔術会だわ」
仕事の合間やプライベートの時間を利用して、どうにかストーリーモードのエピソード1を終わらせた。
「あ、やってるね。どうよ、ドラゴンズ・サーチ」
シャワーを浴びてきたナタリーンが背後からスマホを覗き込む。
「とりあえずエピソード1はようやく終わったわ」
「仲間はできた?」
「うん。クラ子っていう内気な女の子」
「え、クラ子仲間にしたの? なら召喚獣はまだ星一のまま?」
「え?」
ナタリーンはゲームの解説をしながら、頭に巻いていたタオルを解いて洗面所に向かう。
「エピソード1が終わる前に召喚獣の交換をすると、学校の最上級生が仲間になるんだ。それが滅茶苦茶頼りになるのよ」
「それって、まさかアンチテーゼさん?」
「ブッ! ア、アンチテーゼさんって……ゲームのキャラクターにさん付けは止めなよ」
だってさ、結構愛着がでてきたし。
「で、アンチテーゼじゃないの?」
「いやいや、それは無いよ。だってさ、アンチテーゼはエピソード1のラスボスだよ?」
え?
「アンチテーゼが選考会決勝後に繰り出してくる星五のアンチドラゴンを倒すと、アンチテーゼの取り巻きの一人が仲間になって、エピソード1がクリアになるんだ」
「取り巻き? 付き添いAとかBとかって居たけど、そのどっちか?」
「その二人はスライムを使ってたでしょ? 単なる殺られ役だよ」
「え? なら、これってどういう事?」
「どうかしたの?」
「……そのラスボスも仲間になったんだけど……」
「はああ!?」
髪の毛をタオルで拭いていたナタリーンが、急いで洗面所から戻ってくる。
「ちょ、見せてよ!」
「あ、駄目よ。スマホが濡れちゃうじゃない」
「大丈夫だから! 見せて見せて!」
ひったくる勢いで、私のスマホを手にする。
「まだゲーム中だって! ちょっと!」
「そ、そんな、エピソード1でアンチテーゼを仲間にできるだなんて…………どうやったの!?」
「へ? 何が?」
「どうやったら仲間にできたの!?」
ど、どうやったらって言われても……。
「普通にプレイしてただけよ?」
「だから、普通じゃないの!」
は?
「ボクが知る限り、アンチテーゼをエピソード1で仲間にできた人は誰も居ないの!」
「ど、どういう事よ?」
「ボクが知りたいよ! どうやってプレイしたんだよ!?」
「ど、どうやってって、最初に……」
私が今までプレイしてきた内容を話す。
「で、ここでハヤブサを倒して」
「ちょっと待って。ハヤブサを倒した?」
「うん。ハヤブサを倒したら、ここで」
「待って待って待って! 何で勝っちゃうんだよ!」
え?
「そこはストーリー上、必ず負けるイベントなんだよ!?」
はい?
「で、頼りない主人公を心配したハヤブサ使いが仲間になって、エピソード終了間際でハヤブサ使いの兄が仲間になるんだ。その兄が、アンチテーゼの取り巻きなんだよ」
はあああ?
「そ、その兄にも勝っちゃったんだけど?」
「何だってえええええっ!?」
「あ、そう言えば……それよりナタリーン、そのアンチテーゼの召喚獣を見てよ!」
「り、理解できない……ストーリーをそこまで無視して進むストーリーがあるだなんて……」
「これを見てって。ちょっと、ナタリーン?」
「うーん、何が何だかチンプンカンプン……」
「ちょっとナタリーン!?」
余程予想外な事が起きてるみたいで、ナタリーンは混乱しているみたいだ。
「はああ……仕方無い。母さん秘伝の、えい」
きゅっ
「はあああああん! な、何すんだよ!」
やれやれ、やっと戻ってきたわ。
「だから、アンチテーゼの召喚獣を見てって」
「な、何なんだよ…………………………へ?」
「わかった? これ、絶対に変だよね?」
「そ、そんな星六、見た事無い……いや、居る訳無い……」
そう。アンチテーゼさんの召喚獣は、何故か「森の女王サーシャ・マーシャ」となっているのだ。間違い無くあのマーシャンさんだ。
「あり得ない! あり得ないったらあり得ない!」
「ナタリーン、落ち着いて、どうどう」
「ま、まさかとは思うけど、クラ子の召喚獣も普通と違ったりしないよね!?」
「ごめん、普通は何なの?」
「炎天のフレアドラゴンだよ!」
「え……………………ち、違う。深緑のリーフっていう、人型の魔術士系」
「ひ、人型!? しかも聞いた事が無い召喚獣!?」
やっぱりこれも普通じゃないのね。
「って事は、私の召喚獣ってやっぱり母さん絡みみたいね」
「ああ、そう言えばそうだよ! 鉄クズのサーチ、ネットでも話題になってたよ!」
へ? ネットで?
「他のプレイヤーと対戦してるんでしょ? 星一なのに滅茶苦茶強いって上がってた」
はあ?
「対戦なんてできるの?」
「…………へ?」
ナタリーンが私の対戦記録を調べてくれた。
「……十八勝全勝……」
「しかも対戦時間、私が仕事してる間だよね……」
今の発掘現場は遠いから、家に戻る暇も無い。
「つまり、私以外の誰かが操作してる……?」
「コーミ、コンピュータに侵入された形跡は?」
「……無い。セキュリティソフトも普通に動いてるし」
「うーん……最新だよね、そのセキュリティソフト」
当然。
「なら……まさかだけどさ……」
「うん、私も同じ事を考えたと思う」
ひと息おいて、二人同時に。
「「このキャラクターが勝手に動いてる」」
って、やっぱり同じ事考えてたんだ。
「やっぱりあり得ると思う?」
「だって、母さんだし」
「だよね、サーチならストーリーなんて一切無視するだろうし」
「だよね、母さんなら星の差関係無しでボコるだろうし」
母さん、今度は何に巻き込まれたのよ。