play34 旅人のサーチ!
こうして、ソーコとリーフが無事に学校代表となり、いよいよ世界一魔術会に出場するために出発することになった。
「ふぇぇ!? 私が学校代表!? ふぇぇ!?」
「ソーコ、まだ覚悟できてないんですか!?」
相変わらずふぇふぇな召喚主が心配らしく、送還されずに四六時中付きっきりなリーフ。ここまでくるとどっちが立場が上かわかんない。
「ちょっと、荷造りは終わったの?」
「え? あ、はい。全てアン様の馬車に詰め込みました」
そうそう、一緒に行くのはリーフ達だけではない。
「何故わたくしの華麗な馬車に、下賤な下級生の荷物を載せなくてはならないんですの!?」
「これこれ、アンや。そのような事を言うておると……」
「っ!? ちょ、ちょっと待ちなさい! わたくし、まだしなくてはならない事が!」
「妾もヤらればならぬ事があっての。召喚主ならば我が欲望に付き合うがよい」
「き、昨日の夜も無理矢理……あああああれえええええ!」
ギィ……バタン
……馬車の中に連れ込まれたアンチテーゼさんは、ナニかされているようである。完全防音らしくて中の音は聞こえないけど……。
「サーチさん? あの馬車、無音で揺れてるけど、何で?」
ちょうど戻ってきたソース子が不思議そうに聞いてきたけど……知りたいんなら覗いてみれば? 巻き込まれても知らないけど。
ガチャ
「ふう、スッキリじゃ」
艶々なマーシャンが馬車から出てくると、扉からグッタリしているアンチテーゼさんの美脚が見えていた。なむー。
「ていうか、ちょうどいいわ。マーシャン、ちょっと付き合ってくんない?」
「む? サーチもムラムラしたかえおごふぁい!?」
違うわよ!
「ちょっと証人になってほしいのよ。ソース子とソーコも来て!」
「はい?」
「ふぇい?」
「では、旅立つ前に、二人の召喚術士ネームについて議論したいと思います」
急にホワイトボードを持ち出した私を見て、目を白黒される四人。
「な、何なの、サーチさん?」
「召喚術士ネームって、誰のですか?」
「ソース子とソーコに決まってるじゃない。あんた達、何か呼び方が似ててめんどいのよ」
「ああ、それで妾が証人に、という訳かの」
「「……?」」
ハテナだらけの二人。ま、そりゃそうだわね。
「本名は流石にムリだけど、召喚術士ネームは第三者の証人つきで届け出れば、変更が可能なのよ」
「ふぇ、そうなんですか!?」
「し、知らなかった……」
やっぱり知らなかったんだ。
「な、何でサーチさんがそんな事を知ってるのよ?」
「あんたの部屋にあった本に、バッチリ書いてあったけど?」
……明後日の方向を向くソース子。ていうか、妙にキレイな本ばっかだとは思ってたけど、全然読んでないな。
「で……だけど、お互いに自分の召喚術士ネームは気に入ってるの?」
「気に入ってたら周りに本名で呼ばせない」
「ふぇぇぇぇん!」
……まあ……ソース子に倉庫三号じゃね……。
「なら、希望の名前はある?」
「希望の名前? そうねぇ……」
「ふぇぇ……」
……ないのかな。
「なら、ソース子はソース子のままで」
「絶っ対嫌」
「……なら、さっさと決めなさい」
「召喚主様、倉庫三号のままでいいですか?」
「ふぇぇぇぇん!」
「嫌なら早く決めましょう」
ウンウン悩むソース子が、不意に口を開く。
「ねえ、証人さえ居ればいつでも改名できるなら、そんなに急がなくていいんじゃない?」
「あのね、さっきも言った通り、証人と一緒に届け出なくちゃならないのよ」
「……あ、そういう事ですか。サーチお姉様は旅立つ前に改名すべき、と言いたいのですね」
「そういうこと」
「え、えっと?」
「あのね、届け出なくちゃならないってことは、届け出る相手がいるってことでしょうが」
「…………あ、役場に」
「そう。一度旅立っちゃうと当分の間は改名なんてできないんだから、今のうちにって言ってるの」
「ふぇ、なら魔術会が終わってからでも……」
「出場者は名前が帳簿に登録されるわよ。ちゃんと召喚術士ネームでね」
ヘタしたら「優勝者・倉庫三号」なんて可能性もあるのだ。
「ふぇぇ! へ、変更します!」
「わ、私も!」
必死に考えぬいた二人は。
「わ、私は本名を召喚術士ネームとして登録するわ」
「ふぇ、倉庫の読み方を変えてクラ子にします」
…………まあ、本人がそれでいいって言ってるんだから、何も言わない方がいいか。
「はいはい、それじゃ申請するわよー」
船に乗る前に役場に寄り、改名届を提出する。
「えっと、マ…………あー…………倉庫三号様、お待たせしました」
「ふぇぇ!?」
「召喚主様、耐えて下さい」
ああ、そういえばソーコの本名はアレなんだったわね。
「マ……倉庫三号様の召喚術士ネーム変更、承りました。倉庫三号様は本日を以てクラ子となります」
「ふぇぇ!!」
「良かったですね、召喚主様」
その「ふぇぇ!!」は歓喜の「ふぇぇ!!」なのね。
「続きまして、コーミ様、お待たせしました」
「さあ、いよいよソース子とサヨナラよ」
うーん、娘と同じ名前ってのは複雑だけど……まあいいか。
「大変申し訳ありませんが、本名と召喚術士ネームを同じものには出来ません」
「へ?」
「そのように法律で決まっておりますので」
「えええっ!?」
へー、そうなんだ。それは本には書いてなかったけど。
「昨日施行されまして」
タイムリーに施行されたな!
「え、な、なら、うーんと」
再び悩み始めるソース子。
だが。
「もう船の時間じゃぞ。急げよ」
むうう、仕方ない。
「ソース子、行くわよ。もう間に合わない」
「そ、そんな! ソース子とはおさらばできないの!?」
「恨むんなら昨日施行された法律を恨むのね」
「何で、何で、たった一日の事なのにいいいいい!!」
もしかしたら「世界一魔術会優勝者・ソース子」として、永遠に記録されるかもしんない。