第十三話 ていうか、こんなのありですか!?
「結局二回戦に進出した私達以外の冒険者は、全員棄権か……」
次の日に貼り出された「大会本部からのお知らせ」には、こう書いてあった。
『帝国貴族の威光に恐れを抱いた三人の冒険者は、棄権というある意味賢明な選択をした。それでもまだ三人の無知で野蛮な冒険者が残っている。この者達が傷つき倒れる姿を、我々は目の当たりにすることになるだろう』
……どこからこの自信が出てくるのやら。普通ならここまでバカにされて黙っている冒険者はいない。でも文句の一つもないってことは……よっぽどお金を積まれたか、命の危険を感じるほどに脅されたか。
「ギルドに頼れない地域って……やっぱり不便なのよね……」
ギルドの力が強ければ、こんなことは横行しないだろうし。
そして、私達は今までで最悪で最低でサル以下の戦いを経験させられることになる。
「二回戦出場の選手の皆さんはお集まりくださーい」
係員の声が聞こえてきた。なんだろう。
「あの〜……」
「あ、あなた達は……冒険者の?」
「はいそうです……うわっと!?」
突然に物陰に連れ込まれた。
「ここなら誰もいないな……待て待て待て! お前さんに何もする気はないよ!」
短剣を向けられた係員は即座に降参した。
「……はあ、このオレがこんな短時間で無力化されるなんて……あんた、いい腕してるな」
「私はあんたとおしゃべりしてるヒマはないの。用件は何?」
「悪いことは言わん。すぐに大会を辞退して帝都から去れ」
何だ。また貴族の説得か。
「はあ……何回も何回も同じこと言わせないでよね。私達はあんたら貴族のいうことに従うつもりは……」
「待て。オレは貴族側じゃない。裏ギルドの人間だ」
裏ギルドの?
「……どういうことよ」
「貴族の子息達はお前らを集団で罠にかけるつもりだぞ」
罠ですって!?
「……つまり……大会の運営に口出しして、悪巧みしてると?」
「ああ。あいつらは大会の棄権者が出たことを利用して、バトルロイヤルを計画している」
「バトルロイヤルを?」
「三人の棄権が出た段階で残り十三人。これを四、四、五の人数でグループ分けして、それぞれのグループ内でバトルロイヤルをする」
……読めた。
「要はこのグループに私達が一人ずつ分けられる。あとはグループごとで私達を集中的に痛めつけて……」
たぶん私達に手を出すつもりね。
「しかも各グループの戦いは、魔術の結界の中で行うそうだ」
「魔術の結界ねえ……当然、不可視の結界?」
「防音も付いてくるだろうな。何をするつもりか見え見えだな」
それなら多少ハメを外しても大丈夫なわけか。ほんっとにクズね。
「まあいいわ。全員叩き潰せばいいんでしょ」
「そういう訳にいかねえから厄介なんだよ」
「何でよ!」
「お前らが貴族を潰したら、トーナメントが成立しなくなるだろ! だいたいそんなことすれば、適当な理由をつけて失格……がオチだな」
「う……」
「だから早いうちに辞退をしたほうが」
「それはムリ」
「何でそこまで…」
「友達のためなの。忠告はすごくありがたいんだけど、やっぱり私は退くことはできない」
係員の男は言ってもムダだと悟ったのか、しばらく天を仰いでから。
「……もし乱暴されそうになったら逃げるんだぞ。友達も大事だろうが、自分の尊厳も大切にしろよ」
……ありがとう。
知らない人だけど……心配してくれる人がいるのはありがたいものだ。
係員に案内される間に、エイミアとリジーにバトルロイヤルのことを説明した。
「……貴族って皆こんなのばかりなの」
「私も元貴族ですけど……貴族だった過去が恥ずかしく感じます」
エイミアもたまに、スゴーく恥ずかしいことするけどね。
「………」
エイミアが無言で睨んできた。結構怖いので今度から気をつけます。
「私は退くつもりはないわ。エイミアとリジーはどうする?」
「私は私自身の問題ですから……逃げるなんてできません」
「魔王様秘蔵の呪われアイテム〜♪」
リジーも戦うか。
どうせ、こうなるとは思ってたけどね。
「二人とも。万が一の場合は……わかってるわね? 全員殺してでも逃げなさい」
二人は真剣な顔で頷いた。
『それではお待たせ致しました! 先程説明させていただきました通り、辞退する選手が続出した為、大会規定に基づいてバトルロイヤルを行います!』
そんな規定があるか!
『バトルロイヤルの組み合わせは、抽選によって組分けされています』
「抽選!? 私、何にもしてないわよ?」
「私もです」
「同じく」
貴族が自分達の都合で勝手に組分けしたに決まってるじゃない!
『それではグループ別に分かれてください』
私は…五人のグループね。
『四人のグループでは一人、五人のグループでは三人脱落します』
……ん? 何かおかしくないかい?
「何でサーチ達のグループだけ、脱落人数が多いんですか?」
エイミアが司会者に食ってかかってる。
『私に言われましても……もう決まったことですので、覆すこともできませんよ?』
司会者はニタニタしながらエイミアに答えた。あいつムカつくわね…!
「……仕方ないわ。今は退きましょう」
「……く……わかりました…」
『ふん……どうやら異論はないようですので、バトルロイヤルを開始します! 各自、指定された陣の中へお入りください!』
私達は頷きあってから、それぞれの場所へ進んだ。
「……へえ〜、こいつが?」
「ああ。最近竜殺しを達成した連中だよ」
「どうせ偶然だろ? こんなふざけた格好した女が、ドラゴンを殺せるわけがない」
「あれじゃね? ドラゴンの死体を発見しただけとか」
「あり得るな、それ」
私が陣に入った途端に私を罵りだす貴族達。どうやら防音結界はすでに発動してるみたいね。
ならいいか。
「貴族の御子息ですから、どれだけ素敵な方々かと思っていましたが……」
わざとらしくため息を吐いて。
「……過度な期待はご負担でしたわね」
………空気が変わったわね。流石に本戦に出場するだけあって、腕はそこそこみたいね。
「雑草ごときが生意気な……」
槍を構えた貴族の子息がなかなか鋭い一撃を繰り出す。
けど、寸前で避ける。
「……素早いな。全員で囲むぞ」
「「「おう!」」」
それぞれが武器を手に、私を囲む。
「こんなに堂々と卑怯な手を使うのですか、帝国貴族は?」
一応挑発を続ける。
が。
「知られる事が無ければ何の問題もない。この陣の中は不可視の結界によって、外部からは何も見えないのでね」
あ、やっぱり?
「……散々貴族の誇りを傷つけたお前は、絶対に許さない。この結界の中で、僕達に慰み者にされるんだ」
つい胸を抱くような仕草をしてしまう。ただ寒気がしただけなんだけどね……ほら、ゴキブリ見たときみたいなやつ。
「偉大な帝国貴族に相手してもらえるんだ。光栄だろ?」
…………はあ。もういいか。
「わかったわかった。ちゃんと相手してあげるわよ」
普通に考えたら、複数の敵に囲まれた私に勝ち目はないだろう。
けど、私は負けることはあり得ない。
だって、こいつらは。
「行くぞ! ……な、何だこれは!?」
「ど、どうなってるんだ!!」
「何故だ! 何故なんだ!!」
「うわあああ! 止めてくれえええ!!」
最初から私の「領域」に入っていたんだから。
『何が……どうなったんだ?』
ムカつく司会者が司会者らしくない言葉を吐いた。
「エイミア、リジー!」
良かった。二人とも無事みたいだ。
「エイミア達はどうやって対処したの?」
「私は始まってすぐに、襲いかかってきた貴族に≪滅殺≫スキルを使っちゃって……」
……ああ、地面にめり込んでるアレね。
「あとの二人は≪蓄電池≫で脅して乗りきりました」
次はリジーね。
「私の場合は三人一緒に襲ってきた」
マジっすか。
「とりあえず一人ぶっ飛ばしてから、残りは≪驚愕の手≫で押さえつけて時間潰した」
それぞれの方法で乗り切ったか。
「それにしても……サーチは何をしたの?」
私と一緒にいた四人の貴族。三人は泡を吹いて地面に横たわり、一人は……一応無傷だけど……口をパクパクさせたまま虚空を見ている。
「ねえ、あのボーッとしてる貴族……髪の毛白かった?」
さあ? よっぽど怖い目にあったんじゃない?