play23 見学のサーチ。
全ての準備が整い、ついに明日が出発となりました。
「それではこれより、我が校の代表を決める選考会を開催致します」
校長の開会宣言に、見に来ていた親達が拍手をする。
「いよいよ代表が決まるのね……ていうか、マジでどうでもいいけど」
ホントならさっさと寮に戻り、明日からの長旅に備えて早めに寝ておきたかったのだが。
「全校生徒は必ず観ていきなさいって、別に見たくないわよ」
「サーチさん、そう言わずに。他の召喚術士の戦いを観るのも、勉強になるかもしれないじゃない」
えー……。
「……だったら無理矢理にでも。絶対命令、大人しく観てなさい」
ぐっ! こ、こういうときばっか、絶対命令権使いやがって!
「……ほら、観てなさい。これから行われるのが、召喚術士本来の戦い方だから」
……は?
「召喚術士の本来の戦い方って」
「では第一回戦を開始します。両者、口上の準備を」
…………口上?
「我は学びの舎において、召喚術の何たるかを学びし者也。名はハウゼン、召喚術士としての名は召喚太郎」
「ぶふっ!?」
何やねん、召喚太郎って!?
「召喚太郎の名において、契約せし召喚獣、現れよ!」
ヴウ……ン
「……キシャアアアアアア!!」
白い……ヤマネコ?
「出たわね、我が校最強の召喚術士・召喚太郎の相棒」
「ま、待って、待って。召喚太郎って呼ぶのは止めて」
「へ?」
名前だけで腹痛い。わ、笑える。
「お願いだから、名前で呼んであげて」
「えっと……ハウゼン先輩って言えばいいの?」
「そうそう」
「わ、わかったわ。で、我が校最強の召喚術士・ハウゼン先輩の相棒が、白銀のダンディライオン」
ちょっと待て。いろいろつっこみどころが多いな。
「ダ、ダンディライオン? ダンデライオンじゃなくて?」
「ダンデライオンはタンポポでしょ? あれは北の大陸の支配者と言われる、ダンディライオンのオスね」
北の大陸の支配者がダンディライオンなの!?
「白いのは雪の色と同化する為ね」
しょ、召喚太郎のダンディライオン…………わ、笑わずに最後まで見れるかな。
「我は召喚術の学び舎において、研鑽を積む者なり。名はケアリア、召喚術士としての名は有明」
ゆうめい、ね。ま、召喚太郎よりは全然マシだわ。
「我が手足となりて正義の刃をかざす者よ、有明の名において顕現せよ!」
ヴウ……ン
「ガアアアアアアッ!」
「い、いきなり決勝戦みたいな組み合わせですね」
「ふうん……で、あの召喚獣は?」
「あれは有明先輩の故郷の特産品、海苔です」
…………は?
「海苔?」
「海苔です」
た、確かに、全身がワカメみたいな外見だけれども。
「海苔が『ガアアアアアアッ!』とか吠えたり、自分で動いたりするの?」
「あの召喚獣は海苔の栽培をしている人達の想いが結晶となった、最強の海藻類です」
最強の海藻類って……他にもいるの、海藻の召喚獣?
「両者、礼!」
召喚太郎……もといハウゼンと有明が頭を下げる。
「校長先生に礼!」
うん、礼儀正しいね。
「保護者代表に礼!」
うんうん、ホントに礼儀正しいね。
「教頭先生に礼!」
うんうん。
「担任に礼!」
はいはい。
「上級生に礼!」
……ん?
「同級生に礼!」
いやいや、もういいだろ。
「下級生に礼!」
ちょっと、いつまでやるのよ。
「来年の新入生に礼!」
いや、この場にいませんから。
「召喚獣の神に礼!」
神様、下級生のあとかよ!
「その他諸々にまとめて礼!」
神様の次がその他もろもろかよ!
「では始め!」
や、やっとか。やっとバトるのか。
「では先手、召喚太郎選手!」
……先手?
「我と契約せし北の勇・ダンディライオンよ! その力を示せ!」
「キシャアアアアアア!」
トテトテトテ
……ピタ
海藻の前で止まった。ていうか、何で海藻は攻撃しないのよ。
「食らえ! 『白銀の爪々々』!」
ザクザクザクザク!
「ガアアアアッ!?」
海藻、ただただダンディライオンに引っ掻かれ続ける。
「っ…………た、耐えた! 耐えきったぞ!」
「凄いぞ、あの召喚獣! ダンディライオンのフェイバリットを耐えきりやがった!」
耐えきったって、単なる引っ掻く攻撃よね、あれ。
「耐えた海苔も凄いけど、ハウゼン先輩のダンディライオン、ますます強くなったわね」
「強くなった!? あれで強くなった!?」
「え、だって、凄いじゃないのよ。あのフェイバリットさ」
フェイバリットって、あの引っ掻く攻撃?
「パワーアップしてるよ」
あれで!? どこが!?
「だって、あの『白銀の爪』、語尾に『々々』が付いてたじゃない」
そ、そうね。
「連続攻撃に進化したのよ」
ただ連続で引っ掻いただけで、フェイバリットパワーアップなのかよ!
「……ッ……ガアア……」
ズズゥン
「ああ、海苔が!」
ん? 海藻が突然倒れた?
「……勝者、召喚太郎!」
わああああああああああ!
…………はい?
「い、今の、勝敗決まったの?」
「うん。ハウゼン先輩の辛勝ね」
辛勝!?
「待って待って。勝敗決まった意味がわかんない!」
「え? だって、ダンディライオンのフェイバリットを、海苔が耐えられなかったのよ? 少しの間でも立っていられたんだから大したもんだわ」
「それが意味わかんない! 何でダンディライオンがいきなりフェイバリット出して、海苔が黙って受けるのよ!?」
「いや、それが召喚術の戦いだから」
はいい!?
「あのね、サーチさん。開始早々のフェイバリットを避けちゃったの、本来ならあり得ないんだから」
へ?
「召喚獣の戦いは、フェイバリットを撃ち合って、どちらが先に倒れるか、なのよ」
…………言われてみれば、私と戦ってきた召喚獣達、みんないきなりフェイバリット出してたな。
「……つまり、私の戦い方は邪道なのね?」
「い、今まで気が付いてなかったの!?」
……頭痛くなってきた。
「ていうか、フェイバリット撃つ順番はどうやって決めるの?」
「先輩が優先かな」
圧倒的に先輩有利じゃないのよ! 何なのよ、この意味なしバトル!?