play17 節約のサーチ。
「……お金がない」
「何よ、ちゃんとお小遣いあげてるでしょ」
最近タメ口になってきた生意気ソース子がそう言う。ていうか、ホントにお小遣いだ。今どきの小学生でももうちょい貰ってるだろ、って思えるくらいにお小遣いだ。
「……あんた、ちゃんと家計ってわかってる?」
「わかってるわよ。ちゃんと家計簿だって書いてるんだから……ほら」
そう言って見せられた可愛らしい表紙のノートには、確かに「かけーぼ」と書かれていた。ていうか、漢字で書けよ。
「どれ……」
パラ……
ザッとではあるけど、目を通す。
「へえ……項目別にわけて書いてるのね」
「当然です」
「へえ……一応全部のレシートも貼ってあるのね」
「当然です」
……だけど、ほぼギリギリの状態が続いてる。ていうか、たまに赤字にも陥ってる。
「確かに家計簿はよく書けてるけど、キレイに書くことに終始してるわね」
「それ以外に何があるんです?」
思わず頭を抱え込んだ私は、気になるページを見せつつ説明した。
「このページのここ。こんなのに高い金使う必要はないでしょ?」
「え、だってここにしか売ってないから」
「……ソース子、チラシ見てる?」
近くの大型店が発行してるチラシには、学園内の店と比べて半分くらいの値段が表記されていた。
「これ、ちょっと移動するだけで、この値段で買えたんだよ?」
「え゛」
「他にも、これ、これ、これ」
その月の買い物だけでも、安いモノを選んでいけば二割くらいは削減できる。
「もっと安いブランドのを選べばもっと低減できるわよ。ま、今回はソース子のこだわりを優先したけど」
「べ、別にこだわりは無いけど」
「なら、これとこれはさらに安くなるわね。あとは光熱費」
一応魔力可動式だけど、自分一人の魔力で補えるモノじゃない。だからプロパンガスみたいに、光熱用魔力というのが魔力ボンベで設置されている。
「その使用料がバカになんないわね。あとは水道代も」
「だ、だってお風呂に水は必須だし、沸かすには光熱用魔力は絶対に要るでしょ!?」
それはわかる。お風呂は必須だ。
「だけどさ、シャワーの使用を抑えるとかさ、早めに入浴済ませちゃうとかさ、いろいろと節約方法はあるのよ?」
「それ、私だけじゃなくてふぁんてぃにも」
「すでに言ってあります。もう実践して一週間、着々と成果をあげてますよ?」
「う……」
私の進言を聞き入れたふぁんてぃは、お風呂に関しては寮の大浴場を利用するようにしたのだ。各部屋の光熱費と水道代は個人負担だけど、大浴場は無料。どちらが安くなるかは一目瞭然だ。
「だ、大浴場……」
思わず胸を押さえるソース子。どうやら控えめなのを気にしてるようで。
「ていうか、そんなのは慣れよ、慣れ」
「っ…………お、おっきいの持ってる人にはわかんないわよ!」
…………おっきいの、おっきいの、おっきいの…………。
「もう一回言って」
「は?」
「だから、もう一回言ってっての」
「えっと、おっきいの持ってる人にはわかんないわよ……って?」
…………おっきいの、おっきいの、おっきいの…………。
「もう一回言って」
「あ、あのぉ……?」
「何回でも言って。着信音にしたい。毎日言われたい」
「サ、サーチさん……?」
いかん、妄想がバクハツしてしまった。
「おほんっ! とにかくソース子、質素倹約は学業に勤しむ者には必須なのよ」
「そう……なのかなぁ」
「そうなの。だからさ、一週間でいいから、私の指示通りに買い物してよ」
考え込むソース子。ていうか、結果的に損はないんだから、乗らないはずはない。
「……おっかしいなぁ……普通なら『是非っ』って言えるはずなのに、サーチさんの下心が見え見えで『是非っ』って言えない」
た、確かにお小遣い増額を求めたいって下心は否定しないが。
「今後の人生を考えたら、やらないよりはやった方が絶対にいい。それは私が保証するわ」
なんてったって人生一度経験済みですから。
「ん~…………わかった、わかったよ。やってみるよ、サーチさん」
よーし、(都合の)いい子だ。
「あれ? 何か急にやりたくなくなってきた……? やっぱりサーチさんの下心が強すぎる?」
す、鋭いわね。
その日からソース子は私の指導の元、節約に努めるようになった。
「あ、このお肉安いよ」
『ダメ。そんな量を買ったって食べきれないし、冷凍保存できるほど冷凍庫も広くないんだから』
「う……わ、わかった。こっちの量の少ないのにする」
「あ、お水が安いよ」
『蛇口からいっぱい出るのに、わざわざ水を買うの?』
「水道水と飲料水は別物だよ」
『あらそう。なら容量の小さいのじゃなく、向こうの大きいのにしなさい』
「ええ!? 重いじゃん」
『私が手伝ってあげるわよ。何のための召喚獣よ』
「あ、そうだった」
「せ、洗剤、こんな高いの買うの?」
『安いの買ってじゃんじゃん使うより、高いのを少量。その方が環境にも財布にも優しいのよ』
「ふーん、そんなもんかぁ」
……で、一週間後。
「……はい、結果は?」
「う、嘘……四割も削減できてる……」
「ま、言い方変えれば、いかにムダ使いが多かったかってことよね」
「う……あ、ありがとう、サーチさん」
「うんうん…………でさ、ものは相談なんだけど♪」
「お小遣いの増額?」
「うん、それもなんだけど、もう一つ♪」
「え?」
ざばああ
「ふはぁ、最っ高!」
「……まさか召喚獣がお風呂に入りに来るなんて……」
一緒に入りに来たふぁんてぃが呟く。そう、私の目的は、大浴場の使用許可だったのだ。
「ソース子が学園に掛け合ってくれたおかげよ」
流石に召喚獣が単独で大浴場を使用するのは、無断ではマズいと思ってたのだ。だから許可が出たのはマジで嬉しい。
「毎日入りに来るぞ~、ふう」
そのうちソース子も絶対に連れてくるんだから。