play8 授業のサーチ。
「…………」
ザワザワ……ザワザワ……
『見られてる見られてる。美少女はツラいわね~』
「……っ……そういう問題じゃありませんっ!」
ざわっ
あ。急に大声をあげるもんだから、さらに注目の的に。
「あ、あわわわ……な、何でもありません! 何でもありません!」
…………………………ザワザワ……
しばらくシ~~ン……となっていたけど、再び周りがざわめき出す。でもそれは、ソース子から半径5m以上離れた状態でのことだった。
『あ~あ、さらに遠巻きにされちゃって』
「だ、誰のせいで……!」
『あ、直接声に出したくないんなら、しばらくは黙ってた方がいいと思うわよ?』
「……く……!」
ホントは心の中で強く思ったことも聞こえるらしいから、それを応用すれば声を出さずに会話できるんだけど。
『……ま、しばらく遊んでもいいか』
私の言葉にピクリと反応しつつも、ソース子は無言で歩き続けた。
キーンコーン……
……学校のチャイムって、どこの世界でも共通なのかしら。ギルド養成学校でもこのチャイムだったし。
「授業始めるぞ~」
お、新たな召喚ティーチャー確認。おひげが似合うダンディオジサマだ。
「起立!」
ザッ!
「礼!」
サッ!
「着席!」
ザザッ!
……スゲえ。一糸乱れぬ動き。
「……ど、どした? いつもはダラダラなのに……」
ありゃ? ダンディティーチャーまでビックリしてるぞ?
「え、だって……」
「今日の号令はコーミだし……」
「……あ~……成程、な……。コーミ、お前昨日ハヤトの兄ちゃんをぶっ飛ばしたって?」
「な……ち、違います! あれはサーチさんが……いや、私の召喚獣が勝手に……!」
「……召喚獣が勝手に動くなんて、聞いた事が無いが……」
「で、でも現に! 私が気絶してるなか、勝手に!」
あ、ヤバい展開。これって私を呼び出して、公開質問しようとか言い出すんじゃないわよね?
「ふむ……お前がそう言うのなら、召喚獣に直接聞いてみればいいな」
やっぱりぃぃ!?
「ちょうどいい。今日の授業は『召喚獣に対する絶対命令権』に関する講義だったからな」
……はい?
『な、何よ、その絶対命令権って』
どっかの運命の、命令的な三つの呪いみたいな?
「よし、コーミ。お前の召喚獣を出しなさい」
マ、マズいマズい! 雰囲気的に、気軽に出れるもんじゃ……!
「わかりました! 出でよ鉄クズのサーチ!」
ま、待っ……せ、せめて格好だけは……!
パアアア……!
よし、何とか跪いて登場するのはできた!
「……お呼びでございますか、マスター」
おお~!
結構サマになってたみたいで、教室内で歓声があがる。
「ほう……戦士系だとは聞いていたが、ちゃんと魔力を纏っているじゃないか」
「……っ……」
私の登場姿が予想外だったのか、口をパクパクさせたまま固まるソース子。
「おい? コーミ?」
「え、あ、へ!?」
「だから、戦士系の割には、ちゃんと魔力を纏っているなって」
「は、はひ!? ま、魔力魔力…………ああ!? ホントに魔力を纏ってるぅぅ!?」
おい。今ごろ気づいたのかよ。
「ななな何で魔力を!? 魔力が!?」
「マスター、落ち着いてください。私のフェイバリットを考えれば、魔力を纏っていて当然でしょう?」
「フェイバリット!? はうはうはう」
ダメだこりゃ。
「……コーミとは会話できないな。鉄クズのサーチだったか、その辺りはどういう事なんだ?」
よし、準備していた問答を発動。
「お答えしかねます」
「何?」
「マスターの許可なくして、直答はしかねます」
「ほう……随分と忠誠心溢れる召喚獣だな」
「あ、あうあうあう」
よし、このまま受け答えできない状況にしたまま。
「マスターの許可がない以上、このまま私が留まるのは魔力のムダ。失礼させていただきます」
この流れで颯爽と逃げちゃえば、このまま誤魔化せる……。
「待て」
ちぃ! 余計なこと言うな、ダンディオッサンが!
「何ですか?」
「ちょうどいい、ここで授業内容を実践させてもらおう……『ここに留まれ』」
ふん、そんなこと言われたって、無視して帰るわよ。
ピタッ
あれ?
「う、動けない?」
「この通り。召喚獣への『絶対命令権』を使えるようになれば、これくらいならば他人の召喚獣にも影響は及ぼせる」
な、何ですってえ!?
「ただ、できるとしても足を止めるのが関の山だ。誰かを攻撃しろ、等のような具体的な命令には従わないので、そこは留意しておくように」
「「「はーい」」」
ひ、人を授業の実践に利用するなあ!
「で、コーミ。いい加減に落ち着いたか?」
「はわひわほわへわ」
「……まだみたいだな。で、鉄クズのサーチ、お前が魔力を纏っている理由は?」
……これ、答えなくちゃダメみたいね。抵抗がハンパない。
「……受け答えにまで影響があるのですか、その『絶対命令権』というモノは」
「お前がそう感じているのなら、影響があるのだろう。私には召喚獣の気持ちはわからないからな」
そりゃそうでしょうね。
「なら答えます。私が魔力を纏っている理由は、私には魔術士の才能もあったからです」
「魔術士の、か」
「はい。ですが素質は高くなかったため、補助的な役割程度の魔術しか覚えられませんでした」
「だから、戦士になったと?」
「厳密に言えばアサシンですが」
ウソは言ってない。私の唯一の魔術≪偽物≫は、補助的な要素が強いから。
「ならばフェイバリットはどういう事だ? 大量の鉄を放出する、と聞いたが」
あの兄弟から確認済みか。なら誤魔化せないわね。
「それは補助魔術の応用、としか答えられません」
「ふむ?」
「自分の戦い方のタネを明かすほど、私は大胆にはなれませんので」
「ふむ……道理だな」
……何とか誤魔化せた……かな?