第十一話 ていうか、私の初戦の相手は……?
「……わっかんないなあ〜……」
今日の第六試合を観戦しながら呟く。
「やっぱり変装してるのかな……でもアサシンっぽい動きするヤツ、いないなあ……」
「……何をブツブツ言ってるんだよ、キモいぞごぶはあっ!」
「キモいなんて言葉を気軽に使うんじゃない! で、何か用?」
「いてて……こ、この暴力女! モテないぞ!」
ニヤニヤしながら上段にある来賓席を指差す。そこにはガチガチに固まって周りの国賓の人達と会話する、ルーデルの姿があった。
「うっ……! と、ということは……サーチ、お前はルーデルが彼氏だと認めるんだな!?」
そう来ますか。
ルーデルを彼氏だとは認めないとわかってて、言ってきやがった……よし、このケンカ買った!
「彼氏か……彼氏なのかな?」
ちょーっと戸惑っているような話し方をすると、リルは勝ち誇ったかのようにニヤリと笑った。
「……結局、私とルーデルがしたことは一晩一緒だっただけだし……」
「え゛っ」
ウブなリルはあっという間に真っ赤になった。
「あら? 私はルーデルと一晩だけ一緒にいた、としか言ってないわよ。リルは私達がナニをしたと思ったのかしら〜」
うわあ〜……面白いくらいにリルが真っ赤に染まっていく!
「………い、いやあああああああっ!!」
リル、逃亡。
ふっ、勝った。
「二人して何をしてるんですか?」
「あら? エイミアは平気なの?」
「…………貴族っていろいろありますから」
……聞かない方が良さそうね。
「それで試合見て一喜一憂してましたけど、何があったんですか?」
「一喜一憂してるように見えてたんだ、私……」
気をつけよう。リルを笑えない。
「……出てるはずなんだけど……いないのよ」
「……“刃先”ですか?」
お? エイミアにしては鋭いわね。
「まあアサシンだから、変装して出場するくらいの芸当はわけないと思うんだけど……戦い方にアサシンの特徴が出てるヤツがいないのよね」
元アサシンの私が見てもわからないなんて……よほど隠すのがうまいのか、あるいは。
「……出場していないか」
「……それは無いんじゃ……」
「まあね。可能性があることを言ってるだけよ」
「でも……次の試合でもいなかった場合は……」
「そうなのよ。単純な消去法なんだけどね、そうなってきちゃうのよ」
……私が初戦から“刃先”と戦う可能性もあるのよね……。
「ほんっとに、ろくな大会じゃないわ……この闘武大会」
「……あれ? 闘技大会じゃないんですか?」
「あ、知らなかった? どっちでも大丈夫よ」
正式名前が「帝国格闘技演武大会」なのよ。だから略して「闘武大会」だったり「闘技大会」だったり。あるいは「格闘大会」だったりするのよね。まあ、どうでもいいんだけど。
第七試合も違った。
出てきた貴族は「よくそれで出場しようと思ったな……」てくらい弱かったし。相手の冒険者は私が知っている人だったので、絶対にあり得ない。
ていうか、結論として。
「私の対戦相手が“刃先”の可能性が高いか」
まだ確定ではない。だけど、最初から本気で行く。
『それでは、本日の最終試合を行いまーす!!』
今日から司会が女性に代わった。やっぱ苦情があったのかな?
『西ゲートより、冒険者のサーチさんの入場です!』
ジャジャジャジャーン♪
オーケストラの演奏が始まったけど……この曲って「人生の墓場」って曲よね?
『サーチさんはA級冒険者〝飛剣〟のヒルダさんのお弟子さんでいらっしゃいます!』
違うっ!!
『それにしても、目のやり場に困るほどのビキニアーマーは、何かの戦略なのか?』
単なる趣味です。
『サーチさんは……武器を携帯していないようですが? どのような戦いをするのか、非常に楽しみであります!』
うん、一般的で客観的な司会です。合格!
『さて、続きましては……』
……いよいよご登場か。
『本戦では唯一の冒険者同士の激突となります。東ゲートより……』
……ごくり。
『……ジョン・タナカ選手の入場……おや? サーチさんがずっこけましたが……どうかしたのでしょうか?』
おい! 何よ、その偽名の見本みたいな偽名は!
『覆面をつけての登場となります、ジョン・タナカ選手! 得意技は空中殺法との事です! どのような試合を魅せてくれるのか?』
完全にプロレスの覆面選手じゃない! 何? 何なの? これは“刃先”が私を混乱させるための罠なの?
『それでは、試合開始です……いざ、尋常に!』
今度は武士命なの?
『一本目……勝負!』
一本目とか二本目とかないでしょ!
「では……行くぞおっ!」
し、しまった! つっこみに熱中しちゃって、先手をとられちゃった……!
ドタドタドタドタ!
……んん?
「うおおおりゃあああ!!」
ぶうんっ
ひょい
「……?」
何よ、今の隙だらけのラリアットは?
「おのれ、まだまだ!」
ドタドタドタ!
「ドロップキーック!!」
「……」
ひょいっ
びたーん!
「ををを……」
ドロップキック自爆して、受け身もとらずに落下して背中を強打、それで悶絶中←今ここ。
「……こいつ……」
〝刃先〟じゃなくて……ただの阿呆?
「ぅぐ……はあはあ、な、ならば!」
もう一回走り出してジャンプ。
「くらえ! 必殺、ローリングヒップアタッーーク!!」
やっぱり単なるバカだ。
サッ ズドムッ!
「がはあっ!?」
『サーチさんが……避けて背中にカウンターのハイキックだー!』
≪偽物≫使う必要もないわね。
「く、くそお……ぎゃっ!」
ローリングソバット。
バキィ!
ローリングソバット。
バキィ!
で、ドロップキックで。
ドガァ!
吹っ飛ばす。
「がはっ……まだまだあ! くらえい!」
無造作な蹴りを掴んで、ドラゴンスクリュー!
グギィ!
「ぎいあああ! 膝が、膝がああ!」
倒れてる相手から少し離れて……ダッシュからのフラッシングエルボー!
ズムッ!
「ぐっふうあ!」
そして、止めの足四の字固め!
ギリギリギリギリ
「んっぎぃあああああ!! ギブ! ギブ! ギブアアアアップ!!」
かんかんかん……ってゴングは鳴らないけど、試合終了。
こうして私はプロレス技のみで一回戦を無事に突破した。
「……虚しい戦いだったわ」
あれだけ一日中警戒しまくって。
全試合、穴が空くほどの勢いでチェックし。
出てきたプロレスラーモドキにまで警戒していたってのに。
「……………ホンットに虚しい戦いだったわ」
誰かこのモヤモヤを解消させてください……。
「……いい動きだ。アサシンとしては相当な腕だな。だが……何かわからないものが混ざっている。どちらにしても……サーチだっか。君との戦いが楽しみだよ……おいで。辿り着いてごらん。この〝刃先〟のところまで」