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第九話 ていうか、エイミアが初戦で楽勝だった……はず。

『それでは本日の最終試合! 第八試合を行います!』


 あの攻撃魔術士同士の壮絶な自爆で会場が半壊し、別の会場に移されることになった。どうやらこの大会、魔術による(こういう)事故はよくあるらしく、予備の会場が準備されていたりする。ホコリまみれになった選手や観客のために、二時間ほど休憩時間を挟んでの試合再開だ。


「エイミア、しっかり! 落ち着いていけば勝てるわよ!」


「あれだけ魔術士対策は練ったんだ。大丈夫だよ」


「エイミア姉に勝つ方に銀貨三枚賭けた。勝って、絶対勝って」


「リジー……あんた、いつの間にエイミアに賭けてんのよ」


「ん? 本戦から。予選は賭けの対象外」


「そういうことを聞いてるんじゃなくて!」


「おい、リジー。サーチは仲間の試合にお金を賭けたりするのは良くないって言いたいんだよ」


「違うわよ! 教えてくれれば、リジーの試合にも賭けたのに!」


「そっちかよ!」


「あはは……いい感じで緊張が解れたので、私行きますね」


「おう! 頑張れよ!」


 背後でぎゃあぎゃあ言い争う私とリジーを尻目に、リルが送り出した。


「……どうだったかしら、エイミアは」


「ん、いい感じに緊張が解れたって言ってたぜ」


 そっか、なら良かった。


「演技とは思えない演技だったな」


「演技じゃないわよ。普段通りのことをしただけ」


 私とリルの会話を聞いて、リジーが目を見開いた。


「サーチ姉、演技だったの!?」


「……へ? あんた、本気で言ってたの? 私の意図を汲んで、演技に付き合ってくれてるのかと思ってたわ」


 そりゃあ迫真だったわけね。


「うー……何か損した気分。この怒りとも何とも言えない複雑な気持ちを何にぶつければ……」


「リル」


「わかった」


「え? 何でぐぼえっ!」


 リジーのやつあたり! きゅうしょにあたった!


「うぐぐ……何で私ばっか……ぐふっ!」


 いろんなネタを含みまくって、リルは倒れた。


「ごめん、リル……まさかホントに殴るとは思わなかった」


「え? 殴るのダメだった?」


「ま、いいんじゃない? リルの新しいキャラということで」


 殴られキャラなんてイヤだろうけど。


『まずは東ゲートよりエイミア・ドノヴァン()の入場です!』


 あ、エイミアの入場だ。やっぱり「様」になるのね……さすが一応(・・)貴族。


 ピロリ〜ピロピロピロ♪


 な、何なの、この気が抜けそうになる入場曲。


「いい選曲。エイミア姉にぴったりの曲」

「この曲がエイミアに? リジー、それって……間が抜けてるって言いたいの?」


「サーチ姉……それは酷いと思う」


「え、そうかしら?」


「私はエイミア姉がどんくさいとか、空気読まないとか、二の腕が太いなんて思ってない」


「リジーの方がよっぽどヒドいわよ!」


 ほら! エイミアが入場しながら、こっちを睨んでるじゃない!


「それにしても……エイミア」


 ゆっさゆっさ


 何で歩いて入場してるだけで、あんなに揺れるのよ……。


『な、な、何という事だああああ!! ここまで芸術的な揺れ(・・)が、今まできあっただろうかああああ!!』


 変にテンションあがるんじゃない!


『見てください! 観客の皆様が見入っています! 審判も見入っています!私も見入っています! そして……ああ! 皇帝陛下が身を乗り出しています!』


 観客も審判も司会も、ついでに皇帝もか! どうしようもないな!


『……おおっと、エイミア様が走り始めました! 胸を抱えて走っております』


 あんたが変なこと言ったから、エイミアが恥ずかしがってるんだよ! ていうか、エイミア走るな! さらに揺れるだけだよ!


『いやいや、実に眼福な入場でした』


 誰かあの司会を交代させろおおおおおお!



 で、相手の貴族はやたらと凝った入場だ。


『これはすごい! ファンネル子爵家の騎士団が勢揃いだー!』


 ムダにキラキラした騎士団の皆様が入場してくる道に並ぶ。で、オーケストラが最大に盛り上がってるタイミングで。


 どどおおん!


 なかなか派手な花火が炸裂して貴族の子息(ボンボン)登場。で、騎士団が一斉に捧げ銃をする。

 ん? 銃じゃないから捧げ剣になるのかな?

 まあ、どうでもいいか。


『な、な、なんという華麗な入場だー!』


 さっきまでエイミアの胸に鼻の下を伸ばしまくってたくせに、もう貴族のヨイショですか。


「あの司会の阿呆は一度シメてやらないとダメね」


「私も同意する。あとで〝首狩りマチェット〟の錆びにしてくる」


 そこまでしなくていい!


「適度でいいのよ、適度で」


「適度で? わかった。なら〝不殺の黒剣〟(アンチキル)で斬る」


「……まずは殺すとこから離れなさい……」


 リジーと漫才みたいな会話してる間に。


『ラウンードワーン、ファイト!』


 試合が開始された。ラウンド云々に関してはつっこむまい。


「我が家に伝わる秘伝の魔術をくらえ! 遥か天空より舞い降りし……」


 あー……前回の連中と同じパターンね。


「エイミアー! さっさと殺っちゃいなさーい!」


「そうですね。長々と詠唱聞くのも飽きちゃいましたし……えい!」


 ぱかんっ!


「がっ! うぅっ」


 ……バタ


 ………。


『あ? え、えーっと……審判さん?』


 審判に聞かなくても勝敗は明らかでしょ。


「……は、はい! すいません……この試合はエイミア・ドノヴァン選手の反則負け(・・・・)となります」


「………………へ?」


 はあああああああああっ!!?



 このあと、別の審判捕まえて詳しいことを聞いてみたんだけど……簡単に言うと。


「貴族様が一生懸命に魔術の詠唱をしているのに、庶民が妨害していいわけねーだろ! そんな無礼者は失格じゃボケェ!」


 ……ということです。

 どうやら過去に同じ手を使って勝ち進んだ冒険者がいたらしく、それ以来禁止事項としてルールブックにも掲載されているらしい。

 貴族全員バカだ。



 ただし。

 一、エイミアがルールを知らなかった。

 二、相手が全治半年くらいの重傷だった。

 三、エイミアのファンが爆発的に増えて反対運動が起きた。

 ……などというふざけた理由で、特例(・・)で一回戦突破となりました。一、二はともかく……三は明らかに……胸よね。


「良かったわね。胸のおかげで失格取り消しになって」


「嬉しくありません!! それより、こんなルールがある以上、貴族の攻撃魔術士に勝つのは難しいですね」


「そう思う?」


「え? 何か方法があるんですか?」


「……ナイショ」


「ええー! そんな、サーチ、教えてくださいよおおおお!!」


 今は言えないのよ。

 今は……ね。



「……ふん」


「おい、ドノヴァン。なぜ特例(・・)などという下らぬ手を使ってまで娘を勝たせたのだ?」


「それは娘を想う親心から」


「抜かせ。貴様が親心等と語るタマか?」


「ふん……エイミア(あれ)は我が家の威光を増す為の()だ。こんな初戦で負けてしまうようでは困るのだよ」


「まったく……親を名乗る資格が無いな、貴様は」


「貴殿に言われる筋合いは無いぞ……アプロース公爵」



 ……たく。

 こいつら、どうしようもないクズね。


「まさか隣があいつらの執務室だとは……」

「これって、盗聴してくれってことだよな?」

「うぅ~! やっぱり父さん嫌い!」

「……やっぱり帝国貴族、間抜けと思われ」

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