第八話 ていうか、バクバクガツガツ!
「鉄の足だ……」
鉄の足って言われれば確かにそうだけど。
「要はオート○イルよね、うん」
「はい?」
あ、何でもありません。
「つまりは自動義足、とでも言えばいいかな」
「……ナタリーンが着けていた腕のような?」
「そうそう、そんな感じよ」
「ならばサーチの足は機械化するのですね」
「そうなるわね…………あーあ、足が重くなっちゃうのかなあ」
片方重くなるってことは、身体のバランスが崩れてしまうってことだ。戦うにしても、身のこなしに悪影響が出るのは必至だ。
『おい』
「んあ? 何よ、モノズキ面」
『早く着けろ。微調整が出来ねえじゃねぇか』
「微調整?」
『その鉄の足はまだ調整前の段階だ。繋いで調整して初めて完成なんだよ』
「ふうん」
『だから早くしろっての。寝れねえじゃねぇか』
あーはいはい。
「ナイア、手伝って」
「勿論ですわ」
包帯を外し、ナイアが運んでくれたオー○メイル……じゃなくて鉄の足を千切れた箇所にあてがう。
『よし、いくぞ』
痛いのかな。痛いんだろうな。また痛くなっちゃうのかな。
ィィィィ……ずぞぞぞぞぞっ!
「うっわ、何よキモい気持ち悪い!」
鉄の足が私の身体から何かを吸い出しているような、ゾクゾクする感覚。
『身体の構成情報を集めているだけだ』
身体の構成情報?
『要は……ほれ……螺旋になってる……』
「あ、DNA?」
『ああ、それだ。デアキシリボ核酸。略すと確かにDNAだな』
何で難しい方の名前で覚えてるんだよ!
「それよりDNA採取するのに、こんなにいっぱい吸い出す必要あるわけ!?」
『いや、それ以上にエネルギーが必要なんだ。魔力と一緒に吸い出してるだろ』
エネルギー? どういうことよ?
「身体のエネルギーってことは……タンパク質とかカルシウムとかってこと?」
『そうだ。身体を構成する物質をあちこちから吸い集めている』
お、おい、それって。
「筋力が落ちたり骨が脆くなるってことじゃない!」
『なるべく悪影響が出ないように、身体の活動にはあまり関係無い部分から集中的に搾取してるから安心しろ』
………………待て。それってもしかして。
ガバッ
「あ……ああああああああああっ! やっぱりぃぃ!」
胸のサイズが明らかに小さくなってるぅぅ!
「バカモノズキ面! 止めろ! 止めてえ!」
『嫌なら必要なだけのエネルギーを採取しやがれ』
つ、つまり何か食えってか!
「ナイア、食べ物を!」
「はい?」
「何でもいいから早く早く! わ、私の胸がああ!」
「い、命に関わるんですの!? わかりましたわ、ありったけの食料を持ってきます!」
とりあえず自分の袋から干し肉を取り出してかじる。ナイア、早くしてえ!
ガツガツガツガツ!
「す、凄い」
「普段食が細いサーチお姉様が、こんなドカ食いするなんて……」
したくてしてるんじゃないわよ!
ガツガツガツガツガツガツ!
「足りない! おかわり!」
「はいはい」
よーし、胸のサイズが戻ってきたわ!
「ナイア、まだ食料に余裕はある!?」
私の袋の中はかなり空いてきている。
「はい……ワタクシは……まだ大丈夫ですわね」
「オッケー! ならあるだけ出して!」
「あ、あるだけですの!?」
「早く!」
「わ、わかりましたわ」
そう言ってナイアが出した食料は。
「ちょ、生肉ばっかじゃん!」
「今まではすぐに食べられるモノばかり出してましたから」
ちぃぃ、こうなったら。
「フレア、レアでいいから全部焼いて!」
「れ、れあ?」
「何でもいいから早く!」
胸が……! 胸が小さくなっちゃうぅぅ!
「わ、わかりました!」
ごぉぉぉ!
じゅうううぅぅ!
「いいわよいいわよ、どんどん焼いていって!」
「はい!」
「ナイアはどんどん出していって!」
「わかりましたわ」
ナイアが生肉を出し、フレアがそれを焼き、出来上がったのを私が平らげる。
バクバクバクバクガツガツガツガツ!
そんな構図も五分ほどで終了した。
「はい、これでワタクシの食料は尽きましたわ」
「え…………ウォ、ウォータ! ウォータは食料持ってない!?」
「あ、ある程度なら」
「ならありったけ出して!」
「え、あ、はい!」
私の勢いに押される形で、袋から次々と食料を……って、スウィーツばっかじゃん!
「まあいいや! 甘いデザートだろうが何だろうが!」
ガツガツガツガツガツガツガツガツ!
「わ、私の楽しみがぁ……!」
ウォータが涙目になってるけど、ここはスルー。
ガツガツガツガツ!
「サーチお姉様!」
「ムシャムシャ……何よ」
「貴重なスウィーツなんですから、もっと味わって食べて下さいよぉ!」
「知らん! 今はそれより大事なことがあるのよ!」
「そんなああ!」
悲嘆に暮れるウォータは放置して、最後のスウィーツに手を伸ばす。
「……ていうか、まだ足りないわね」
ジロッ
「ひうっ!? わ、私は何も無いです! ありません!」
「……どうなの、ウォータ?」
「嘘です! フレアはとっておきのドラゴン足を袋に入れてるはずです!」
「ウォータ!?」
ドラゴン足……豚足みたいなもんか。
「フレア」
「は、はひ!?」
「寄越しなさい」
「そ、そんなぁ! 私のお楽しみを」
がしぃ
「ウ、ウォータ!?」
「フレア、私達友達だよね?」
「そ、そうだよ」
「だったら、わかるよね?」
「う、ううぅ」
「私も、スウィーツ献上したよ?」
「うううぅ…………くっ」
フレアは泣く泣く袋に手を入れ。
「サーチお姉様、どうぞ」
ばっ
ガツガツバクバク!
「あ、あああ……」
「モグモグ、うん、美味いわ」
「あ、あぅぅ……」
フレアも悲嘆に暮れた。
ポロッ
ドラゴン足を食べ終えてしばらくすると、鉄の足が取れた。
「や、やった! 足が元に戻った!」
ていうか、普通の足だわ。鉄や機械じゃないわ。良かったぁ。
「良かったですわね」
「……良かったですね」
「良かった……ですね」
あ、あれ?
「リ、リアクションがイマイチなような……」
「……スウィーツ」
うっ!
「……ドラゴン足」
ううっ!
「ワタクシも、一言」
「え、ええ!? ナイアも!?」
「はい。食料無くなりました。どうしましょう」
……あ。