第八話 ていうか、エイミアが参考のために攻撃魔術士同士の戦いを観戦。
「リジー、ナイスファイトー!」
私のハイタッチにハイタッチで返すリジー。リルやエイミアもハイタッチの用意をしているが……。
「リジー、いい試合だったぜ」
ひょいっ
「む」
ハイタッチしようとした手を避けるリル。あ、悪い顔してるわ。
「ほらほら」
ひょいっ
「むー」
「おいおい当たってねーぞ」
ひょいひょいっ
「むー……むー! むー!」
「あっははは……おもしれー」
ひょいひょいひょいひょいひょいずどむっ!
「げはあっ!」
キレたリジーに、渾身の腹パンを食らって悶絶するリル。自業自得よ。
「え、えーと……リジー頑張りましたね!」
エイミアも構えて待っていたが……。
「むっきいいいっ!」
ばっっっしいいいぃぃぃんんんんっっ!!!
「んきゃあああああ!」
八つ当たり気味に振りかぶったリジーの会心のハイタッチが、エイミアの手のひらを捉えた。
「手がー! 手が手が手が手がー!!」
エイミアの手には痛恨の一撃だったらしく、二倍くらいに腫らした真っ赤な手に息を吹きかけていた。
「エイミア姉、ごめんなさい」
「もういいですよ。ふーふー…」
手に息を吹き掛けながらエイミアが笑った。半泣きなのが微笑ましい。
「サーチ……何か私の事で笑いそうになってるでしょ」
また超能力っすか。
「考えすぎよエイミア」
「そうですか? ん〜……」
お願いだから魔術の世界に≪超能力≫なんて新しい分野開拓しないでよ……。
「そうだ。エイミアは今日の最後よね?」
「そうです。十五番で第八試合ですよ」
ならちょうどいいわ。
「次の試合だけど、攻撃魔術士同士の対戦なのよ。エイミアの相手も攻撃魔術士だから、ちゃんと見て参考にしときなさいよ」
「へ? 参考に、ですか?」
何で今さら……って顔してるわね。
「エイミアさ、攻撃魔術士と戦ったことある?」
「……マーシャン」
あ、そういえば何回か、エイミアがお仕置きしてたわね。
「マーシャンは違う意味で別格なんだから、マーシャンを基準で考えちゃダメよ」
「違う意味って……」
「マーシャンはかなり特殊な攻撃魔術士だからってことよ。普通の攻撃魔術士なら≪弾≫系だけで戦うなんてことはしないからね。だからこそどう戦うのか、そういうとこをよく見ておきなさい」
かなり特殊なのは、変態過ぎるってことも含んでるけど。
「……へっくしょい!」
……? 最近風邪でもないのに、よくくしゃみが出るのう……。
「そうですね。マーシャンはレベルが高いですから、参考にはなりませんね」
「そう。だからよく見てなさいね……あ!」
リルのこと忘れてた。
「リル、大丈夫ー?」
「うう〜……連日腹パンされてるからダメージが蓄積されて……」
「悪かったわね」
意外とチクチクとうるさいわね、リルも。
「でも今日のリジーの一撃は、あんたが全面的に悪いと思うけど……」
「うっ! イタタタ」
リルはまた腹を押さえて踞った。ずいぶんと都合のいい腹痛ね……。
「ま、とりあえず昼ご飯でも買ってくる?」
「へ!? 試合を観るんじゃないんですか?」
「あの入場を最初から最後まで観たければどうぞ」
「……お昼食べます」
ああいう入場はキライじゃないけど……好きなレスラーでもないのにわざわざ観る必要はないわ……。
外の屋台でパンや肉を買って戻ると、ちょうどいい頃合いだった。
「入場が終わったとこみたいね」
ていうか、私達と同じタイミングで戻ってくる人が結構多い。
「……やっぱ観たくねえヤツ多いんだな」
「無駄に凝ってるのに、ここまで人気ないんだ……まさに税金の無駄遣い」
まったくだ。こんなことまで前世に似なくていいのに……。
「どちらも貴族……ですよね?」
「そうみたいね。うーん、あんまり期待できないかな」
『それでは! ラウンードワーン……』
「……だから意味ないでしょ、それ……」
『……ファイト!』
掛け声と同時に二人とも詠唱を始めた。
「我の中に眠りし力よ、今ここに炎となれ!」
「大地を潤し力よ、我に集いて形となれ!」
「≪火炎弾≫!」
「≪岩石弾≫!」
同時に放たれた魔術はお互いの力を相殺して消滅した。
「………えー………」
それを見ていたエイミアが、残念なモノを見たような反応をした。
「何であんなにゴニョゴニョ言う必要があるんですか?」
「あれが普通なの。無詠唱で魔術が使えるマーシャンが凄いのよ」
私だったら詠唱してる間にぶっ飛ばすわね。ていうか、また詠唱を始めたわね。
「うぬう、ならば! 闇を穿つ眩き流星よ! 汝の……」
「く、まだまだ! 母なる大地を覆いし深き緑の波よ! 我らと……」
何か中二病真っ盛りの言葉の羅列が……。
「聞いてるとお経にしか聞こえない……」
「おきょう?」
「古代語の呪文みたいなモノよ……すっごくありがたいモノなんだけどね」
え〜っと……四五分は経ったかしら。やっと終わったかな?
「……全てを燃やせ! ≪火炎波≫!」
「……全てを砕け! ≪岩石波≫!」
……ズドオオオン……
かなりな規模の魔術がぶつかり合った割に、微妙な破壊音と。
「ぶわっ! ごほごほごほ!」
「げほげほ!」
はた迷惑なホコリが舞った。
「ケホケホ……スゴいホコリ」
「へくし! 目にも入っちゃいました」
「久々に≪驚愕の手≫が役に立った」
ん? あ、なるほど。
スキルで顔全体を覆って、ホコリを防いでるのね。
「でも、私のスキルでそういうのは…………あ」
≪偽物≫があった!
よし、顔を包むように……よし! 完璧にホコリをシャットアウト!
ついでに空気もシャットアウト!
「……っていうか息できないわ!」
私は何をやってんのよ……ん? また何か唱え始めた?
「おおのおおれえええ! ならば私の最強の魔術だ! 世界を照らす太陽よ……」
「ちくしぃょうがあああ! 俺の切り札だああ! 広大な闇に抱かれし月よ……」
……たぶん一時間くらい詠唱かかりそうね。
「…どう? エイミア。攻撃魔術士対策は考えた?」
「……はい……詠唱中に殴る……でいいんじゃないんでしょうか」
ぴんぽーん。
実はこの世界では、魔術士相手にはそれでOKなのよ。
「だから闘武大会で魔術士が優勝することは無いのよ……さて、退散しましょうか」
そう言って私達が退散した一時間後。
どっっっかあああああああんんっっ!!
……二名ともKOで幕が降りた。
正直……エイミアの参考になったのかは……自信がないです。