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第七話 ていうか、第一試合はリジーが登場します!

 ぱんぱかぱんぱんぱんぱかぱんぱんぱーんぱんぱん♪


 ……今度はラッパのマークCMのアレか? この国のファンファーレはパクり(こんなの)ばっかなの?


『皆様、お待たせ致しました。第一試合を始めます!』


 あ、始まるみたいね。


「……何かこの試合までが、異様に長かった気がします」


 いや、実際に時間かかり過ぎだって。


「それにしても……私がここにいていいのか?」


 少し不安がって周りをキョロキョロするリル。何か迷子の子猫ちゃんみたいで可愛い。


「リルは私達のパーティの一員ということで、ちゃんと許可もらってるから大丈夫よ」


「そうなんだろうけど……」


 迷子の迷子の子猫ちゃん♪ あなたのお家は……わあ!?


「ちょっと! いきなり何すんのよ!」


「お前、何で私見てにやけてたんだよ!?」


 しまった、顔に出てたか。


「気のせいよ、気のせい。慣れない環境だから、ちょっと過敏な反応しちゃうんじゃない?」


「そ、そうかな……」


 よし、誤魔化せた。


『まずは東ゲートより……』


 あ、始まった。ていうか、そっち西だぞ。


『冒険者のリジーの入場です!』


 ぱんぱかぱーん……


 入場曲ありなんだ……あ、リジーが入ってきた。


 ぶーぶー!


「……何でブーイングなんですか?」


 アメリカのプロレスかっつーの。


「……たぶん、貴族以外は徹底的にヒール扱いにしてるんじゃないかな?」


回復(ヒール)?」


「あ、違う違う。悪役(ヒール)なんだけど……ん〜……悪者ってことよ」


「あ、なるほど…」


 それにしても、リジーは平然と歩いてるわね〜。


「ぶーぶー!」

「帰れ〜!!」

「ひっこめ〜!!」


 お? 流石にリジーも気になるのか、足を止めた。

 で。


「……べー」


 子供かよ! 煽ってどうする!


「うがー! ムカつく!」

「バカヤロー! 死ねー!」


 めっちゃ反応してるし!


『……激しいブーイングの中を潜り抜けて、今リジー選手がリングイン!』


 リングじゃねえし。


『続きまして……北ゲートより』


 北!? 何で北? 西の反対は東だろ!?


『栄えある帝国貴族の一番手! グリンスター伯メライヤ様のご入場でございます!』


 扱いに差がありすぎでしょ……って、あれ? 明かりが全部消えた。


 ボッボッボッ


 松明かしら? 道に沿って火が点いてく……。


 ジャジャジャーン!!


 うわ、オーケストラが出てきた!


「凄〜い!」


 エイミアはただただ喜んでるけど、わからなくはない。帝国の演出の担当者はかなりの腕なのだろう。


「なんかアメリカのプロレスみたい。私も好きだわ、こういうの」


「あ、あめ…?」


「気にしないで」


 前世にあった国よ。


「でもいつになったら相手選手が出てくるんです?」


「……こういうときは焦らすものなのよ」


 何か妙なところで前世との共通点があるのよね、この世界……。


「あ、出てきましたよ……ええ〜……」


『グリンスター伯メライヤ様、堂々たる入場です』


 堂々じゃなくてドスドスじゃないのよ……何よあれ!? あそこまで演出やっといて、出てくるのがアレ(・・)!?


「……」


 リジーが何か呟いたけど……はっきり『幻滅』ってわかったわよ……。


『帝国で一番の鞭の使い手であります! 開始と同時に相手の武器に絡ませて奪い取る戦法を得意としております』


 おいおい、いきなり手の内暴露しちゃって大丈夫なの?


『さーあ、ただいまリングイン!』


 だからリングじゃねえし。どっちかと言えば土俵入りだろ。


『非常に美しい女性が相手ではありますが……手加減無用! 完膚無きまでに叩きのめしてください、グリンスター伯!』


 言ったな。よし言ったな。


「リジーー!」


 私は騒がしい場内で、できるだけ大きい声を出した。


「司会のヤツもああ言ってるから、完膚なきまでに叩きのめしてやりなさいよーー!!」


 一応リジーには聞こえたらしく、口の動きで「わかった」と答えた。下の段に座ってる貴族らしき男達が私を睨みつけてくるけど、知ったことか。


「……何でサーチは、あちこちにケンカを売るんだよ」


「え? だってあの程度の連中なら、何かしてくるような度胸はないわよ」


「何で断言できるんだよ」


「私はハーティア公の推薦をうけてるし、〝飛剣〟の弟子らしいし」


「……お前、相当やけっぱちになってるな」


 そりゃなるわよ!


『ラウーンド、ワーン……』


 え? ラウンドがあるの?


『ファイト!』


 スタートの合図と共に……グリンスター伯だっけ? は司会の解説通りに(・・・・・)鞭をリジーの〝首狩りマチェット〟に絡ませた。


「ふふふ! 貴様の武器は封じたぞ!」


 へえ。鞭の扱いが上手いのは事実みたいね。


「うん。封じられた。で、後はどうするの(・・・・・・・)?」


「ふん! こうする……ふん! ふん!」


 一生懸命に鞭を引っ張る……何て言ったっけ……何とか伯。まったく微動だにしないリジー。正直この時点で、勝負は決まったようなもんなんだけど……。


「………」


 ちょっと可哀想になったらしく、大鉈を離してあげるリジー。飛んできた大鉈を必死で避けて、必死に鞭をほどく何とか伯。リジーはそれをぼんやりと見つめている。

 何だ、この構図。


「ふ……はあ、はあ、はあ……き、き、貴様の……武器を……奪ったぞ!」


 ワアアア!


 何故か盛り上がる観客。意味わからん。


「はあ、はあ、はあ……ど、どうだ! 降参か!」


 ……と叫んだ瞬間に、すでに勝負はついた。

 リジーは〝不殺の黒剣〟(アンチキル)を何とか伯の首筋にあてて立っていた。


「…もう一つ武器を持ってたんだけど……どうする? また鞭で奪う(・・・・・・)?」


「……降参します」


 何とか伯が両手をあげる。


『あ? あ〜……えっと……リジー選手の勝利です』


 ……シーーーーン……。


 ……何とも静かな勝利だった。



「やりましたね、リジー」


 エイミアに声をかけられたリジーは。


「……嬉しい……のかな?」


 と、複雑な心境を告白して、控え室に下がっていった。


「……まあ司会が何とか伯の攻撃方法を詳しく解説(・・・・・)した時点で終わってたわね……」


 あんだけ解説してくれれば、誰でも対策は考えつくわな……。



 おまけ。



 前日。

 リルがさんざん悲しい思いをさせちゃった防具屋を、私は見捨てることはできなかった。

 なので。


「……いらっしゃいませ……あ、昨日の……」


「昨日はうちのパーティメンバーが申し訳ないことを……あ、これつまらないものですが」


「あ、そんな。逆にすいません」


「私としてはリルのあれはやっちゃダメだと思うの」


「……はい……」


「だからさ……ゴニョゴニョ」



 で、今朝。


「……きいああああああ!!」


「きゃ! 何ですか!?」

「…たぶんリル姉…」


 ダダダダ! ばたんっ!


「おい、サーチ! これはどういうことだ!」


「ふぇ? ああ、それね。暴走羊(スタンピーシープ)の簡易鎧を改造(・・)してもらったのよ」


「か、改造だあ!? 何でこんなに短くなってんだよ!?」


「いやね、リルが昨日さんざん傷つけちゃった防具屋の子を、何とか元気づけようと思ってね。もう一回デザインし直してもらったのよ」


「傷つけたって……あ!」


「思い出した? 可哀想だと思わない? だったらあんたの嫌いなミニスカート(・・・・・・)にされても仕方ないわね」


「いや、それとこれとは……」

「可哀想よね?」

「だからさ、あの……」

「可哀想よね?」

「……………………はい」



 こうして。

 リルは再びミニスカートとなった(笑)

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