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第五話 ていうか「昔からトラブルメーカーじゃったのは変わらんの」マーシャン談。

 ザワザワ……


 一気に会場が騒がしくなった。さつきまでの貴族以外の紹介では、ほとんどしらけたような雰囲気になってたんだけど……。


“刃先”(エッジ)だと?』

『聞いたことはあったが……見るのは初めてだな』

『〝飛剣〟に肩を並べるほどの実力者なのに……』


 などと話しているのは、まだマシな反応。中には。


『誰も見たことがないような者が、本当に強いのか?』

『あの公爵が紹介するような者が信用できようか?』


 ……といったような公爵中傷まで飛び出し。

 止めに。


『ふん! 帝国貴族たる儂の息子の敵ではないわ! 名声を高める良い踏み台にしてもらう!』


 などという、身の程知らずな発言まで出てくる始末。そんな騒ぎが起こっている中……。


 ゾクリッ


 突然、空気が凍りついた。


「な、何よこれ!?」


 息が苦しく感じるほどの殺気が……! 実際に観客席にいる貴族達の中には、泡を吹いて気絶する者もいた。


『……静かにしていただけたようですね』


 そんな中、突然に声が響き渡った。こ、この声は……!


『私はヒルダという、貴族の皆さんに言わせると下賤(・・)な冒険者です』


 や、やっぱりヒルダさんだ。中央の魔術式拡声機が置かれた壇上に立っているのが見える。

 その姿は完全武装の冒険者姿……手には異名の〝飛剣〟の由来ともなっている、長大な飛剣(ブーメラン)が握られていた。


『私から言っておきます。〝刃先〟(エッジ)は強いですよ。私が本気で戦っても、勝率は五分五分でしょうね』


 観客席を見下すような視線で見渡すヒルダさん。怖いっす。


『私の強さをよーく知ってみえる帝国貴族の皆さんには、これでお分かりいただけますね?』


 観客席の貴族達は顔を真っ青にしていた。ヒルダさん……あんた帝国で何やったんだ?


『残念ながら今回私は出場しません。なので貴族の皆さんは安心してくださいね(・・・・・・・・・)?』


 あ。貴族全員ホッとした。空気が緩んだ。


『……ただし』


 あ、また凍りついた。


『私の代わりに弟子(・・)が出場しています。私が出場しないのはその為です』


 ザワッ


 また騒ぎ出した。

 そりゃそうだ。ヒルダさんに弟子がいたなんて聞いたことがないし、孤児院にいた私ですら全く心当たりがない。


『……公平を期す為に、誰が弟子かは公表しませんので……』


 おい、言えよ。

 めっちゃ気になるし、試合の度に疑心暗鬼になるのはイヤなんですけど。


『それでは私からは以上です……頑張ってね、サーチ♪』


 ………は?

 

 どよっ


 ……おおおおおおおおおおいいいいいいいいぃぃぃぃっっっ!!! 何してくれとるんじゃあああああああ!!!


「サ、サーチ……〝飛剣〟の弟子だったんですか!?」

「違うっ!」

「……サーチの強さの理由がわかった」

「断じて違うっ!」


『あれが〝飛剣〟の弟子……』

『成程……ハーティア公の推薦はその為か』

『とんだダークホースがいたものだ……』


 うわあああああん! 目立ちたくなかったのにいいいいいい!!



「ヒルダさああん! 何てこと言うんですかああああ!!!」


 すぐに会場を抜け出した私は、ヒルダさんを捕まえて文句を言う。


「……え?」


「え? じゃないですよおおお! 何で弟子だなんて……」


「ああ、あれね。私には弟子なんていませんよ。ただ、ああ言えば盛り上がるかな〜♪ と思って」


「じゃあ何で私が弟子みたいな言い方を!?」


「…………へ?」


 ……まさか。


「弟子が云々言ったあとに『頑張ってねサーチ♪』とか言ったでしょ!?」


「……え……あ、ああ! あれね! ちょうどサーチと目が合ったから、手を振りついでにコメントを……」


 やっぱりいい!! 単なる天然かよおお!


「あの状況下であんなこと言えば、誰だって私がヒルダさんの弟子だって誤解しますよ!!」


「……そうなの?」


「そーなんです!」


「……てへ☆」


 ……ぶちぃ


「ぶっ殺す」

「ちょっと? ちょっと待ちなさいサーチ? 何かしらこの殺気は? 落ち着き……」

「しゃああああああ!」

「……なさいって、セリフの途中で襲ってこないでー!」



『エイミアさんは十五番……第八試合ですね。続きまして、サーチさんお願いします』


 あ〜……サーチ、間に合いませんでした。仕方ないですから私が……。


「すいません、私が代わりに」


 ザワッ


 え!? ヒ、ヒルダさんが? サーチって、確かヒルダさんを探しにいったはずだったけど……?


『ひっ! ど、どうぞ!』


「三十一番です」


『は、はい! だ、第十六試合です!』


 出場するのが三十二人だから……最後の試合ですか。またまた騒然とした会場を颯爽と後にしようとしていたヒルダさんが、突然私に歩み寄って。


「……あなた達の控え室にサーチが転がってる(・・・・・)から、回収しておいてね」


 ……へ?



 昔のことだ。

 私もコンビを組んでいた時期があった。殺しの腕よりもサポートに適した相棒で……。


『待ってなさいよ。こんな電子ロックなんか一秒で開けられる』

『……はい、一秒』

『はい、開いた』

『うそおっ!?』


 ……という相棒だった。

 だけど……相棒との別れは突然だった。


『早く、逃げなさい!』


『バカ! あんたも逃げるのよ!』


『私には……無理』


『何言ってんのよ!? こんなケガくらい……』


『ちがうわ! ちゃんと現実を見なさい! あんたなら逃げられる』


 相棒は狭い隙間を指差して。


『あんたなら通れるはず。私は胸が邪魔で通れない(・・・・・・・・・)



「うっがああああああああああああっ!!!」



 ずどむっ!


「ぐっふうっ! ぐ、ぐえぇぇ」


 ん? ぐえ?


「きゃああああ! リルしっかりして! リルー!」


 あ……あれ?


「??? な、何が?」


「サーチ姉、目が覚めた」


「……リジー……私は一体?」


「〝飛剣〟に頼まれて」


 〝飛剣〟……ヒルダさん!?


「……あ、そうか。私、ヒルダさんにボコられたんだった……」


 キレて挑みかかったけど……たぶん数分でノックアウトされたと思う。


「そう。〝飛剣〟に言われて控え室に戻ったら、サーチ姉が床に転がってた」


 ゆ、床っすか。ヒルダさん、結構怒ってたのね……。


「で、何かうなされてるサーチ姉を心配して、リル姉がきた」


 リルが?


「で、いきなり叫んだサーチ姉に腹パンされて絶賛けーおー中」


 げっ!



 お腹を押さえたまま医務室へ運ばれていったリル。

 マジごめんね。


「それでなんですけど、ヒルダさんが代わりにくじを引いてくれまして、サーチは二日の最後です」


「一回戦の最後ね。わかった」


 何かヒルダさんに振り回されっぱなしなような気がする……。



 余談ですが。

 夢で出てきた前世の相棒。

 あの後ちゃっかり生き残り、二年後に寿退職しました。

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