第三戦。ていうか、スローライフ。
スローライフかぁ……。
ザクッ ザクッ
「ん? どうかしたかの、主殿?」
「いやあ……私にはできないなあって思ってね」
「? 何がだの?」
鬼場の中で野菜を栽培するオニコを見ながら、自分の生き方を考えたりしていた。
オニコの脅迫……もとい説得によって長老達が重い腰を上げると、精霊族が動き出すのはあっという間だった。今まで蹂躙されるだけだった一般人は強力な戦士となり、徹底抗戦を開始したのだ。それは退く一方だった精霊族は一気に盛り返し、イロハの大量虐殺によって浮き足立っていた人間側の戦線は大きな後退を余儀なくさせるほどの勢いだった。
「最初っからこの勢いがあったら、精霊族はこんなにピンチにならずに済んだんじゃ?」
ツィツァの率直な疑問に、周りの精霊族から冷たい視線が向けられる。
「「「どうせ下僕だから」」」
「だから、違うんだって……あああ、どうやったら誤解が解けるんだよ」
知らんがな。自分で蒔いた種でしょうが。
「精霊族の皆さーん、私はあなた達を差別したりしませーん。生きとし生ける者、みな兄弟でーす」
「おおおっ、人間の見てくれなのに、我々を兄弟だと言ってくださるか!」
「私は獣人、オニコは鬼ババだから人間ではありませーん」
「……ならばその女は?」
再び視線が集まるツィツァ。
「魔術士ですから、人間の可能性大?」
ジロッ
「ひっ」
この状態で人間認定されたら、周りの精霊族からフルボッコ確定ね。
「じゅ、獣人かも」
「獣人には魔術は使えないのよ」
「うぐ…………で、でもサチだって魔術使えるじゃないか!」
私の場合は事情が特殊なだけで、実際に獣人には魔術は使えないのだ。
「何とか言ってくれ、サチ!」
「何とか」
「っ……!」
「ていうか、私の場合は説明しようにも事情が複雑すぎて……」
「そ、そうなんだよ! あたいも複雑で」
ウソつけ。
『複雑じゃと言うなら、ワシが直接見てやろうか?』
そんなことを言っていると、腰が重い長老の一人・木の長老がやってきた。うん、人面樹。
「おお、長老様が!」
「長老様自らご出陣ですか!」
「これはあっという間に解決ですなぁ!」
腰が重い割にはみんなに頼られてるわね。
「これであまり働かない長老が使えるぜ!」
「ビシバシコキ使ってやるぜ!」
「一日は二十四時間あるんだぜ!」
「どうせ生い先短いんだ、死ぬまで働かせろ!」
前言撤回。まったく慕われてないわ、うん。
「ど、どうやって確かめるの?」
『ワシら木の一族の種族スキルは≪吸引≫じゃ。それは記憶にも使えての』
「待って。そのスキルを使って、私の記憶を吸い出すつもりなの!?」
吸い出されて記憶なくなっちゃったら最悪じゃないの!
『いやいや、頭の記憶では無く身体の記憶じゃ』
身体の……記憶?
『身体を構成しておる捻れを調べてのう、出自を割り出せるのじゃ』
つまりDNA解析!? スゴいスキルじゃないの!
「だけど実用性皆無じゃね?」
『いやいや、敵対種族の弱点を調べられるのじゃ』
なるほど、DNAレベルで弱点を調べられるのは確かに便利ね。
「ならやってもらいましょうよ。何をすればいいの?」
『別に何もせんでええ。ワシに身も心も任せてしまえばいいのじゃ』
やーらしい言い方ねえ。まあいいけど。
「なら私から試してみてよ。私は自分が何者なのかちゃんと把握してるから、長老のスキルが正しいかどうか判定できるわ」
『ふむ……別に良いが』
「サチ、なら頼む。あたいは自分が何なのか、よく理解してないんだ」
「へ? ご両親は?」
「あたいは孤児だよ」
あらら。そりゃ自分が何なのか、知りようがないわね。
「わかったわ。なら私が最初に試してあげる」
『ふむ。ならば始めようかの…………脱ぐが良い』
は?
「な、何を?」
『着ているモノじゃ』
は、はあああ?
「いきなりのセクハラ発言かよ!」
『必要な事なのじゃ。着ているモノが駄目になってほしくないじゃろ』
うっ。ビキニアーマーをダメにされたら、この大木焼き払う。
「わ、わかったわよ……ていうか、関係ないヤローどもは失せろ!」
私の怒声で男性陣が退散する。それから私はビキニアーマーを脱ぎ捨てた。
「これでいいの?」
『うむ。ではいくぞ』
しゅるるっ
ツタが伸びてきて、私の両手両足を……って、ちょっと!?
「何でエロアニメの触手シーンの定番みたいな格好させられるのよ!?」
『いや、それは抵抗できぬように』
抵抗できぬようにって……。
『よし、そおれ』
「え、ちょ、待っ【いやあん】ん!」
ここからはもろ未成年禁止内容なので、中略します。ご了承ください。
『よし、わかったぞ』
「………………」
し、調べるのに一時間……一時間も【いやん】しなきゃなんないのかよ……。
『ふむ……お主は鳥の因子が混じっておるのう』
「……正解」
『異世界の因子もあるのう』
「……正解」
『蛇の因子を植え付けられておるな』
「正解……って植えつけ!?」
『経験人数は三けぐぎゃあ!』
「経験人数は遺伝子情報と関係ない!」
思わずオノを幹に突き立てちゃった。てへ。
『で、どうじゃった?』
「そうね、全部正解だったわ」
『そうではなく、ワシのテクニぐああああっ!』
それは関係ないでしょ! 切り倒すぞコラ!
「さて、次はツィツァの番ね……あれ、ツィツァ? ツィツァは?」
「チタハントーなら逃げた」
逃げた!?
「あんなのと【いやん】するのは嫌だーって、泣いて逃げたです」
……わ、私の苦労は一体。
ザクッ ザクッ
「うーん……」
「……さっきから何なのだ、主殿。ワシが畑仕事しておるのがそんなに珍しいか?」
「いんや、別に」
やっぱ私にはスローライフはムリだわ。
「はあ……木を全部切り倒したい」
「はあ?」
植物見る度にあのDNA解析を思い出してしまう……大木エロ長老、絶対に焼き払ってやる。